犬と馬と魔王
ジンとコクランを連れ、マップを使い87階層へと向かう。道中、近付いてくる敵はコクランが一掃しており特に問題はない。
一時間ほど進むとようやく階段前に到着、そこで一服をして気合いを入れる。コクランが葉巻を吸う俺とジンを見て何か言いたげな様子だ。
「どうした?お前も吸うか?」
「いや、俺は良い。よくそんな臭いものを平気で吸えるなと思ってたところだ」
「葉巻の良さが分からねえなんてまだまだお子ちゃまだな、コクランは。この匂いが良いんじゃねえか」
ニヤニヤしながらジンはそう言った。コクランも冗談だと分かっているためか少し笑っているため雰囲気は明るいままだ。男三人旅は順調な滑り出しである。
「そうだな、俺には味は分からないが香りは楽しめる。味覚を失ったから葉巻の香りは新鮮なんだよ」
前世では吸おうなんて思わなかったが、味覚を失いジンに手渡されその魅力に取り憑かれた。
今では一日一本は吸う様になったので俺のマジックバッグには三ヶ月分のストックがある。
「そうか。人の好き嫌いにはあまり口を出さない方が良いか」
「ん。旦那、右から十の気配。三本角だな、この気配は」
「こっちでも確認した。誰が行く?」
「俺に任せろ。少し体が鈍ってる、軽い運動くらいにゃなるだろ」
ジンが鼻をひくつかせ、犬耳を細かに動かし、敵の襲来を俺に伝える。
俺もマップは常に発動していたので敵の襲来は分かっていた。
「んじゃあ頼む。コクランはここで待機。俺は反対側の敵を排除しよう」
風下だからかジンは察知出来なかったが、左…西側からも敵がやって来ている。大蝙蝠と縞模様のでかい蜥蜴が四体ずつか。
ちょうど良い、俺も体が鈍ってたところだ。少し距離が離れてるけど新技を試すには丁度良いだろ
「やるか…【フリージング・メテオ】」
ごっそり魔力を持って行かれる感覚を受けながら、俺はマップを確認する。
敵を表す赤点の周囲を指でなぞりながら丸く囲むと変化が起きる。
空を見上げると魔法が発動したのか、氷の巨塊が無数に範囲指定した場所へ降り注ぐ。一分も掛からないうちに赤点は消滅した。
「おっ、倒したか。いつ見ても早いな」
「あぁ、かなり便利な魔法だからな。これ一発で終わるから体が鈍って仕方ねえよ」
そう、俺は物足りない感覚だった。やはりこの辺の魔物では役不足だろうか…87階層以降に期待したい。
「んじゃ拾ってくるわ、コクランはここで待機。ジンが来たら説明しといてくれ」
「了解」
新魔法【フリージング・メテオ】は、俺の固有魔法だ。
マップの拠点機能などを調べるため、色々と遊んでいたら想像が膨らみ、やがて形となり魔法として再現された。
つまり簡潔に述べると
マップで索敵、マップ上で対象を円で囲う、魔力を込める、発動。みたいな感じ。
欠点は使用時にかなりの魔法を注ぎ込むため俺が数秒無防備になったり、超々遠距離なため、最低でも五百メートルは離れていないと使えないのだ。
その辺は要改造が必要だな。
それは追々対応策を考えていくしかないか。
俺は魔石を拾いに行こうとしたがコクランが既に走り始めており歩きだすのを止めてその場で待つ事にした。
全く…せっかく休憩を挟んだのだが無駄になってしまった。二人が戻ってきたらさっさと下に降りてしまおう。
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二人は五分もせずに戻ってきた。
ので、そのまま階下へ向かう。ジンが先行し俺、コクランの順だ。前以て報告されていた通り、ゴブリンロード、オークカイザー、オーガキングの姿を確認した。こちらを襲ってくる様な気配はない。
ここに来るのも約一ヶ月ぶりか。俺が発動した【アイシクル・エイジ】の残滓か一部の地面が凍結しているのが目に入ってきた。もう催淫効果の魔法も施されてないみたいだ、良かった…!もし現存していたら野郎三人で大変な事になっていた…
ジンが前に進むと魔力の流れが少し変わる。注視してなければ見過ごすレベルの変化だが俺にはしっかり見えた。
「ジン、止まれ」
「あいよ」
大人しく従い立ち止まるジン。風来坊の気質があるが俺をちゃんと主と定めているのか、呼び掛けには答えてくれた。
「魔力の流れが変だ。対応するため俺が行こう」
「あいよー、今の坊主なら大丈夫だとは思うが油断はするなよ?」
「ソラト、何かがおかしい。気を付けろ」
「忠告ありがとさん。んじゃちょっくら行ってくるわ」
二人の注意を背中に受け俺は一歩一歩確かめる様に歩き出した。
十歩ほど歩いたところで異変が起きる。魔力の流れが活発になり硬質化していく。やはり罠か?
俺が立つ場所から五十メートルほどを黒い魔力の壁が円状に覆っている。魔物が居た方向を見るとゴブリンロードがこちらに向かって駆けていた。
二メートルを越える巨体を揺らしながらそれなりの速度で走ってくる。
「一対一ってか?いいぜ、相手してやんよ!」
俺は迫るゴブリンロード(長いから以後はゴブと呼ぶ)に近寄り思いきり拳を振り抜く。右腕で受け止めたゴブだが、耐えきれず引きちぎれた。すかさずゴブは後ろに退ると左腕に持った剣を振り翳す。
「遅い」
俺は右足に魔力を集め全力のヤクザキックをかます。十メートルほどふっとんだが、まだピンピンしている様だ。
「……【アイシクル・バースト】」
避けようとしたがゴブの周囲五メートルを指定した。哀れ、無数の氷柱がゴブを指し貫く。それでも元気良く動くんだから大した生命力だ。
やはりゴブリンとゴキブリは同様なのだろうか?
そんなことは置いといて、全身を串刺しにされたゴブを踏みつけ動けない様に固定し俺は【魂魄武器】で大鎌を象った。
禍々しい赤黒い光沢を放ち、それはまるで首を刈る事にのみ特化され作られたかの様だ。
ゴブの首に鎌を当てると俺はゆっくり上に引き上げる。
数秒後にはゴブは霧となり魔石と握っていた剣だけがその場に残った。




