第二十話 信じてほしい
オマール号に入ると、クロスの部屋でみんなが待ってくれていた。
僕の手に握られたルダ・マグラスを見てソラが駆け寄る。
「ふおぉ! それがルダ・マグラスか!」
ソラは剣に手を伸ばそうとして、・・・・やめた。
「これは・・・・。やはり普通の人間には持つことも出来なさそうじゃの」
好奇心と畏れの混ざったような表情でルダ・マグラスを見る。
「どうしたの? 今なら触っても大丈夫じゃない?」
僕は白いテーブルの上に剣を置いた。
「いや、カイト。おヌシには分からぬようじゃが、この剣の周りには・・・・・なんというか、強力な気のようなものが感じられる」
ジャンが剣の上に手をかざして、
「ああ、やはり特別なものだな」
そう言って剣の柄をつかみ、持ち上げ、
「クッ」
すぐにまた剣を置いた。柄をつかんだジャンの右手の手のひらは少し赤く腫れている。
「もしかして熱いの?」
「いや、私がまだ未熟なだけだ。剣が私を認めていない」
ジャンはくやしそうに言った。
フィーが僕の頭の上を見て、
「ミミ様はだいぶお疲れの様子ですね。眠ってしまったみたいですよ?」
耳を澄ますと、すぅー、すぅーっとミミの小さな寝息が聞こえた。
「うん、たぶんミミにとってはすごく大変なことだったと思う」
いったん自分の部屋に行ってミミをそっと枕の横に寝かせ、またクロスの部屋に戻る。
僕は、ルダ・マグラスに触れてミミが気を失ったことや白の妖精が助けてくれて海の上まで僕たちを運んでくれたことを、なるべくくわしくみんなに話した。
「さっき一瞬だけ感じたアレは、白の妖精の魔力じゃったか」
ソラがタヌ耳をひょこひょこさせながら言い、続けて、
「カイト。おヌシ、『白の妖精の声が頭の中に聞こえた』と言ったか?」
怪訝な顔で僕を見る。
「うん。白の妖精なの?って聞いたら、そう呼ばれることもあるって言ってた。耳からじゃなくて、直接頭の中に聞こえてきたよ」
白いテーブルを挟んで、ソラとフィーが顔を見合わせた。
フィーが「そんな魔法、聞いたことありません」と言うと「うむ、ありえんな」とソラが腕を組んで答えた。
「嘘じゃないよ。ホントに聞こえたんだもん」
僕がそう言うと今度はジャンが、
「カイト。魔法や魔力で、直接相手の頭の中や心に働きかけることは出来ない。たとえ魔力の強い妖精であっても、まずありえない」
でも、・・・・・・じゃあ、
「僕がまだ自分の世界にいたときには、夢の中にフィーが出てきたよ? だから僕はこっちに、・・・コロンドニアに来れたんだし」
フィーは少し考えて、
「別の宇宙の中でクロスがどんなふうに作用するのかは、実は良く分かっていません。でも、こちらの世界ではありえないことなんです」
言葉を選びながらゆっくりと話した。
僕は今度はタルマさんのほうを向いて、
「じゃあ、あのトレーニングルームの幻覚は何なの?」
「あれはたしかに幻覚と言ってもいいものだけど、すべて魔法でやってるわけじゃないんだ。私の家の、・・・・イージー家に伝わる技術を応用したものを魔法といっしょに使ってるからね。それに、トレーニングルーム内の空気を媒体にしているから、人間の脳に直接働きかけるものでもない」
「・・・・・そっか。でも、ホントなんだよ?」
「うーん。どう説明すればいいかな。もし心に直接影響を与えるような魔法が存在したら、この世界の魔法理論は引っくり返ってしまうんだ。魔力波動を光に変える変光紙も、熱に変える変熱板も、このオマール号も、理論がみんな成り立たなくなってしまうんだよ」
「でも・・・・・」
僕は口ごもった。
みんな少し困ったような顔になっていたけど、ソラだけは目をつむってフムフムと何か考えている。そして僕のほうを向いて、
「カイト、あとで二人きりで話がしたい。少し休んだらワシの部屋にきてくれ」
そう言って、自分のタヌ耳を両手で撫でた。
そのあと、たいして休みもしないでソラの部屋に行く。本当のことを言ってるのにみんなが信じてくれないのはすごく残念だけど、ソラは少し違うみたいだ。
ドアをノックしてソラの部屋に入る。
「早かったな。そんなにいそがんでも良かったんじゃが」
ソラはベッドの上でうつぶせに寝転がりながら首だけをこっちに向けて言った。
「だって気になるよ。みんな信じてくれないし・・・・」
言いながら、僕はベッドに腰掛けた。
そういえば、ポラリス村でもソラと二人きりになったっけ。あのときは確か、僕の持ってるチカラを調べるためだった。
あ、もしかして・・・・。
「もしかして、僕の癒しのチカラと頭の中に声が聞こえたのとって、関係あるのかな?」
「おおっ」
ソラはベッドの上にあぐらをかいて座り、
「良く気がついたな。ワシもそうではないかと思っとる。両方ともこの世界ではありえないハズのことなんじゃ。何か関係ありそうな気がせんか?」
「ポラリス村のときも『ありえない』ってソラ言ってたもんね」
「うむ。確かフィーファの話だと・・・・・おヌシは水色の妖精の涙を使った、改良されたクロスでこちらの世界に来たんじゃったな。そのクロスの場合、普通なら『体を癒すチカラ』などの、水色のミミ様と同じようなチカラが付きやすいと聞いた。ところが、そうではなく通常ではありえない『心を癒すチカラ』がついている。クロスにとって『星の流れを変えるチカラをつける』ことが最優先だとは言え、考えられないことじゃ。ルダ・マグラスのことも、そうじゃ。水色の妖精とはまったく関係ないチカラのように思えるが、白の妖精が作ったルダ・マグラスを苦もなく握り、さらに白の妖精の声を耳ではなく頭の中で聞いた。ワシにはこれらのことが繋がっているように思えてならんのじゃ。『水色の涙』、『心を癒すチカラ』、『ルダ・マグラス』、『白の妖精』・・・・・・」
ソラは腕を組んで考え込んだ。
「んー。何か関係ありそうなんじゃがなぁ。どうもまだパーツが足りぬ」
「パーツ?」
「うむ。謎解きはパズルを組み立てるようなもんじゃろう? そのパーツが足りぬのじゃ」
ソラはしばらく黙って考えこんだ。
「んん?」
そしてピッとタヌ耳を立てて、
「もしや、ミミ様と白の妖精の間に何か繋がりがあるのではないか? 昔、白の妖精から何かしらのチカラを受け取ったとか、そういうことはないじゃろか」
「そういえば、白の妖精はミミのことを知ってるみたいだった!」
「知ってるみたいだった?」
「うん。ミミは白の妖精には会ったことないって言ってたけど、それってミミの記憶にある七十二年間ではってことでしょ? でも白の妖精はミミの名前をフルネームで『ミミ・ファルム』って言ってたし、別れ際にも『オマエにミミ・ファルムを託す』って言ってたもん。他にもなぜか、僕たちがやろうとしてることをみんな知ってるみたいだったけど」
「なんじゃそりゃ。説明もしないのに白の妖精はもともと知っていたというのか?」
「うん」
ソラはまた腕を組んで考え出した。
「あー。何か分かったと思ったらまた良く分からなくなってしまったわぃ。なんで白の妖精はワシらのやることを知ってたのじゃ?」
「きっと、白の妖精は心を読めるんだよ。それで僕の心の中を読んで、知ったんじゃないかな」
「ありえん! ありえんハズなのじゃが・・・・。白の妖精にそんなチカラがあると仮定すれば、たしかにスジが通る。おヌシの頭の中に直接話しかけることも出来よう。じゃがそれだけじゃと、おヌシの『心を癒すチカラ』と『ルダ・マグラスの使い手』という、クロスから与えられたチカラが説明出来ん。やはりミミ様と白の妖精の間に何か特別なものがあると考えねばならんな。そうでなければ説明がつかんからの」
「うーん・・・・」
僕とソラは二人で唸ったり頭を抱えたり、ベッドにボハッと倒れてゴロゴロしながら考えたりしたけど、もうそれ以上のことは思いつかなかった。




