第56話 父との対面
ほとんど丸一日かけて、ようやく私達は王都までやって来た。
馬車から降りた私はぐーっと伸びをする。
「ようやく着いたわ! ね、ユーリさん!」
私が振り返ると、片手で頭を抱えたユーリさんが馬車から降りてきた。
「すまない、リディアさん……。少し目を瞑るだけのつもりが、ほとんど寝てしまったし……その、か、肩に……」
ユーリさんは私の肩に頭を乗せて眠ってしまったことを気にしているようだった。目的地に着く直前に起こしてから、ずっと気にしている。
私は軽く笑って、彼の肩をポンポンと叩いた。
「あはは。いいのよ、そのくらい。ゆっくり休めたならよかったわ」
「すまない……ありがとう……」
さて。いよいよ家族との対面である。
私とユーリさんは荷物を使用人に預けて、公爵邸に入って行った。
公爵邸の長い廊下を通り、お父様の執務室の前に立つ。私は隣に立つユーリさんの顔を覗き込んだ。
「緊張してるかしら?」
「情けないが、人生で一番緊張している。好きな人の親に会うのは、こんなにも緊張することだったんだな。初めて知った」
好きな人って言ってもらえたことが嬉しくて、自然と口角が上がる。
「んふふ〜、大丈夫よ。私のお父様は優しい人だから、きっと私たちのことを認めてくれるわ。何かあったら、私がユーリさんを守るし」
「ありがとう。心強いな」
「じゃあ、行くわよ」
そう言って、私は執務室の扉を叩いた。「入れ」との声が聞こえてきたので、遠慮なくた扉を開いた。
「お父様ー、ただいま帰りました」
「リディア⁈ もう帰っていたのか。てっきり明日以降になるかと」
お父様は驚いた様子で椅子から立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。
「何回か王都とユードレイスを行き来しているうちに、最短コースが分かってきたんです。それに今回は途中で休憩を挟まなかったから」
「そうか」
久しぶりの再会を果たした私達は、軽くハグをした。
「よく帰ってきたな、リディア」
「はい。ただいま帰りました。お父様」
久しぶりのお父様との再会に心がほっと落ち着くのを感じた。やっぱり実家の安心感って段違いね。
再会に浸った後、私はお父様から離れて、ユーリさんの手を引いた。
「お父様、紹介したい人がいるんですよ。彼はユーリ・ウィギンズさん。ウィギンズ伯爵家の長男です」
「ユーリ・ウィギンズです。お初にお目にかかります、公爵様」
ユーリさんが一歩前に出て、お父様に挨拶をした。
「ああ、君がユーリ君か。リディアから話は聞いている。リディアとは、その……」
「真剣に交際をしております。リディアさんのお父様から正式に交際の許可をいただきたく、本日ご挨拶させていただきました」
「そんなに畏まらなくていい。リディアのことは信頼しているし、リディアは公爵家から出た身だ。君達の関係は自由だ」
「! そうですか」
「……ただ」
そこで、お父様は初めて声を低くした。
「知っていると思うが、リディアは婚約者に振り回されていた過去がある。今度こそ幸せになって欲しいと思うのが親子心というもの。……ユーリ君は」
「絶対に彼女を泣かせることはしません。お約束いたします」
ユーリさんは私の肩を引き寄せて、力強く言った。
「絶対に幸せにします」
お父様は探るような目でユーリさんを見続けていたが、やがて短く息を吐き、穏やかな表情を浮かべた。
「君を信頼するよ、ユーリ君」
「ありがとうございます」
「まあ、私が許可などしなくても、リディアは勝手に嫁入りしてしまいそうだがな。じゃじゃ馬娘で苦労すると思うが、娘のことをよろしく頼む」
「お父様⁈ じゃじゃ馬娘ってどういうことですか!」
「そのままの意味だが」
お父様はしれっとしている。私がむくれていると、ユーリさんが甘い笑みを浮かべて言った。
「リディアさんのそういうところを好きになったので、苦労とは思いません」
「ユーリさん、嬉し……いや、じゃじゃ馬娘なところを好きになったってどういうことよ⁈」
一瞬感激しかけたけど、おかしいわよね⁈
「ははは。そう言ってもらえるなら、安心だ。ぜひうちの娘を頼むよ」
「お任せください」
二人はがっしり握手をして、心を通じ合わせている。なんだかいい感じに収まった雰囲気を出してる。まあ、二人が仲良くできるなら、それでいいけど。
そんなことを思っている時だった。
「父上が許しても、俺は許しませんがね」
執務室の扉が開き、一人の男性が部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、リディア」
「お兄様……」
振り返ると、そこには、私の兄が厳しい目をして立っていた。




