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第22話 とても素敵な折り鶴

「聞いたか、地下で山賊が暴れているらしいぞ」

「実験棟でも山賊の報告がある」

「隔離棟もだ、一体どうなってんだ!?」


地下からの攻略は思ったよりも効果的だった。

まさか四方から攻めてくるとは思わなかったのだろう。

九条本宿の周辺に点在する山賊の村、彼らが集結したのだ。


「わしゃあのよめぇさぁ、どこでぃい」

「あねきぃ、どこだぁああ」


ケージの部屋では、山賊たちの家族を探す声が飛び交っている。

ただ祈里はもっと違う場所にいる気がした。


「六平たちは弥七を護衛してくれ!」


弥七が本当に良いのかと真剣に見つめる。

俺は黙って頷いた。


「火凛、祈里を探したい。どこにいるかわかるか?」


火凛は少し遠くを見つめていたが、やがて首を横に振った。

おそらく火凛は電気信号のようなもので検知しているはずだ。


雷が鳴っていれば見失う。

ドローンがあれば見つけやすい。


(どこかに監禁されているのか)


俺は逃亡Lv99といわれるだけあって、逃げ慣れている。

それは同時に「逃げにくい場所」を探すのも得意だ。

相手は祈里を逃したくないはず。

狂人でもない限り、最下層の火凛がいたような場所が妥当だ。


「どこにもいない、この階じゃないのか?」


壁を伝う円形の螺旋階段がある広場に出てしまった。


「おいそこ!動くな!!」

「見つけました。火凛です。」

「遠野もいるぞ、そいつが元凶だ」


(いやはや、酷い言われようだ)


「遠野は射殺しろとのご命令だ」

「構えろっ!!少女に当てるなよ」


階段の上などから銃を構えた黒スーツたちが現れる。

命令で人を殺せる組織にいる連中ってすごいなと思う。

俺は火凛から離れようと円形の広場から逃げ出す。


「火凛、端に隠れてろ」


俺が通路へ入ると、黒スーツも追いかけてくる。

まだ火凛は広間の中央に立っていた。

俺は丁字路を曲がろうとした。

しかし、両側からも黒スーツが現れた。


(対人セットもってきてよかったよ)


俺は煙玉を三方へ投げつけた。

次に鼻栓をしてから、匂い袋も投げつける。

鼻で吸ったら3日くらい残る刺激臭、頭が朦朧とする匂いだ。

視覚を奪い、思考を惑わせる。


「うぉ、ぐほぉあ、ぅぅ」

「うぇえええ、え”おぉ」


(対人用の逃亡セットをご堪能くださいな)


俺は耳栓の上から防音イヤーをつける。

仕上げとして、小さなスピーカーを10個ほど放り投げる。


大爆音。


最後に聴覚を奪う。

まさか逃げるだけの男が、そんなことをするとは思うまい。


強烈な刺激臭に咳き込む者。

咳き込んだ拍子に煙を吸い込み、喉を焼かれて倒れる者。

爆音に耳を塞ぎながら、スピーカーを潰そうと必死になる者。


(はい、逃走完了)


俺は彼らの間をすり抜けて鼻栓などを外す。

広間の入口にきて、ようやく煙が晴れた。

黒スーツに火凛が囲まれていた。


「火凛!」


そう叫ぶ俺の後ろで気配がした。

いや、背後に鈍い痛みを感じた。

ナイフが刺さっていた。


「この逃亡者めが」


そう言うと男がナイフをひねる。

俺の体から夥しい量の血液が床に流れていく。


(もうこれで、逃げなくていいんだな)


そう思った。

次の瞬間、黒スーツが消えた。

正確に言えば、ナイフを握った腕だけが残った。

広間から悲鳴が上がった。


「遠野、逃げよう」

「火凛か、……ああ、サンキューな」


広間を見ると火凛が移動する際に、何名か消し飛ばしたようだ。

俺の倍くらいある血の海が壮絶さを物語っている。


「ヒィイイイイ!!!」

「ばばば、化け物!」


腰を抜かした黒スーツが広間から銃口を向けている。

あれは危ない、恐怖で今にも撃ちそうだ。

火凛も、そう思ったのか手を前に出した。


パン。


乾いた銃声音が鳴った。

俺は左腕を撃ち抜かれた。

背後にいた通路の連中が撃ってきた。


俺は反射的に火凛を突き飛ばす。

通路から見えない位置にいれば安全だ。

火凛の驚いた表情に、申し訳ない気持ちになる。


「1人でも逃げろ」


火凛が壁に手を当てて、目を閉じた。

俺の前にあった通路が消し飛んだ。

黒スーツはいなかった。

防戦していた山賊たち、牢屋さえ消し飛んだ。


「うわぁああああああ」

「ぁああああ」

「きゃあああああ」


広場の連中が一斉に火凛へ発砲する。

俺は近くに来いと念じた。

少しだけ遅かった。

俺の右腕には数発の弾丸を受けた火凛がいた。


「お前だけでも逃げればよかったんだ」

「一緒に逃げるって約束した」


そういうと腰に手を当てて、ナイフを消した。

ドクドクと勢いよく流れていた血が止まる。

火凛が傷口を塞いだのだろう。

ふと見直すと、火凛の血も止まっていた。


「おいおい、冗談だろ」


火凛は赤い靄に包まれ始めていた。


「……少し眠い」


本当に仮眠をするみたいに言う。

子どもが眠くてしかたないみたいに。


「祈里!!」


その時、円形広間に九条の悲鳴が聞こえた。

祈里の名を呼んだようにも聞こえる。


俺は激痛に耐えながら、広間の方を向いた。

祈里を抱きしめた榛奈が落ちてくる。

あのまま頭から落下すれば助からない。

絶命する。


俺は火凛を見た。

ほぼ赤い靄に包まれていた。

あの2人を助けられないだろう。


「火凛、置いていかないでくれないか」


俺はらしくないことを呟いた。

火凛の腕らしき棒状の靄が少し震えた。

それは、ゆっくりと広間へ向けられる。


「鬼門」


そう聞こえたような気がした。

祈里と九条は、瞬く間に赤い靄で包まれ、落下直前に姿を消した。


「師匠ぅ!ダメだぁ、相手がぁおおすぎるぅ」

「六平さん、こっちに師匠さんぁいたぁあよぉう」


山賊たちの声が近づいてくる。

俺の軽くなった腕の中を見た。

火凛の姿をした赤い靄は消えていた。


手のひらを見た。

小さな折り鶴があった。

不器用に折られている。

とても素敵な折り鶴だった。

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