11話 トランスフォーメーション
眩い光が消えた。
そこは宇宙だった。
頭上には、息を呑むほど美しい満天の星空。
足元には鏡のように静かな水面がどこまでも広がり、その星空をそのまま映し出している。
水平線さえ分からなくなるほど、空と海の境界は溶け合っていた。
「……きれい」
思わず言葉が漏れる。
僕たちはしばらく、その幻想的な景色に見入っていた。
だが。
「……」
地平線いっぱいに、人が倒れている。
鎧を着た冒険者。
魔法使い。
兵士。
種族の違う者たちまで、まるで眠るように横たわっていた。
その異様な光景に、背筋が寒くなる。
ユカリが不安そうに僕を見上げた。
「……しんでる?」
「まだ分からない」
「ユカリ」
「せいちゃんに、みんなを起こせるか聞いてみて」
「うん」
ユカリは聖女人形を両手で抱き上げる。
「せいちゃん」
「みんなを起こしてあげて」
せいちゃんは少し考えるように首をかしげる。
そして優しく微笑み、小さく頷いた。
両手を合わせ、静かに祈り始める。
じわり。
額に汗が浮かぶ。
「がんばれ!せいちゃん!」
ユカリが一生懸命応援する。
次の瞬間。
パァァァァァッ……
せいちゃんを中心に、優しい緑色の光が一面へ広がった。
やがて祈りを終えると、小さく息を吐く。
『ふぅ』
そして親指を立て、満面の笑みを見せた。
「できた!」
そんな風に言っているようだった。
しばらくすると。
「……うぅ」
「ここは……?」
一人。
また一人。
倒れていた人々が目を覚まし始める。
しかし誰もが状況を理解できず、困惑していた。
その時だった。
「うわああああ!」
「あああっ!」
あちこちで悲鳴が上がる。
バチバチバチッ!!
ズガァァァァン!!
雷鳴のような轟音が響き渡った。
水面が大きく揺れる。
ぽちゃん。
何かが浮かび上がってきた。
「うわっ!」
「何だあれ!」
近くにいた冒険者が叫ぶ。
「マーマンだ!」
「マーメイドまで……!」
「全部死んでるぞ!」
足元を見ると、まーくんが両手を高く掲げていた。
『……今の雷、まーくんが撃ったのかな?』
どうやら、水中から近付いてきた魔物を先に倒してくれたらしい。
シオンは辺りを見回す。
「どうやら……俺たち助かったみてぇだな。」
倒れていたのは冒険者だけではない。
国ごとに違う鎧を着た兵士。
見たこともない法衣をまとった魔法使い。
僕たちより小柄な種族。
様々な人々が戸惑いながら立ち上がっていた。
誰もが状況を把握できず、辺りは騒然としている。
「放っておこう」
シオンが短く言う。
「今は自分たちのことが先だ」
「そうだね」
「みんなも混乱してるし……」
僕はスマホを取り出した。
「そうだマップ見られるかな?」
画面を開くと、現在地が表示される。
「あ、見られた」
「道は……ずっと真っすぐだ」
その時、僕は人混みを見て困った。
「車じゃ進めないな……」
ふと、ある機能を思い出す。
「そうだ、あれ試してみよう」
僕は二人を見た。
「シートベルト、ちゃんとしてね」
黄色いボタンを押す。
ガシャン!
車体が音を立てて変形を始めた。
タイヤが折り畳まれ、翼が左右へ展開する。
ブォォォォン!!
エンジンが唸りを上げる。
次の瞬間。
オープンカーは飛行機へと姿を変え、宙へ舞い上がった。
「飛んだぁ!」
ユカリが大はしゃぎする。
「……」
シオンは絶句していた。
五分ほど飛ぶと、広い四角い足場が見えてくる。
中央には大きな魔法陣。
「まーくん」
「次の階層は、あそこ?」
まーくんは首を横に振る。
そして杖を上へ向けた。
「……え?」
見上げると。
空に映る星空の中。
紫色に輝く、もう一つの足場が鏡のように映っていた。
「あっちなんだ」
まーくんは満足そうに頷く。
「よし」
ワタルは操縦桿を握る。
そのまま機体を急上昇させた。
「お、おい!」
「待て待て待て!」
後部座席からシオンの悲鳴が響く。
しかし、ワタルは構わず、星空へ向かって飛び続けた。




