第61話 まさかの正体
次の日。連絡をとったところ、すぐに私達は出版商会内に通された。
断られたばかりだと言うのに、ありがたい。
私とユーリさんは出版商会の中を案内の人と一緒に歩いていく。ユーリさんがコソッと私に話しかけた。
「リディアさんは、どうやって交渉するつもりなんだ?」
「そうね。もう一度、コラボした時のメリットを提示するわ。風呂カフェ内で本を売る場所を設ければ、商会の売り上げも上がるだろうってこととか」
「けど、一度断った以上は向こうも簡単には受け入れようとしないはずだ。何より、急に断ってきた理由も気になる」
「そこなのよねぇ。でも、王家サイドが圧力かけたとかは考えられないし……」
「……小公爵様側の策略という可能性はないか?」
「え? お兄様?」
ユーリさんの言葉に目を瞬かせる。
確かに、公爵家として融資しているのだから、次期当主であるお兄様にもある程度の発言権はあるのかもしれない。完全な盲点だった。
「でも、私だって公爵家の娘だし、力関係はそんなに変わらないはずよね? お父様は私の味方だし、お兄様の言うことを聞く理由って何かしら?」
「それは分からない。とにかく探ってみるしか……」
私達がそんな会話をしながら歩いていると、道の途中で一枚の原稿用紙が落ちているのを見つけた。
扉の前に落ちていたのだ。なんと他にも扉の隙間から何枚か原稿が飛び出している。部屋の中から扉の隙間を通ってしまったみたいだ。
すぐにそれを拾って、私は案内人を呼び止めた。
「あの、これが落ちてたんですけど」
私の呼びかけに案内人は目を瞬かせた。原稿用紙を受け取り、「あぁ」と呟く。
「もしかして、クレア先生の……」
クレア先生?
『愛され姫物語』の?
なんでクレア先生の原稿用紙が落ちているのかしら?
そんなことを思っていると……。
「キタキタキタキタァァァァ! 思い浮かんでキタァーーーーーーーーーー!」
扉の向こう側からテンションの上がった声が聞こえてきた。その声に私達はビクッとする。
案内人は慌てて、「さあ、こちらに」と私達がここから立ち去るように促す。
けれど、扉の向こうの声に聞き覚えがあって、私はそこから動くことができない。
だって……。
だって、この声って……。
そして、先ほどのユーリさんの会話と照らし合わせて、私の中に一つの仮定が思い浮かんだ。
もし、それが事実ならば、私がコラボの話を有利に進めるために役立つかもしれない。
「リディアさん?」
「間違っていたら、ごめんなさい!」
私は無礼を承知で、思い切って扉を開いた。
「あ、ちょっと!」
案内人が慌てて止めるが、その時にはもう私が扉を開いてしまっていた。
扉の先にあったのは、広い部屋だった。部屋の中には原稿が散乱しており、床が見えない。
そして、その部屋の真ん中。
そこには一人の男性がメガネを押し上げながら、天を仰いでいた。
「神展開、キターーーーーーーーーーッ!!!」
そう言って叫ぶのは、つい先日「貴族として恥を晒すな」と言っていたのと同じ声で……。
つまり、そこにいたのは私のお兄様だった。
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