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16話 クーデター



『臨時ニュースをお伝えします。


昨日発生したアレス公国第二王子サミュエル・アレス殿下によるクーデターは、本日未明に終結しました。


サミュエル殿下が王都を制圧し、現在は全域を掌握しています。


なお、国王夫妻と第一王子カミーユ殿下は行方不明となっており、捜索が続けられています』


「やっとクーデターを起こしたのか、あの第二王子」


シオンはトーストをかじりながらテレビを見つめた。


「クーデター?」


「王様と兄貴を追放したってことだ。お前たちをこの世界に呼んだ王子が、その兄貴だな」


「ふーん……」


「これで少しは国もマシになるんじゃねぇか?」


僕はブルーベリージャムをパンへ塗りながら、なぜか胸騒ぎがしていた。


その頃。


夜の荒野を三人の男女が必死に走っていた。


「くそっ!なぜ俺様がこんな目に!」


カミーユ王子は息を切らしながら悪態をつく。


「カミーユ。あなたさえ生きていれば、いくらでもやり直せます」


王妃は息子の肩を支えながら必死に励ました。


「フレナリア帝国まで逃げ切れば、お父様が必ず力になってくださるわ!」


「おい、あれを見ろ!」


国王が震える指で前方を指した。


荒野の真ん中に、一軒の白い家が建っている。


青い屋根。


庭にはオレンジの木とブランコ。


横には屋根だけの建物が二つ。


窓からは暖かな明かりが漏れ、楽しそうな笑い声まで聞こえてくる。


「子供だけの家か」


三人は顔を見合わせ、意味ありげに笑った。


「食料も金もあるだろう」


「ちょうどいい。ここを使わせてもらうぞ」


カミーユは剣を抜き放ち、勢いよく玄関を蹴り開けた。


「お前たち! 大人しく」


ズガァァァン!!


玄関から青白い雷が走る。


「ぎゃあああああっ!!」


カミーユの体は一瞬で黒焦げとなり、その場へ倒れ込んだ。


「カミーユ!」


「いやぁぁぁ!」


王妃は泣き叫びながら息子へ駆け寄る。


「ひぃぃぃ!」


国王は恐怖のあまり、転がるように家から逃げ出した。


「……また侵入者か?」


家の中ではシオンがため息をつく。


「『せいちゃん』」


一言だけ声をかける。


『せいちゃん』は静かに祈りを捧げた。


柔らかな緑色の光がカミーユを包み込む。


黒焦げだった肌が元に戻り、止まっていた心臓が再び鼓動を始めた。


「……う……母上?」


「カミーユ!」


王妃は涙を流しながら抱きついた。


僕は首をかしげる。


この人たち、何なんだろう?


王妃は立ち上がるなり僕たちを鋭く睨みつけた。


「無礼者!王子をあんな目に遭わせるなんて、神への冒涜よ!」


シオンは面倒くさそうに肩をすくめる。


「『まーくん』」


『まーくん』が杖を軽く振る。パッ。王妃と国王、王子の姿は一瞬で消え去った。


家の中には静寂だけが残る。


「……本当に何だったんだろう?」


僕は首をひねるしかなかった。



「処刑よ!」


王宮には王妃の怒鳴り声が響いていた。


「ほう。処刑、ですか」


静かな声が返ってくる。


「こんな状況でも考えは変わらないのですね、母上」


「サ、サミュエル!」


サミュエルは静かに剣を抜いた。


「三人を牢へ!」


「はっ!」


騎士たちが夫妻と王子を拘束する。


「なぜ……なぜお前がここに!」


「父上、自分たちから王都へ戻って来てその質問ですか?」


サミュエルはため息をついた。


「兄上はどうされました?元気がないようですが」


「わ、私たちは、さっきまで荒野の白い家に……」


「荒野の白い家?」


近くにいた騎士が一歩前へ出る。


「恐らく最近海底神殿を攻略した『黒の人形使い』たちの家かと思われます」


「ああ、あの噂の子供たちか」


サミュエルは苦笑した。


「強盗でも働こうとして追い返されたのでしょう」


「二か月も前に召喚されたという話です。奴隷の子供が荒野に家を建てられるとは思えませんが……」


別の騎士が首をかしげる。


「しかし団長」


さらに一人が口を開いた。


「『黒の人形使い』は魔術大国にも存在しない魔道具を多数所有しているとの噂です。


もし本当に異世界から召喚された勇者なら、不可能ではないかもしれません」


サミュエルは少しだけ考え込み、静かにうなずいた。


「奴隷であれ勇者であれ、兄上に召喚された被害者である可能性はある。


一度会って話をしてみよう」


「はっ!」


騎士たちは敬礼した。


サミュエルは遠くを見つめ、小さく息を吐く。


「……家族の尻拭いばかりだな」


その表情には怒りよりも、深い疲労の色が浮かんでいた。







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