拠点確保
四日かけて、86階層に無事たどり着いた俺達一行はプルネリアの自宅へと向かった。
「まさかこの大樹が家とは…吸血鬼の魔法技術は侮れないな…」
「あぁ、セレナ。私も同感だ。全くどうなってるんだ?ただの大樹にしか私には見えん。しかし手を着くと吸い込まれる様なこの感覚。不思議だな…」
うちのくっころ騎士さんと元王女様がそんな事を話している脇で俺はプルネリアを呼び情報を集める。
「プルネリア、この周辺にはまだ吸血鬼の家ってあるのか?」
「うーん、あそことあそこ…あとはこっちなの!でも魔力が鍵になってるから勝手には入れないの!」
「だよ…な。」
流石に20人以上居る面子を幾ら広いとは言えプルネリアの家に押し込むのは可哀想だ。
ダンジョン攻略の拠点として86階層を活用しようと思ったのだが、安心して休める場所の確保は重要だろう。そのことをプルネリアに相談してみたのだが、魔力鍵なるファンタジー式オートロックで戸締まりしてあるらしい。
俺の目は魔眼となっており、魔力の動きが見える。その魔眼で見た際、膨大な魔力を放つ大樹が何本か感覚で分かった。その事を後ろに控えていたブルースに伝えると
「拙者には魔力の流れは見えぬでござるが、主殿には見えるのでござろう?鍵を開けるくらいならば容易いのではないでござろうか。」
うーん…そうだよなぁ。いっちょやってみるか。
「おっ…開いた…っていうか、勝手に開いたぞ?何でだ?」
俺がプルネリアに教えてもらった大樹に近付くと魔力の流れが変わった。そして大樹に触れると腕がそのまま中へ吸い込まれていく。
「主殿、拙者もでござる。これは魔王化が関係しているのでは?」
ブルースが少し離れた場所の大樹に触れたらしく俺と同じ状況となりそう結論を出した。
うん、そんな事だろうとは思っていたが、やっぱり魔王化が関連しているのだろう。
蠢いていた大樹の魔力が収束し俺の来ている吸血鬼王のローブに吸い込まれていく。と次の瞬間にはローブを伝い俺の魔力と混ざりまたローブを伝い大樹に戻っていった。
俺は鑑定眼を発動する。
【魔大樹の屋敷】
吸血鬼一族の魔力操作により住居となった大樹。対象者の魔力を登録し、外部の者の立ち入りを拒絶する。また屋敷内では魔力や体力の回復を補助する効果を持つ。
所有者 吸血鬼騎士バンサム×→魔王ソラト
うん、おかしいよね?魔王だからって他人の家を所有してしまった。
なんていうか…いや、ほんとバンサムさんすみません…
だが俺の所有物となったことで屋敷の主な使用方法が分かったのは僥幸だ。
俺は大樹の中に入りバンサムさんとその家族であろう私物を集め大樹の横に穴を掘り墓を作った。
魔王になったため筋力のステータスが爆上げされ、魂魄武器をスコップに形状変化させると数秒で掘り終えた。
埋め戻して大きい石を拾うと【吸血鬼騎士バンサム一家ここに眠る】と彫ると埋め戻した墓の上に置いた。
「ソラト、ありがとうなの。バンサムおじちゃんも喜んでると思うの。」
「気にすんな。バンサムさんの家を勝手に所有してしまった礼だからな。ほら、いつまでも泣いてないで他の家も回るぞ?」
プルネリアの頭に手を起きそう伝えると抑えきれなかったのか、涙を流して震えるプルネリアは笑顔になり俺に抱き付いてきた。
「ーー!!…分かったの!ありがと、ソラト。」
まぁ役得というか何というか普段はあまり感じられない二つの感触が背中越しに伝わる。いやー何というか…ご馳走さまです。
その後めちゃめちゃセレナ、モネ、ユリアンに怒られた。
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途中休憩を挟みながらもジャングル地帯の86階層の吸血鬼達の家を回り全て俺の支配下に置き墓を作るのに一日係った。
全部で28の家があった。プルネリアやセレナの話を聞く限り吸血鬼自体そこまで数が居なかったらしいがそれでも千は居たらしい。だが五百年前の天変地異に巻き込まれその大半が死亡。時が経つにつれその数も減って僅か100に充たなかったという。
作業を終え皆疲れてるということで二日間の休息を与えた。特にチトセの疲労が酷かったので後でブルースには金を預け甘いものを買いに行かせよう。転移って便利だよな。
現在俺はプルネリアの屋敷でブルース、セレナ、ユリアン、カインさんを集め攻略会議をしている。
斥候としてジンとカミツレ親子+コボルト班五名に87階層を見に行ってもらったのだが、多数の魔物を確認したという報告が上がった。
「俺とモネが落ちてきた時にはそんな魔物は居なかった。可能性としてはあの大山鬼が魔物ドロップを抑制していたくらい…か」
縦横二百メートルほどの広さのコロシアム型の87階層。
俺とモネが落ちた時には大山鬼以外の生物は居なかった。だが報告によるとオーガキングやゴブリンロード、オークカイザーなんかが居るという。これまでの階層のボス級の魔物が犇めく中、他の階層で見られた魔物同士の争いが見られずただそこにボーッと立っているだけらしい。ジン曰く違和感しかないという。その報告を聞いて俺の中で一つの単語が浮かぶ。
「ボスラッシュ…ってか?」
「ふむ、言い得て妙だな。流石はソラト。」
「時にソラトは変な事を言い出すがセレナの言う通りだな、私も同感だ。」
なんか身内のよいしょが凄いが俺は気にせず決議をした。
「とりあえず俺とブルースで様子見…いや、ブルースはクロッセアに戻ってチトセに菓子を買ってきてやってくれ。俺一人でーー」
「「「却下」」」
「はぁ…分かった。コクランとジンを連れてく。…それとカインさんも行くか?」
「いや、遠慮させてもらおう」
即答だった。
「ブルース、菓子の件頼めるか?」
「御意に。チーちゃんの貢献は拙者も労いたいと思ってたでござる。主殿の采配お見事でござる!」
俺は溜め息を吐きジン達に声を掛けようと立ち上がり屋敷を出る。
「あぁ、そうだ。セレナ達は86階層を拠点化する仕事を頼んでも良いか?防護柵とか道を作っておいて欲しい。」
「分かった。軍時代に培った技術を活かしてみせよう!」
「頼む。人員の割り振りは任せた。とりあえず明日まで休んでから作業に取りかかって欲しい。」
「あぁ、二~三日で戻るから後の事は任せた。あ、足りない物資なんかは纏めてブルースに買いに行って貰ってくれ他には…ーー」
「ソラト、何も心配することはない。任された以上は卒なくこなしてみせよう。」
セレナが真っ直ぐ俺を見つめてくる。その視線に答えるように深く頷くとセレナにバシッと背中を叩かれた。痛…くはないが、気合いが入る。俺は気合いを入れるかのようにオシッ!と小さく吼えるとジン達を探しに拠点を回った。




