第6話
あの男子高校生たちが言ったことは正しい。
私には恋愛の経験もないし、そういうこともしたことがない。
全部本やネットからの知識だ。
リアリティがないと言われても仕方がないし、そこを指摘されても別になんともない。――ちょっとは恥ずかしいけど。
バズるためにやって、その目論みは一定以上の成功をおさめたのだからそこは後悔していない。
問題があるとすれば――――。
「ユカPさん!」
ウルカちゃんの呼びかけを背中で受けつつ、私はスタスタと歩く。
「どうしちゃったんだよ。急に」
「…………」
「ユカPさん。待ってって」
「…………」
「…………宇崎ユカ!」
本名が叫ばれた。私の足は自然と止まった。
「やっと止まった。ユカPさん。どうしちゃったんだよ?」
ウルカちゃんは私の前に来て、心配そうに私の顔を覗き込む。
「あいつらが言ってたことなんか気にするなよ。なんなら今からでもどついてこようか?」
「……それはやめて。ウルカちゃん」
「ユカPさんの曲は素晴らしいって。恥ずかしくもなんともないよ」
うん。そこは大丈夫なんだ。自ら背負った業だもん。初めから覚悟している。
でもね。でも――――。
「ウルカちゃん。やっぱり別の曲にしない?」
「は、はぁ?」
私の提案にウルカちゃんは顔を歪ませて明らかに動揺したような表情になる。
「な、どうして? やっぱり嫌なのか?」
「…………うん。いや……か、な……」
「そ。そうか……嫌か。そうだよな……」
「あ、でも。ウルカちゃんの声は本当に素敵だと思う。
だから私の曲じゃなかったら……全然。録音ももう一回付き合うから……」
「いや。それだったら意味がないから。うん。諦めるよ。あと脅したのもごめん。まさかそこまで嫌だとは思わなかったから」
「い、いや。それは良いんだけど……諦めるって……もったいないよ」
せっかくの歌声。こんな素敵な歌声を持っているのに。
私の曲なんかで諦めていいはずがない。
「うん。でもユカPさんは嫌なんだろ? これ以上迷惑かけたくないし」
「それは私の曲だったらって話だよ? 他の曲だったら……」
「けどそれじゃあ意味がないって言ってるでしょ?」
「でも……私の曲は! ウルカちゃんは知らないかもしれないけど、私の曲はエッチで恥ずかしくってリアリティの欠片もない曲なんだよ!?」
我慢していたのに、話し始めたら一気に堰を切ったように思いが溢れてきてしまった。
「そんな曲をウルカちゃんが歌うのはやっぱりダメだよ……将来絶対後悔する!
今は知らないから配信してもいいって言っているかもしれないけど、歌詞を知ったらやっぱり無理って思っちゃうよ。
コメントであることないこと色物みたいに言われて、変なDMが届いて……ウルカちゃんが辱めを受けるなんてそんなのダメだよ。
だから――!!」
「……歌詞のことはもう知ってるよ」
「え……?」
「調べたからね」
ウルカちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめて、私から目を背ける。
「……まさか歌詞が、その、全部エッチな意味だったなんて思わなかったけど……」
その言葉に私の顔も真っ赤に染まる。でもここで怯んではいけない。
「じ、じゃあ……!」
「それでも!」
ウルカちゃんは私の言葉に被せるようにそう叫ぶと――。
「やっぱり私はユカPさんのことが好きなんだよ!」
「――ッ! き、曲の話だよねッ!?」
何も着せないド直球の言葉に私はまた赤面してしまう。
しかもここは大通り。通行人がウルカちゃんの大胆な告白に振り返った。
ウルカちゃんは私の方に距離を詰め、私の肩を両手でガッと掴み引き寄せた。
(ち――近いッ!!!!)
近くの通行人たちがざわつくのがわかった。
「今更、他人からどう思われようと関係ない!
ユカPさんはすごい! かっこいい! 天才! 超すごい!」
(語彙力……!)
「要するに、最高の曲と歌で、誰にも冷やかされないくらい圧倒すればいいんだ。
ユカPさんがすごいって、私が世に知らしめてあげるよ」
「――ッ!!」
それはウルカちゃんの歌を初めて聞いた時に、私がウルカちゃんに対して思った言葉だった。
まさか同じようなことを思っていただなんて。
私の目からは自然と涙がポロポロと落ちてきた。
「……どうしてそんな……?」
「言ってるでしょ? ユカPさんが好きだからだよ」
「――曲の……話だよ……ね?」
視界が滲む。
私の曲は、ほとんどが冷やかしでバズってると思っていた。
送られてくるDMもコメントもだいたいがそうだったから。
だからこんなにも愛してくれる人がいるなんて知らなかった。
ようやく私は理解した。ウルカちゃんが本気だったということに。
ただ『好き』という言葉だけで、こんなにも勇気が出てくるなんて知らなかった。
「だからユカPさん。私と一緒に世界を圧倒しようよ」
私の曲を推してくれるウルカちゃんに応えたい。
最高の歌と曲に仕上げよう。
私も覚悟が決まった。
――私は静かに頷いた。




