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15話 『暁の塔』



海底神殿攻略から一週間。


僕たちは、行方不明者捜索依頼の報告をするため、荒野の塔の冒険者ギルドを訪れていた。


「お前ら、本当によくやってくれた!」


ギルド長は満面の笑みで、ずっしりと重そうな革袋をテーブルへ置く。


「これが依頼達成の報酬だ。受け取れ」


「おう、確かに頂いたぜ」


シオンは革袋を持ち上げ、そのまま手提げ袋へしまった。


「ハハハ! また何かあったら頼むぜ!」


「二度と受けねぇよ!」


バンッ!


勢いよくギルドの扉を閉める。


「Cランクが受ける依頼じゃねぇっての!」


シオンは大きくため息をついた。


その後、留守番をしていたユカリのために本屋へ寄り、新しい絵本を買う。


三十分ほど車を走らせ、自宅へ戻ると。


「あはは!」


ユカリの楽しそうな笑い声と、男女数人の話し声が家の中から聞こえてきた。


僕とシオンは顔を見合わせる。


まさか、誰か侵入したのか?


僕が静かに扉を開けると、シオンが勢いよく中へ飛び込んだ。


「誰だてめぇら!」


「お、兄貴のお帰りか」


鎧を着た短髪の男性が、気さくに手を振る。


テーブルにはユカリが座り、その向かいには冒険者らしい三人男が二人、女性が一人いた。


「あんたら……『暁の塔』か?」


シオンが剣を鞘へ戻しながら尋ねる。


「見ていたぜ、お前たちの活躍を」


そう口を開いた瞬間、青いローブ姿の女性が勢いよく立ち上がった。


「神殿の入口に仕掛けられた魔法陣の呪いを一目で見抜き、何千人もの人を蘇生させ、魔物を一瞬で葬る魔法使い! 魔術大国の魔導士たちでさえ驚愕したと聞いて、一度お会いしたかったの!」


続いて、白銀の鎧をまとった白髪の老人が豪快に笑う。


「オークやゴーレムの大群、アンデッドキングまで退けた強者と語り合いたくてな!」


最後に短髪の男性が苦笑した。


「親父と妹が騒がしくてすまない。だが、命の恩人がこんな若い冒険者……いや、人形使いだったとは思わなかったよ」


「お、お茶も出さずにすみません!」


僕は慌ててウーロン茶をコップへ注ぎ、三人へ差し出した。


老人はグエルさん。


短髪の男性はノエルさん。


青いローブの女性はミネルさんというらしい。


「ほう、不思議な味じゃのう」


グエルさんは一気に飲み干し、満足そうに笑った。


「もう一杯頼む!」


「はい!」


おかわりを注ぎながら席へ着く。


「ユカリちゃんから聞いたわ。あなたたち、本当に大変だったのね」


……ユカリ、まさか全部話したの?


「まったく、あの馬鹿王子はろくなことをしない」


ノエルさんがため息をつく。


「王子のことはよく分かりません。でも、ここへ来られたのは王子のおかげなので、僕は感謝しています」


一瞬だけ場が静まり返る。


しかし、その後は旅の思い出や冒険の話で大いに盛り上がった。


歴戦の冒険者たちの話は、どれも胸が躍るものばかりだった。


いつの間にかシオンはグエルさんと意気投合し、剣を教えてもらう約束までしている。


「実はユカリちゃんにお願いがあるんだけど、いいかしら?」


ミネルさんが身を乗り出した。


「なに?」


「『まーくん』と魔法勝負させて!」


「なら俺は『けんくん』だな」


ノエルさんが笑う。


「ワシもじゃ」


「爺さんは俺に剣を教える約束だろ!」


「おお、そうじゃった!」


みんなが笑った。


最初は『まーくん』対ミネルさん。


危険なので、僕たちは家の中から見守る。


「ストーンウォール!」


巨大な土壁が現れ、『まーくん』を閉じ込める。


しかし次の瞬間。


ドォォォン!!


轟音とともに土壁は粉々に吹き飛んだ。


「これでも駄目なの……?」


ミネルさんは表情を引き締める。


無数の石の短剣が空中に浮かび上がった。


「ストーンナイフ!」


ザガガガガガッ!!


石の短剣が雨のように降り注ぐ。


砂煙が晴れると、『まーくん』の前には魔法陣が展開され、すべての短剣が空中で静止していた。


「……嘘」


短剣は渦を巻き、一つの巨大な槍へと変化する。


さらにその槍は、何百本もの槍へ分裂し、空一面を覆った。


「う、嘘でしょ……」


無数の槍がミネルさん目掛けて降下する。


「降参!降参!降参!」


槍は彼女に触れる寸前でぴたりと止まり、光となって消えていった。


「次は俺だ」


続いてノエルさんと『けんくん』の勝負。


先に動いたのはノエルさんだった。


身の丈ほどある大剣を振り下ろす。


ガキィン!


『けんくん』は炎をまとった剣で受け止め、そのまま剣を滑らせるように間合いへ潜り込み、一閃。


ノエルさんは咄嗟に後方へ飛び退く。


それからもしばらく激しい攻防が続いた。


「手加減してるのか!」


「本気で来い!」


叫ぶノエルさん。


『けんくん』は静かに剣を鞘へ納め、居合いの構えを取る。


ノエルさんが雄叫びを上げて踏み込む。


「おおおおおっ!」


剣が届く、その瞬間。


『けんくん』の姿が消えたように見えた。


次の瞬間には、ノエルさんの背後に立っていた。


ノエルさんはゆっくりと振り返り、苦笑する。


「……俺の負けだ」


鎧には、横一文字の斬撃跡がくっきりと刻まれていた。


「次は俺だ、爺さん!早く剣を教えてくれ!」


「そう焦るな。まずはお前さんの剣を見せてみろ」


「おう!」


「ワタル、お前たちは先に昼飯でも食っていていいぞ」


「ふふっ、分かった」


シオンは本当に剣士へ憧れているんだな。


嬉しそうな横顔を見ていると、自然と笑みがこぼれた。


稽古は夕方まで続いた。


「今日は本当に楽しかったです。いろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございました」


「こちらこそ、『けんくん』との勝負は勉強になった」


「剣術大会の話、最高だったぜ! 俺もいつかフレナリア帝国の大会で優勝してやる!また剣を教えてくれよ、爺さん。『せいちゃん』がいるから手加減はいらねぇ!」


「お前さんは筋がいい。また会えたら稽古をつけてやろう」


二人は固く握手を交わした。


「ユカリちゃん!今度会ったらまた『まーくん』と勝負させてね!」


「うん!今度も負けないよ!」


僕たちは三人の姿が見えなくなるまで見送った。


危険なのも、怖いのも嫌だ。


それでも。


僕もいつか、『暁の塔』のみんなのような立派な冒険者になりたい。


そんなことを、少しだけ思った。




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