第64話 「風呂カフェ・いこい」オープン!
それから数ヶ月が経過して、「風呂カフェ・いこい」がオープンした。
私は最初の一週間だけ様子を見るために、私も「いこい」の手伝いに借り出されている。
オープンしてから数日経つけれど、売り上げは上々。今のままなら、お兄様から出された条件を達成することができそうだわ。
社交界で話題になっているとはいえ、風呂カフェはまだまだ知名度が足りない。そんな中で人を呼び込めたのは、やっぱりお兄様の「愛され姫物語」とのコラボがあったからだ。
「お風呂には興味ないけど、物語で登場した料理は食べたい!」という人が店にやってきてくれた。
さらに、数種類ある書き下ろしのミニ小説カードは料理一品ごとのランダム配布にしたので、それをコンプリートするために何回も店に来店してくれるお客さんも結構いた。
最初は料理目当てだったお客さんたちでも、初めてお風呂に入って感激した人も多いみたいで、「コラボが終わってもまた来たい」と言ってくれる人も少なくない。
元々「風呂カフェ」の噂を聞いていて、来店してくれた人も合わせると、かなりの人数が風呂カフェを利用してくれている。
「店員さーん! こっちの注文お願いしまーす!」
「はいはーい!」
私が注文を集めていると、後ろで店が開く音がした。新しいお客さんかしらと思って振り向くと。
「リディアさん。アレクセイ様を連れてきたよ」
「ふん。俺は行きたくないって言ったんだがな」
「ユーリさんにお兄様! いらっしゃい!」
そこには、ユーリさんとお兄様がいた。お忍びで来たらしく、二人とも地味な格好をしている。
ユーリさんはわざわざユードレイスから駆けつけてくれたみたい。それにしても、お兄様を連れ出してくれるとは……。
「ユーリさん、どうやったの? 庶民的なお店を嫌うお兄様を連れてくるなんて」
「前に王都に滞在していた時から、アレクセイ様とは少しずつ話していたんだ。その時に王家の成り立ちと歴史について見解が一致して、そこから少しだけ気軽に話す仲になって」
「へぇ〜!」
「今日も少し話したら、すぐに来てくれたんだ。自分の小説のコラボフードがどうなっているか気になりませんかって聞いたら、一発だった」
ユーリさんってすごい。これで私が誘ったりなんてしたら、絶対に来てくれないな決まってるもの。
前に誰にも話したことのなかった過去の話を、彼に話してしまったことがあるけれど、ユーリさんには心を開いてしまう魅力みたいなものがあるのかもしれない。
「それじゃあ、アレクセイ様をお風呂に連れて行くから」
「は⁈ 俺は別に……」
「はーい。じゃあ、行ってらっしゃーい!」
私はユーリさんと協力して、お兄様を男湯に押し込んだ。確か、お兄様はいつも水浴びだけでお風呂に入ったことはなかったはずだ。初めてお湯に浸かった時の感覚、感動を味わうといいわ……っ!
数十分後。ユーリさんとお兄様は頰を上気させて出てきた。
「どうだったかしら、お兄様?」
私がニヤニヤしながら聞くと、お兄様はふんとそっぽを向いた。
「まあまあだな。毎日入るほどのものではない」
そう言い残して、お兄様は飲食スペースへと行ってしまった。ユーリさんがクスッと笑って、私に耳打ちをする。
「ああ言ってるが、アレクセイ様、風呂に入っている時は“幸せだ”って呟いてたんだ。すぐに誤魔化してたが」
「あら」
私達は笑い合う。
思わず「幸せ」って呟いてしまって誤魔化すお兄様って、かなり面白いわね。
その後、お兄様はコラボメニューの“護衛騎士が作ったショコラケーキ”を頼んでいた。
物語の説明をされている時はあんなに恥ずかしがっていたのに、なんだかんだ言って食べたいのねぇ。私がニヤニヤしていると、お兄様に睨まれてしまった。いけないいけない。
ユーリさんは通常メニューの“「いこい」のひだまりパフェ”を頼んでいた。
私は完成した料理を運ぶついでに、お兄様に話しかける。
「お兄様。風呂カフェ、癒されますよね? こんなに素敵な店が潰れたら嫌じゃないですか?」
「……ぐっ、だが……」
その時だった。
「おいおーい。このカードになんの価値があるんだよ。というか、知らない小説のコラボフードとか興味ねぇんだけど〜!」
店内でひときわ大きい声が響いた。




