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第54話 風呂カフェ、王都進出へ!


 私の名前はリディア・ハミルトン。


 ユードレイスという北の地で「風呂カフェ・ほっと」を経営している、ハミルトン公爵家の長女だ。


 なぜ公爵令嬢が風呂カフェを経営しているかというと……私にはお風呂が大好きだった前世の記憶があるからだ。


 お風呂大好きなアラサーだった私は、生まれ変わって、この世界にはお風呂がないという事に気づいた。

 そして、大好きなお風呂をこの世界に広めていく手段として、「風呂カフェ」開業を選んだのだ。


 婚約者である王太子から婚約破棄されたタイミングで、婚約破棄の慰謝料を使って風呂カフェを始めた。


 最初は「婚約破棄された悪女が変な店をやってる」と噂されて苦戦したけれど……今では、ユードレイスの人達から広く受け入れられて、「風呂カフェ・ほっと」は繁盛している。


「さて、そろそろ時間だし、オープンの看板を出してくるわ。今日も風呂カフェの経営を頑張るわよ!」

「お願いします」

「はーい。リディア様は今日も元気ですねぇ」


 私の言葉に答えたのは、リーナとルークだ。彼らは公爵家の時から仕えてくれている双子の従者で、風呂カフェを始める時にユードレイスまで付いて来てくれた。


 彼らは元気な私の姿を見て、ヒソヒソし始める。


「きっと、今日のお風呂で何のバスソルト入れようかな〜とか考えてるんじゃない?」

「ああ、いつもの風呂バカ発動させてるだけか」

「はい、そこ悪口言わないの」


 従者にしては、ちょっと私のことを舐めすぎだけどね?


 まあ、私には日本人としての前世があるので、貴族として敬われるより楽でいいんだけどねぇ。


 さて。本日は、平日限定「足湯キャンペーン」の日である。平日にも人を集めるため、我が風呂カフェでは平日限定でイベントやキャンペーンを行うことが多い。


 カップル限定割引キャンペーン、家族割キャンペーン、季節のお花風呂、チョコフォンデュイベント……などなど他にもたくさんある。


 こういったことを実施することで、休日だけにお客さんが集中することなく、平日も多くの人に風呂カフェを利用してもらうことができている。


 足湯キャンペーンも、その一環だ。

 気軽に楽しめる足湯は、平日のお昼休みにご飯がてら利用してくれる人も多くて、非常に人気のキャンペーンになっている。

 キャンペーン期間中はお風呂の水が料理を弾くように魔法をかけておいて、足湯に浸かりながら料理を楽しむことができるようになっているのも人気の理由だ。


 そうそう。足湯キャンペーンの日は、いつも忙しいあの人も来てくれることが多くて……。


「リディアさん、今日は足湯の日だと聞いたのだが……」

「ユーリさん! やっぱり来てくれると思ったわ!」


 さっそく風呂カフェにやって来たのは、ユーリさん。ウィギンズ伯爵家の息子で、騎士団長。そして、私の恋人でもある。


 実は国王の隠し子で、身勝手な国王に王宮へ戻されそうになったりしたけど……それも今では完全に解決している。


 紆余曲折があって恋人同士になった私達は、このユードレイスでゆっくり関係を進めていた。


 ちょうどユーリさんと話したいことがあったので、今日風呂カフェに来てくれてよかった。


 私はルークとリーナを振り返る。


「ねぇ、ちょっとだけユーリさんと話して来ていい?」

「はいはい。わかってましたよ。行って来て下さい」

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

「ありがとう。なるべく早く戻ってくるから、安心して」


 私はユーリさんを連れて、風呂カフェの外に出た。

 表通りからは見えない裏路地に入って、私は彼の目元にそっと触れた。


「久しぶりね。少し疲れてるかしら? 目に隈ができてるわよ」

「いつものことだから、大丈夫だ。それより、リディアさんは元気か?」

「私はいつも元気よ。だって毎日お風呂に入ってるんだもの」

「お風呂はリディアさんの特効薬だもんな」


 ユーリさんは恋人同士になってから、私のことを「さん」付けで呼ぶようになった。

 距離が縮まったみたいで嬉しいけれど、ちょっと物足りない思いもあって……。


 最近は「リディアって呼び捨てで呼んでくれないの?」と、彼を揶揄ったりしている。

 その度に彼は顔を赤くして、「それは……ちょっとまだハードルが高い」って言うのだ。ちょっと申し訳なさそうに言うのがとても可愛いくて、ついつい揶揄っちゃうのよね。


「それより、ユーリさんに話したいことがあったの!」

「なんだ?」

「実は、風呂カフェが王都に進出することになったの!」

「おぉ! それはすごいな!」

「とは言っても、私は監修するだけで、普段の経営は王都の人に任せるんだけどね」


 実は、国王との問題が解決した辺りで王都の商会から話をもらって、裏で色々と準備を進めていたのだ。王都には、もうすぐ風呂カフェの店が出来上がりそうだ。


「開業のために色々と進めたい話があるから、来月あたりに王都に行こうと思っているの。王都にある公爵邸への里帰りもかねて。それで、ユーリさんも一緒に来てくれたら、嬉しいなって。どうかしら……?」


 私の質問に、ユーリさんは少しだけ考える。やっぱり騎士団の仕事が忙しいから難しいかしら……。


 しばらくして、ユーリさんは口を開いた。


「うん。大丈夫だと思う」

「そうよね、やっぱりダメよね……って、いいの⁈」


 私が驚くと、ユーリさんは小さく笑って頷いた。


「あぁ。父……伯爵家の義父の方から、そろそろ有給を取れって言われてたんだ。ここ数年、全然休みを取ってなかったからな……」

「そ、それは取った方がいいわよ!」


 ユーリさんが遠い目をしている。本当にこの人は働き者というか何というか……っ。


「ちょうど、そろそろ一気に有給を使おうと思っていたところだったんだ。来月ならいけると思う」

「本当……⁈ あと、王都にいる間は公爵家に滞在することになると思うけど、大丈夫そう?」

「ああ、問題ない。リディアさんのご家族にもきちんとご挨拶をしたいと思っていたから、ちょうどいい」

「ユーリさん……」


 私との交際を真剣に考えてくれていることを感じて、じーんときてしまう。今までは適当に扱われたことしかなかったから。元婚約者とか、元婚約者とかにね!


「公爵邸にいるのは、ハミルトン公爵と小公爵という認識で合ってるか?」

「そう! お父様とお兄様ね!」


 お母様は幼い頃に亡くなっているので、我が家にいるのはお父様と後継のお兄様だけだ。


 お父様はなんだかんだ私のことを娘として厳しくも温かく見守ってくれているから、特にユーリさんとの関係に口を出してくることはないだろう。


 問題は、お兄様の方だ。優秀な人なんだけど……貴族としての慣習を破ることを嫌う、貴族らしい貴族なのよねぇ……。


 幼少期に公爵邸にお風呂を設置した時も、孤児だったルークやリーナを拾ってきて従者として側に置いた時も、すごく嫌そうな顔をされた覚えがある。


 あと、私がお風呂に入りすぎてのぼせた時なんか、ゴミを見るような目を向けてきたのよね!

 ……脳内でルークとリーナの「それはリディア様が悪い」という声が聞こえてきた気がするけど、気のせい気のせい。


 とにかく、私は昔から兄と折り合いが悪かった。


 公爵家を飛び出して風呂カフェを経営してる今の私なんて、うじ虫くらいに考えてそうなくらい。ユーリさんとのこともなんて言ってくるか……。


 その時は、兄からの冷たい視線に耐性がある私がユーリさんを守らないとね。


 私はユーリさんの手をバシッと握った。


「ユーリさんは私に守られててね!」

「ん? あぁ、分かった……?」


 そうして、私とユーリさんは一緒に王都に行くことになったのだった。


 色々と懸念点はあるけれど、ユーリさんと長時間一緒にいられることは初めてのことだから、すごく楽しみだ。


 一緒に楽しい思い出を作れるといいな。



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎




 同時刻。王都にて。


「何? リディアが帰ってくるだと……?」


 彼は従者からの知らせを受けて、資料から目を離して立ち上がった。


「あいつが帰ってくる。それならば……兄として、あいつを連れ戻す策を講じなければならないな」


 こうして、リディアの知らぬところで嵐が巻き起ころうとしていたのだった。




皆さまの応援のおかげで、本作がマッグガーデン・ノベルズ様より4/10発売します!

美麗な表紙を描いて下さったのは、さくらもち先生です!(後日、活動報告で画像を掲載いたします。少々お待ち下さいませ)


さらに、なんとコミカライズ企画も進行中です!!


引き続き「風呂カフェ」をよろしくお願いいたします♪


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