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第55話 王都への道のりと最近の流行



「それじゃあ、行ってくるわ! 風呂カフェの経営は任せたわよ!」


 私は馬車に乗り込む直前、私はリーナとルークを振り返った。


「こっちのことは気にせず、羽を伸ばして来て下さい」


 と気を遣ってくれるのは、リーナ。


「俺たちはリディア様のお世話をしなくていいから、楽でいいですね」


 と憎まれ口を叩くのは、ルークだ。私はルークの言葉にべーと舌を出す。


「そんなこと言ってられるのは今だけよ。帰ってくる頃には寂しがってるに決まってるものね」

「リディア様の方こそ、俺たちがいない寂しさに泣きながら帰って来ないで下さいよ? 子供みたいに泣いたって、慰めてあげませんから」

「こっちのセリフよ。大体、ルークの方が子供で……」

「はいはい。ルークもリディア様もどっちもどっちですよ。それより、ユーリ様を待たせてるんですから、早く行って下さい」


 私とルークの言い争いに、リーナは割って入る。リーナに押されて、私は馬車に乗り込んだ。


「それじゃあ、あとは頼んだわよ!」

「はい。行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」


 私は二人が豆粒になって見えなくなるまで、手を振った。

 私が不在の間の風呂カフェの経営は、料理の提供をなくして続けるようにお願いしてある。二人だけで料理も作って、お客さんのテーブルに運んで……っていうのは難しいだろうからね。


 ただ、今後も三人だけで店を回し続けるのは難しいだろうから、何人か従業員も雇うことを視野に入れていかなきゃいけないわよねぇ。


 と、風呂カフェのことを考えるのは、一旦置いておいて。


 今日はユーリさんとの二人旅である。私の隣に座っているユーリさんは、ちょっと眠そうだ。


「ユーリさん、大丈夫? 眠いなら、王都に着くまでの間くらい寝たらどう?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと徹夜続きで寝不足なだけだから……」

「それ絶対寝た方がいいやつじゃない」


 私がそう言うけれど、ユーリさんはゆるく首を振った。


「せっかくリディアさんと一緒にいるのに、もったいない。それに、話す以外に何もすることがないんだから、俺が寝たらリディアさんが時間を持て余してしまう……」

「ユーリさん……」


 ユーリさんらしい考えにキュンとするが、そう言ってる時もユーリさんは結構眠そうにしている。というか、仕事で徹夜続きなら眠くて当たり前だものね。


「ユーリさん、寝てちょうだい」

「でも……」

「時間がもったいないって言うけれど、今日から私達はずっと一緒にいるのよ。最初から気を遣っていたら、長く持たないわ」

「……」

「それにね、ユーリさんが寝たからといって暇になるわけじゃないわ。だって、私にはこれがあるんだもの!」


 私はトランクの中から一冊の本を取り出した。意外なものを取り出した私に、ユーリさんは目を瞬かせる。


「それは……?」

「最近流行りのロマンス小説よ! ユーリさんが寝ている間はこれを読むから、全然暇にはならないわ!」


 最近、社交界ではロマンス小説が一大ブームになっているらしい。

 以前、ユードレイスに観光に来てくれたスミス夫人が手紙で教えてくれたのだ。「トレンドを風呂カフェの経営に役立てなさい」ってね。


 スミス夫人にオススメされたものを読んでいたら、意外と本格的にハマってしまった。今ではお気に入りの作者の本を取り寄せていたりする。


「リディアさんがそういうのを好むとは知らなかった」

「そうねぇ。昔からこういう話が好きなのよねぇ」


 昔とは、私の前世のことを指す。前世では通勤時間が暇だったから、結構ネットで小説を読んでいたりしたのよねぇ。


 夢中になってきたら、お風呂にもスマホを持ち込んで読んだり、それでのぼせちゃったり。


 それが日々のちょっとした楽しみだったことを、最近になって久しぶりに思い出したのだ。


「最近はクレア先生っていう作者の本がお気に入りで、結構読んでるの」

「へぇ、有名な人なのか?」

「クレア先生の書いた『愛され姫物語』は、社交界では流行りまくりよ!」


 ドキドキワクワクする大胆な展開とキュンキュンする心理描写が大人気の秘訣。乙女心をくすぐられるのよね〜。


「話が逸れちゃったけど……。とにかく私のことは気にしなくていいから、ユーリさんは寝てちょうだい」

「……ありがとう。それなら、お言葉に甘えて」


 そう言って、ユーリさんは目を閉じた。すると、すぐに彼の寝息が聞こえてきた。きっと疲れていたのよね。


 私は彼の隣で本を開いて、静かに読み始める。


 あぁ、揺れ動く恋愛模様にキュンキュンするわ。


 私が楽しみながら本を読んでいると、突然、トンと肩に温かいものが寄りかかった。ユーリさんだ。


 彼は規則正しい寝息を立て、起きそうにない。疲れているから仕方がないわよねと、私は本に意識を戻したけれど……。


 その後、私の心臓の音が落ち着かなかったのは、きっと本の内容のせいだけじゃないんだろうな。


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