第63話 お兄様、瀕死
それから数日が経過した。お兄様からコラボの許可をもらったので、「風呂カフェ・いこい」の店長を務める人とお兄様との三人で打ち合わせをすることになった。
「く……っ! なぜ俺がこんな……っ」
「はいはい。お兄様は大人しくしていて下さい」
お兄様は大変屈辱そうにしていたけれど、適当にあやしておく。あの光景を見た私に怖いものなどないのよ。
「“いこい”の店長を任されました、マークです。よろしくお願いします」
「リディアよ。よろしくね」
私達の視線がお兄様に集まる。お兄様は嫌そうな顔をしながら口を開いた。
「……さ、作家のクレアだ。今日はよろしく。ちなみに俺がクレアということは他言しないように」
「はい。もちろんです」
「絶対だぞ」
若干顔を赤くしているお兄様に苦笑しつつ、私は話を続けた。
「お店では前に提案したメニューに加えて、一週間限定で何品かコラボメニューというものを提供しようと思っているの」
「ちなみに、それは一体どのような……?」
「そうですね。カフェのコンセプトを失わないながら、作品を彷彿とさせる品がいいから……」
私はお兄様のロマンス小説『愛され姫物語』を取り出した。急にお兄様がむせ始める。
「社交界で人気を博しているこの物語には、クラシックショコラケーキが登場するシーンがあるの」
「ゲホッゲホッ」
「あ、知ってます! 僕も読んだことあるので! 舞踏会で失敗して落ち込んでいる主人公の姫様を励ますため、護衛騎士が初めてのお菓子作りにチャレンジするんですよね!」
「そうそう! 初めての料理に苦戦して、火傷したり指を切ってしまったりするのよね。でも、姫様のために懸命にお菓子を作る……という名シーンよ!」
「グ……ッ、ガハッ」
「それで、その後、姫様が傷だらけになった護衛騎士の手を握って、“バカ……。でも、ありがと”ってツンデレを発揮させるシーンも含めて、キュンキュンしましたよね〜!」
「ね〜!」
「ハァ……ハァ……ッ」
私たちが意気投合していると、お兄様が恨みがましげな目をこちらに向けてきた。
「お前ら……俺を殺すつもりか……っ」
流石に目の前でシーンを説明されるのは恥ずかしかったみたいだ。
私はお兄様の名誉のために、慌てて話を戻した。
「その時のショコラケーキをイメージした品を出したいと考えているの。どうかしら?」
「他のメニューで使う材料で作れそうですし、いいと思います。メニュー名はどうしましょうか?」
「そうね……。シンプルに“護衛騎士の手作りケーキ”がいいと思うわ」
「分かりました! それじゃあ、他のメニューは……」
という感じで、一週間限定で作品内に登場した料理を数品提供することが決定した。その話し合いの最中、お兄様は瀕死の表情を浮かべていた。かわいそうに。
「それじゃあ、このような感じでクレア先生は大丈夫でしょうか?」
「あ、あぁ……大丈夫だ……」
「あと、お兄様にお願いしたいことがあるんです!」
「……なんだ?」
「コラボメニューを注文した時の特典として、クレア先生の書き下ろしミニ小説を付けたいんです。そのための小説を何個か書いて欲しくて……」
私の言葉に、お兄様が強くこちらを睨みつける。
「それで? それをして俺になんのメリットがあるんだ」
「え? あの時の光景を忘れてあげるという……」
「ダーーーーッッッ! 分かった! 書けばいいんだろう、書けば!!」
「ありがとうございます」
私はニコリと笑った。お兄様は忌々しげに舌打ちをする。
「このくらいで勝ったと思うなよ。いくらお前がそのネタで強請ろうとも、俺はお前に出した条件を取り下げるつもりはないからな」
「もちろん。勝負は勝負ですから。大丈夫です。絶対に勝ってみせますから」
私はニコリと微笑んだ。よし。今回の王都帰省で準備は整った。あとはオープンを待つばかりよ!
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