13話 イカ、タコ、タカ、ワシ
夜の七時半。
空の入り口へ続く長い列もようやく落ち着いたが、今日はもう進めそうにない。
夕食はカレーライスだ。
気絶したままのシオンが少しかわいそうだったので、大好物を用意することにした。
一方、ハルさんは相変わらず一人で何かをぶつぶつ呟いている。
結局そのままお風呂に入り、明日に備えて早めに眠ることにした。
◇ ◇ ◇
翌朝。
「やっと次のダンジョン?」
ユカリが嬉しそうに体を揺らす。
「そうだよ。列も落ち着いたからね。次は僕達の番」
僕はドールハウスを収納した。
「また飛行機乗りたい!」
「車でいいだろ」
シオンがうんざりした顔で言う。
「ハルさん。出発しますよー!」
「…………」
返事はない。
「放っておけよ」
シオンが興味なさそうに肩をすくめる。
「そういう訳にはいかないよ」
僕はハルさんの肩を軽く叩き、もう一度声を掛けた。
「ハルさん、出発しましょう」
「ハルー!行くよー!」
ユカリが両手を口に添え、耳元で大声を出す。
「わっ!」
「びっくりした!」
ハルさんは飛び上がるように振り返った。
「あれ?みんなは?」
辺りを見回し、不思議そうに首を傾げる。
「もう次の階層に行ったよ」
シオンがあくび混じりに答えた。
「あ、飛行魔道具で気絶していた君。もう大丈夫かい?」
「う、うるせぇ!俺は寝てただけだ!」
心配してくれた相手にムキになって言い返すシオン。
格好悪い。
「ああ……また自分の世界に入ってたのか。みんなに置いていかれちゃったみたいだね」
ハルさんは苦笑しながら頭をかいた。
「出口は同じなんだろ。最後には追いつけるさ」
腕を組んだシオンが言う。
四人で台座に乗ると、足元から紫色の光が溢れた。
視界が真っ白に染まり。
光が消えた瞬間、僕達の目に飛び込んできたのは、巨大な魔物の群れが街を襲う光景だった。
巨大なタコ。
巨大なイカ。
全身が棘に覆われた魚。
空には鷹や鷲のような魔物が無数に飛び交っている。
兵士や冒険者達は必死に応戦していたが、あちこちから悲鳴が響き渡っていた。
「な、何だこれは!?」
ハルさんが険しい表情で右手にはめた指輪へ呼びかける。
「ミゲル!応答しろ!どこにいる!」
しかし返事はない。
「まーくん!空にはライゲキ!海にはヒョウケツ!」
ユカリが元気よく叫ぶ。
ズガガガガァァァン!!
次の瞬間、空を覆い尽くしていた魔物達の頭上へ無数の雷が降り注いだ。
飛行していた魔物達は次々と撃ち落とされる。
バキッ!
バキバキバキッ!!
続いて海から押し寄せていた巨大な海洋魔物達が、一瞬にして氷漬けになった。
あまりの魔法の威力に、戦っていた兵士や冒険者達は思わず武器を下ろし、その場に立ち尽くす。
「相変わらずとんでもねぇな」
シオンが呆れたように呟く。
その時だった。
「ジ……ジジ……ハ、ハル王子……」
指輪から途切れ途切れの声が聞こえてきた。
「王子!ミゲルです!応答お願いします!」
「ミゲル!無事か!?」
ハルさんの表情が明るくなる。
どうやら仲間達は生きているようだ。
「まーくん、テンイマホウを出してあげて」
ユカリがお願いすると、まーくんは杖を軽く振った。
ハルさんの目の前に、黒い魔法陣が静かに展開される。
「これは……転移魔法!?」
ハルさんは驚きながらも迷わず魔法陣へ飛び込んでいった。
その姿は一瞬で消える。
「ダンジョン、もう終わり?」
ユカリが首を傾げる。
「俺達は先に進もうぜ」
シオンが言った。
「ハルさん達のことは気になるけど……そうだね。こんな所、早く攻略して帰ろう」
正直、僕は足がガクガクだった。
スマホで地図を確認する。
「次の入り口は……海の中、みたい」
「海の中ぁ!?」
シオンが顔をしかめる。
「何でこんな面倒くせぇダンジョンなんだよ!」
悔しそうに地団駄を踏む。
「まーくん、何度もごめんね。次の階層への入り口まで、海を割ってくれる?」
まーくんは親指を立てると、杖を両手で高く掲げた。
そして勢いよく地面へ突き立てる。
バキィィィィン!!
氷漬けになっていた海洋魔物達が砕け散る。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
地鳴りとともに海面が大きく震え、左右へとゆっくり割れていく。
ザザザザァァァ――ッ!
海底へ続く一本の道が姿を現した。
「よし、行こう!」
僕達は車に乗り込み、海底に現れた道を走って次の階層への入り口を目指した。




