黒い嵐
ゴブを倒した後周囲を覆っていた靄が消える。
これは…俺がその場から離れると手元に突然ステータスウィンドウの様に
 ̄ ̄NEXTBATTLE? ̄ ̄
yes/no
と表示される。
俺は迷わずyesに指を添えた。すると反対側で控えていた黒い鎧に身を包んだ三メートルを超える巨体に猪頭の人型魔物…オークカイザーが前へと歩み出す。俺も戻ろうとしたが、見えない壁に阻まれ前に進めない。すると先程の様にステータスウィンドウが表れる。
 ̄ ̄CHANGE PLAYER ̄ ̄
Touch Next player name!
Sorato×/Jin/Kokuran
と表示されていた。その下にはジンとコクランの名前が書いてある。俺の名前は灰色に表示されておりどうやら連続で試合をすることは出来ないようだ。その事を説明するとコクランが名を上げた。
「ここは俺が行こう。ジンにはオーガキングを任せたい。久々の強者との戦闘だ。ソラトの戦闘に充てられたのか血が疼いて仕方ない」
「そうゆうことなら頼むぜ。なるべく早く済ませてくれるとおっちゃんとしちゃ嬉しい限りだ、俺もその性質でな?ソラトの事は俺に任せとけ。まぁ、何も起きそうにないがな」
おぉ、怖い怖い。うちの配下は血の気が多すぎて嫌だね。
ここで鑑定眼を使用する。
コクランの勝利を疑う訳ではないがどの程度の能力か気になったのだ。
オークカイザーLV298
攻撃2000
防御1200
魔攻850
魔防1500
敏捷750
スキル 怪力 剛力 咆哮 超再生
固有スキル 突進 チャージ
報酬 魔石(A級) 黒楼鋼の鎧 黒楼鋼の剣
鑑定眼を手に入れてからステータスの詳細を詳しく見れる様になった。これはこれで便利なんだよな、魔力消費もおさえられるし。
だがはっきり言おう。レベルや固有スキルを持つもののはっきり言って弱すぎる。コクランはまだレベル180前後だが能力値やスキルの数は倍以上だ。コクランの勝ちを俺は確信した。
俺はコクランに豚(長いので省略)の情報を伝えようかと思ったが教えない方が面白そうだしやめといた。さてどんな勝負を見せてくれるのだろうか?楽しみである。
「善処しよう。だが、今の俺の力を試したい。多少の時間過多は見逃してくれ」
「ふっ、お前さんに任せるよ。それよりソラト、組手でもしねえか?準備運動程度でいい」
「仕方ないな、良いだろう」
ジンはよく俺に魔法抜きの組手を持ち掛けてくるのだが、たまに負けたりする。
勝率は七割と言ったところか。速度と技巧重視なジンだが一度見切ってしまえば追えない事はないのだ。
ジンが屈伸するのを横目にコクランが中央に向かい歩き出す。
「フッ…豚風情が相手とは舐められたものだ。だが、油断はしない。ソラト行ってくる」
「おう、いつも通りで良いから楽しんでこい」
コクランは振り向かず右拳を掲げる。
任せとけというサインだ。その背中からやる気が感じられた。
「んじゃ、こっちも始めますか」
「おうよ、そう来なくっちゃな!今日は負けない…ぜっ!」
台詞を言い終える前に駆け出したジンの蹴りが俺を襲う。やれやれ…今回は奇襲パターンか。俺は辟易しながら繰り出されるジンの乱撃を捌き心の中でコクランに応援を送った。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
ソラトの声援を背に俺はオークと相対する。
俺には4本の腕がある。上の右腕からさっきソラトが倒しドロップしたゴブリンロードの剣、上の左腕に鉄の剣、下右手には鉄槍、下左手に鉄斧だ。今回盾は使わない。すでにブルースの収納に閉まった。ソラトは俺の武器を揃えるのではなくダンジョンで拾ったものを優先的に回してくれると言っていた。それで俺の上右手にはゴブリンロードの剣がある。肉厚で武骨な見た目だが魔力を込めると切れ味が増す。中々使い勝手の良さそうな剣だ。
俺はオークカイザーを睨み付ける。奴は余裕そうに腕を組みまだ腰に帯びた剣を抜こうとはしない。舐めやがって!
ここは我が主に良いところを見せてやるか。
新参者の俺だがソラトやジンは温かく俺を出迎えてくれた。ブルースやセレナ達もだ。どういうわけか俺達ソラトの配下は経験値が二割ずつ均等に割り振られ倒した奴に七割が入る。残りの一割は主であるソラトへ。
俺はオークに剣を向け吠える。するとオークも雄叫びを挙げ突っ込んできた。これがソラトの言っていた固有スキル突進か。俺は難なく避けすれ違い様に二本の剣で斬り付ける。オークは透明な防壁にぶつかりやっと足を止めると反転しまた駆け出した。剣、斧、槍でどんどん斬り付ける。だがまだ倒れない…うっとうしい奴だ…俺は魔力を練り上げた。
「【風刃乱華】!!」
幾重もの不可視の刃がオークを襲う。血霧を上げオークの呻く声が響いた。俺は止めを刺すべくゴブリンロードの剣に魔力を込める。俺の魔力をグングン吸い付くし成長した剣は俺の身長を超していた。だが全く重みは感じない、俺の魔力を吸収しているからだろう。俺は転げ息絶え絶えのオークの首に剣を降り下ろす。白い煙となったオークが居た場所には戦利品として魔石と剣、鎧が落ちていた。俺はそれを拾い上げるとその場を後にする。
「終わったぞ、ジンお前の番だ」
「ちぇっ、折角盛り上がってきたのに!んじゃ行ってくるかね」
「お前がさっさと終わらせろって言ったんだろうが。コクランお疲れ。危なげない戦いだったな、よくやった」
「ふっ…俺を舐めるなよ?」
「舐めてないって。ちゃんと認めてるよ」
認める…そうか、ソラトは既に俺への価値を見出だしてくれていたのか。
急に目頭が熱くなる。俺は思い出した。家族を殺され一人大陸中をさ迷っていた幼き頃の自分を。森で力を付けいつか復讐を遂げようと誓った日々を。だが、俺が力を手にするのには時間が掛かった。
人間と魔物では寿命が違う。既に復讐相手は死んでいた、そんな時だ。
ヴァネッサと知り合い魔物屋を知ったのは。俺と同じ境遇のやつらがそこには沢山居た。まだ幼い子供まで。
俺はそいつらを守ろうと誓った。だが年月が経ち次々と巣立っていく仲間達を見てそれでも俺は自分の生き方に自信を持った。俺の心には復讐心とただ生き残ることだけしかなかった。だが今は守ろうという強さも生まれてきた。
ある日のこと、俺はヴァネッサに一人の人間を紹介された。ソラトだ。何人もの魔物使いを今まで見てきたがソラトは格が違った。一目で分かった。俺はその時ソラトに生涯を捧げようと誓ったんだろう。思い返せばそう考えが纏まった。
それから二ヶ月が過ぎエルフの里で再会したソラトは魔王になっていた。やはりこいつは俺の仕えるべき主人だったのだと確信に変わった。
クロッセアで再会したソラトは既に白髪が七割に増えていた。魔王化の兆候だろう、段々と目に見える範囲での変化が表れる。そして五感を欠如する。ソラトは味覚だった。他の魔王は痛覚や視覚、嗅覚や聴覚などで時には複数の症状が出た記録もある。
俺は路地裏でソラトに声をかけた。仲間にしてくれ、俺を配下に入れてくれと。ソラトは勝手にしろと言った。だから俺はソラトにこの命を捧げる事にした。ソラトの敵は俺が排除する。闇に沈んでいた心に一筋の光が見えた気がした。
そして俺は今ソラトと肩を並べダンジョンに居る。人型になったのはびっくりだが、なるほどこちらの方が俺は好きだ。ソラトを背に乗せ駆けることは出来ないがそれでも良い。俺が望んだ姿だから。
「ソラト、俺はお前に負けないくらい強くなる」
「なんだ、急に?そっか……じゃあ頼りにしてるよ」
「我が主よ、共に覇道を行かん」
「なに感傷に浸ってんだよ?まだ始まったばかりだろ?俺達の覇道は」
「フッ…そうだったな」
俺は自嘲しジンの姿を目で追った。今はまだジンに敵わない…だがいつかは越えてやる。俺の目標はソラト越え…は無理でもブルースやチトセと同等以上だ。ジンは踏み台でしかない。俺は野望を胸に秘めジンの戦闘かぶりつくように見入った。




