第58話 兄との勝負に勝つ方法
かぽーん。
「ふぃー、きもちいいわね〜」
お兄様とのバトル(?)を終えた後、私はユーリさんを客室に案内した。そして、彼にゆっくり休むように伝えた後……私はいつものごとく公爵邸のお風呂に入っていた。
だって、お兄様とのバトルでものすごく疲れたんだもの。お風呂で癒されたかったんだもの。仕方ないじゃない。
ちなみに、公爵邸のお風呂は、幼少期にこだわり抜いて作ったものだ。
「ん〜っ」
お風呂の中でぐいーっと体を伸ばしてから、へりに寄りかかって脱力する。お風呂の中で全身がぽかぽかと温まっていくのを感じ、幸福感でふにゃふにゃしてくる。
これがお風呂の醍醐味ってやつよね〜。
しばらくお風呂を堪能した後、お風呂から上がった私は、いの一番にコーヒー牛乳をぐびぐびと飲み干した。
さて、気合いは入った。
状況を整理しよう。
お兄様は、風呂カフェを続ける条件として「新規店舗が開店してからの一週間で、ユードレイス店での一週間の売り上げの五倍を出すこと」を言いつけた。
そこで、私はお父様に出版商会の担当者を紹介して欲しいと頼んだのだ。
私が頼んだ時、お父様は不思議そうに首を傾げた。
『うちで融資しているから紹介できると思うが……なぜ、このタイミングで出版商会と?』
『最近社交界ではロマンス小説が流行っているらしいと聞いたんですよ。その時に思ったんです』
スミス夫人が教えてくれたことをヒントに、前世の記憶を辿ってみたのだ。そして、一つの案が思い浮かんだ。
『作品をモチーフにした料理を風呂カフェで出せないか、と』
『なるほど。前代未聞だが、なかなか……』
お父様が私の言葉を聞いて、考え込む。多分、勝率がどれだけあるか思考を巡らせているんだと思う。
まあ、前世ではありふれていたことなんだけどね。
前世の日本は、大コラボフード時代。色々な人気コンテンツとチェーン店がコラボして、料理を提供していた。ネットで読んだ小説も結構コラボフードを出していたりして……ふふ、懐かしいわね。
今世ではあまりコラボフードの概念とかないけれど、結構ウケると思うのよねぇ。
お兄様との勝負の関係上、売り上げを出すのは一週間だけでいいのだから、その期間だけ儲けることができればいい。期間限定でコラボフードを出せば、料理の値段を上げられるし、客単価も上がると思うのよね。
『だから、お父様には出版商会の担当者への取り次ぎをお願いしたいのです。いいですか?』
『分かった。それならば、こちらで話を通しておこう』
『ありがとうございます!』
という経緯で、今は出版商会からの返事待ちの時間だ。
今の私にできることは……。
「いざという時に備えて、寝ることよね!」
私はベッドにダイブした。
久しぶりの実家のベッド、落ち着くわ。湯冷めしないうちにお布団に入ったので、体がポカポカする。素肌に触れる布団の感覚が心地いい。お風呂に入った後にお布団に入るってすごく幸せね。
私は幸福感に浸りながら、目を閉じたのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
数日後。お父様の尽力によって出版商会の商会長と会う約束を取り付けることができたので、私はユーリさんと一緒に出版商会へと出向いた。
「俺も一緒に行ってよかったのか?」
「もちろん。というか、ユーリさんが来てくれるとありがたいわ」
「なんでだ?」
「ユーリさんは次期伯爵家の当主。私は公爵家の娘。権力者が2人もいれば、話を有利に進められるでしょう?」
私が「ふふふ」と悪い顔で笑うと、ユーリさんは納得したように頷いた。
「なるほど。それならば、王族の隠し子という切り札を出すという手も……」
「ちょ、そこまでは求めてないわよ⁈ それは隠しておいてちょうだい! というか、そんな機密事項は隠さなきゃダメ!」
ユーリさんの思わぬ提案に、私が慌てて止める。ユーリさんが元国王と愛人の子供という事実は公にされていない。不用意に明かさない方がいいだろう。
すると、ユーリさんはショボンとしてしまった。
「確かにリディアさんの言う通りだよな……。リディアさんの役に立ちたいと思うあまり、暴走してしまった……」
「ユーリさんはいてくれるだけで、役に立ってるから! それに、他のことも頼むかもしれないわ!」
「分かった。その時はなんでも頼んでくれ」
そんな会話をしていたら、あっという間に出版商会にたどり着いた。到着すると、すぐに商会長が出迎えてくれた。
「お初にお目にかかります。ノーディ出版商会のアルタと申します。本日は足をお運びいただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ無理を言ってお時間をいただき、ありがとうございます」
私はアルタさんに促されるまま、ソファに座った。アルタさんはにこやかに言った。
「公爵様から大体のお話は聞いております。今度オープンする風呂カフェで、本に出てくる料理と同じ料理を提供したいと」
「はい。ぜひ許可をもらいたく、こうして面会をお願いした次第ですの」
「作家の方に確認を取らなければならないので、絶対にお引き受けできるとお約束はできません。ですが、本の宣伝にもなりますし、おそらく大丈夫だと思います。ご希望の本などはございますか?」
私はその返答に顔を輝かせた。よかった。手応えはいいみたいだ。
「希望するのは、クレア先生の『愛され姫物語』です。最近、社交界でも流行ってますから」
「ああ、『愛され姫物語』ですね。わかりました。他にもありますか?」
「他には……」
という感じで、何個か候補を挙げたところで、初めての話し合いが終わった。
手応えは上々。これはいい返事を期待できるだろう。
この時の私は、そんな風に呑気に考えていたのだった。その後、私の計画が頓挫しかけることを知らず……。
念のためですが……
この世界はファンタジーであり、実在するものとは何も関係がありません。
今回登場する出版商会は現実の出版社さんをモデルにしていないため、関連させて考えるのはお控えください。




