王都の状況
第三者視点になります。
ソラト一行がダンジョンに入り一週間、大陸の南部にあるミンストレイル王国王都ミニスタ。そのミニスタの中央に白く聳え立つミニスタ城、玉座の間にその人物は居た。
憔悴しきったその少年は特に何をするでもなく虚空を眺めるだけの日々を過ごしていた。
「ユキヤ…」
その少年は自らが強大すぎる力を有しているのに護りたい人を護れなかったという自責の念に囚われていた。自惚れていた、そう思っていた。
柱の影からその様子を心配そうに窺う赤い長髪の少女は少年の名前を呟く、それしか出来なかった。
「トト。しばらくほっといてやれ。それとも寝所に連れ込んでガキの一人でも仕込んで…イテッ!」
後ろから現れた大男…少女の父、マルスが下世話な事を口にすると更にその後ろから蒼髪の女が横から頭をひっ叩いた。
「マルス、それ以上は止めときな。トトも心配なら側に居てやることも大切だ。心の拠り所がなくなっちまったばかりだからね。なんだったら手を繋いでやるといい、少しは安心するんじゃないかい?」
「手を…」
自分の手を見つめながら少女…トトは呟いた。彼女の義母ソフィは義娘トトの頭を撫でるとその背中を押しトトの幼い恋心を応援してやった。
「今あいつの心は脆い硝子細工よりもさらに脆いのさ。触れただけで音を立てて崩れ去るほどにね。回復魔法でも癒せない深い深い傷なんだ。誰でも良いって訳じゃないけど側に居てやんな、異世界からこっちに来てずっと側に居たあんたならその資格を持ってる筈さ。」
「…分かった、行ってくる!」
ソフィに文字通り背を押され逡巡したあとトトはユキヤの元へ駆け出した。その姿を見てソフィは愛娘を心配そうに見守るマルスの襟首を掴み玉座の間を後にする。沢山仕事が残っているのだ、こんな所で油を売る暇はない。
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更に遡ること五週間前、前王、カルロス・ビフィート・センティリウス・ミンストレイルが死して王国内王都ミニスタは震撼した。国民男子の六割に及ぶ強制的な徴兵により家族を失った王国民の怒りは燃え上がり暴動にまで発展。国内の貴族にまで飛び火した。しかし、そこに勇者ユキヤ率いる勇者パーティが王国軍を率い内乱を鎮圧した。
勇者ユキヤの日々の善行と人柄によって瞬く間に国民の怒りは鎮火したのだった。
そしてやはり王は必要だと言う意見により新たな王に着いたのは王国軍騎士団長を長年勤めあげた護国の英雄、マルス・アレイジアだった。
本人は辞退したが国民、軍部の支持が篤く且つ彼の妻が公爵家の人間で血を辿れば王家の人間だったためその会議と呼べない一方的な話し合いは終わった。
内乱を治めると勇者ユキヤは塞ぎ込み何も手に付かない状態となった。緊張の糸が切れたのだろう、廃人の様にブツブツと呟き虚空を見る時間ばかりが過ぎていった。
「はぁ…なんでこうなっちまったんかねえ…」
そんなマルスのぼやきは誰に語りかける訳でもなく中空に響いた。だがなってしまったものは仕方ない、とマルスは机の上にある書類の束を見てまた溜め息を吐いた。
「それもこれもあの守護者ってやつのせいなのか、それともうちのお偉いさん方がわるいのか」
そこまで考え、やがて自業自得だという結論に達するとまた書類に目を落とす。
「俺は軍部畑の人間なんだけどな」
元々彼の実家は伯爵家とそれなりに裕福ではあったが彼は三男。
既に父や兄は度重なる帝国や東大陸との連戦により他界しており彼が伯爵家当主となっている。
軍時代では執務など基本的なことしか行ったことがない。
ましてや国の舵取りなど出来るとは思えない。
が、すでに主だった高位貴族は戦死、もしくは処刑されている。
あるいは国を捨て帝国か東大陸に亡命してしまった。
そこで要職に就いており王家の外戚とはいえ血統を持つ騎士団長に白羽の矢が立ち王に任じられたがそれでも座して書類を可否で分けるのは億劫だった。
予算が欲しいだとか、どこどこの復興をしてくれだとかあまり重要ではないことは後回し。まずは戦争の傷を癒し、王都の復興を優先しなければならない。新たな王として自分の能力を国民に示さなければならない。
「はぁ…ユフィ、俺に出来るのかね、王様なんて」
亡き最愛の妻ユフィにそっと語り掛けるとマルスは書類に手を付け始めた。
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話は冒頭に戻る。
「ユ、ユキヤ…!」
トトはユキヤの手を握り腕にしがみついた。
依然ユキヤの視線はトトに向けられることはなかったがそれでもトトはユキヤの側に居ることに幸せを感じていた。
「……かい」
数時間はそうして居ただろうか、突然トトの耳に聞き覚えのある温かな声が入る。それはか細く掠れた声であったが確かにトトには聞こえた。
「ユキヤ…?」
「暖かい…トト…か」
その瞬間彼女の祈りが届いたのか、ユキヤはトトに視線を向け少女の名を呟いた。
「…ずっと側に居てくれたのか?」
「うん…ユキヤが心配だったから」
彼女は普段の反抗的な態度ではなく素直な言葉を紡いだ。
いや、場の空気に充てられ咄嗟に口を吐いたというのが正しいだろう。
しかし嫌な気分にはならなかった。目の前に居るのが少女の初恋の人物だからだろう。
「ありがとな。うん、もう大丈夫だ。トトのお陰だな!」
「そんなこと…ーーキャッ!何するのよ!」
ハハッと快活に笑いユキヤは乱暴にトトの頭を撫でると立ち上がる。
「っと…とりあえず俺が使いものにならなかった間のことを教えてくれるか?ぼんやりとしか覚えてなくてな」
そうユキヤに言われトトはこれまでのあらましを簡略を伝えた。
王都の内乱を鎮圧したあと最低限の警戒網や法整備を構築、その後新たな王を立てることになりマルスが就任したこと。
それに伴いトトは王女になったこと。
ワタメとネムはクリマとソルダの姉弟が面倒を見ていることなどだ。
それを粗方聞くとユキヤは何をするでもなく突然吹き出し笑い始めた。
「プッ…アハハハ!そっか、師匠が王様ねぇ…トトが王女様か!じゃあソフィさんは妃様じゃないか!いやー久々にこんな笑ったよ」
「ちょっとぉ!笑い事じゃないでしょ!」
「いやーすまんすまん!でもあの師匠が王様って柄じゃないからさ。トトは…まぁ、うん。強く生きろよ」
遠い向こうを見つめユキヤはそうトトに伝える。
その態度が気に入らないのかトトは憤慨しユキヤの腹に拳をぶつけた。
「何よ!わたしが王女だと気に食わない訳?ユキヤのバカ!もう、知らない!」
怒りに駆られたトトはぷんすか怒りながらユキヤに背を向け歩き出した。
ユキヤは腹にいい拳を受けもんどり打って居たが慌ててトトを呼び止める。
「待っ、待ってくれトト!いや、トトレニア王女殿下!後生だ、み、水と食料を…!」
ユキヤの心の叫びはトトには届かずその場で蹲るのであった。
怒らせてしまったユキヤが悪いのだがユキヤには複雑な乙女心が理解できない。
それから二時間後、心配になったトトが見に行くとユキヤはまだその場で蹲り寝ていた。
ユキヤが食事にありつけたのはその30分後であった。




