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第20話 反撃の狼煙は、お淑やかに

「おぉお、やまごろぉしいぃのこぉかかえぇえ」


俺は近くに滞在していた東の土蜘蛛に会っていた。

土地を護るものとして感謝しているそうだ。


大太法師を殺した神殺しと非難されることを覚悟していた。

それが好意的に迎え入れられた。

土蜘蛛は腹わたから子蜘蛛たちを産み落とした。

彼らは四方へ散り、その土地の土蜘蛛に協力を要請するという。


(九条の人柄が勝ち取ったようなものか)


九条榛奈は土地開発に火薬を使わなかった。

昔ながらの、子どもじみた花火を選んだ。

そんな甘ちゃんなお嬢様だから生んだ奇跡。

山護りの怪異はお嬢様の復帰を望んでくれた。


(だが、九条榛奈は壊れてしまったかもしれない)


あの日、九条榛奈の側近が数多く殺された。

俺の前で狂ったように泣き叫んでいた。


「師匠ぉ、九条本宿のぅみなにぃきぃてきたぁさぇ」


弥七や六平が居住区の外にある異界人の村から戻ってきた。

九条本宿の居住区内で起こった反乱は1日で収束していた。

それゆえ異界人の村では屋敷のボヤ騒ぎ程度の認識らしい。


「誤解しちょるぅもんもおるけぇ、お嬢さんわぁ隠れた方がえぇ」


道端に立つ高札には九条榛奈の人相書きがあったという。

異界人と怪異に対して危険な実験を行い、追放されたとのこと。


(お嬢様が聞いたら倒れそうな話だな)


九条榛奈は側近を連れて山賊の村まで避難させている。

そこを拠点に商人ネットワークを構築しているらしい。


(お淑やかだけど、九条は根っからの商人だな)


これで状況を把握できた。

土蜘蛛と山賊の協力も取り継いだ。

九条本宿の反乱は、大きなミスを2つ犯している。


俺と九条榛奈を取り逃したことだ。





—————九条榛奈は自分のネットワークを全て頼った。


反乱の夜から寝ずに商人たちと連絡をとり、面会していた。


「お嬢様、本当にお休みください」

「ドクター!点滴を持ってきて!!」

「食事をお持ちいたしました」


九条本宿を通過する商人たちには任意で商人登録をしてもらっていた。

現代でいうアフィリエイトや代理販売のような契約にあたる。

彼らは特定の商会に所属していない。

つまり個人事業主、フリーランスに該当する商人だ。

その名簿をフル活用して、商人ネットワークを形成する。


「九条本宿を私どもに解放していただけると聞きましたが?」

「その通りです。新たな規律のもと自由に商売をしてください」


「どうせ九条商会が悪質な契約を結ぶんだろ?」

「ご安心ください。ブランド使用料と場所代込み。売上3割で結構です」


「九条のお嬢さんが商品を買い集めてるって聞いたんだけど」

「はい、通信を遮断あるいは妨害装置、配信用ドローンなど幅広く」


一人勝ちではなくWin-Winの契約、甘すぎても足元を見られる。

何もできないお嬢様と揶揄されてきた。

けれど、実は営業が好きだったりする。


「お嬢様、目標登録数まで商人が集まりました」

「遠野さまより山賊および土蜘蛛の協力を得たと報告があります」


九条商会は何もできない張りぼて人形の私を警戒していない。

1日で新たな九条商会を構築するとは思っていないだろう。

アメーバ式の組織、個人同士が自由に商売をしつつ、助け合う。


「お嬢様、広場に遠野さんがいらっしゃいました」


(祈里、すぐ助けに行くから)


私は契約書の束をまとめて、山賊村の広場へと向かった。



◇◇◇



(すごい数の人だな、これ全員が商人なのか)


山賊の村は人でごった返していた。

屋台を始めている商人までいる。


九条商会のお嬢様が新ビジネスをはじめる。

それだけでダンジョン内の商売人が押し寄せてきた。

カメラ片手に会いにきただけのやつもいた。

グラビア雑誌に掲載されるくらいだからファンも多そうだ。


「このビッグウェーブに乗りたいと思いまして!」



”九条榛奈のイベント会場やん”

”びっぐうぇーぶww”

”スマホおじさんいて草”

”おれも行きたかった”

”ゲート前に巨大蜘蛛いて無理ゲー”

”俺も蜘蛛いて会場いけんかったw”

”まじかwww”

”報道チャンネルでみたわ”

”あれ土蜘蛛って、マ”



何やら興奮した様子で取材を受けているやつもいる。

まあ報道なんて利害関係が全てだ。


メディアは物事の一面を強調してしまう。

それを情弱やニワカが勘違い暴走するまでがセットの喜劇。

本当に人間はドラマが好きだなと思う。


おそらく九条榛奈は報道媒体も利用するのだろう。

九条商会は、眠れる獅子を目覚めさせたな。


「遠野さん、お待たせしました!」


まさに今をときめくプリンセスが駆け寄ってきた。

ファンと野次馬が押し寄せ護衛が耐えている。

俺は助手席のドアを開けた。


「隠れるつもりは全くないみたいだな」

「はい、私は清廉潔白ですから」


いつもの春風みたいな笑顔を見せる。

よいしょと言いながら九条が助手席に乗り込む。


”軽トラに俺はなる!”

”変態いて草”

”ジャンボ君が人気すぎて”

”おれも買ったわ”

”普通の軽トラかったら椅子が痛くて草”

”ハルナ商人団の団長きたーーー”

”なにそれkwsk”

”榛奈氏、お疲れ気味”



九条は寝ていないのか、目元のクマと首元の拭った血の跡が痛々しい。


「15歳の女の子、一命を取り留めたらしいな」

「はい、あなたがたが逃してくれたお陰ですね」


(夜逃げ屋みたいに言わないでほしい)


「今日の午後、ハルナ商人団が九条本宿を訪れます」

「ハルナ商人団って、お前の組織か?」


九条が1枚のチラシを渡してきた。

草の根ネットワーク、これなら潰されないな。


「居住区になだれ込んで、私たちが地上の商会員を抑えます」

「その隙に、四方から山賊たちが襲撃する」

「はい、そして地下施設から人々を解放します」


九条商会の応援部隊がダンジョン内に来るという情報があった。

そのためゲート前に土蜘蛛、九条本宿の付近には無数の子蜘蛛がいる。

それもあってか、九条商会の応援部隊は来ていない。


”ここの配信が蜘蛛の原因か”

”マジで迷惑やな”

”自己中すぎる”

”休みなのに観光いけなかったわ”

”ダンジョンで戦争があるってきたw”


そのコメントを見て、九条はドローンをオフラインにした。


「少し景色のいいところへ連れて行ってください」


(かしこまりました。お嬢様)


————俺は村から離れた静かな場所に停車した。

後ろのシェルで、火凛と弥七と六平がトランプをしているが黙っておこう。


軽トラは狭いからエアコンが異常に効く。

九条榛奈は眠っていた。

商人じゃない俺に会って気が抜けたのだろう。

エンジン並みにうるさいエアコンが映画女優のシーンを台無しにしている。


祈里はなぜ連れて行かれたのか。

九条の父親は何を研究している。

弥七の妹に何が起きた。


(町娘の衣装を褒めてやればよかったな)


ふと祈里を思い出した。

まだ子どもだ、しかも承認欲求も強い。


ふとシフトレバーに置いていた手が冷たくなった。

九条榛奈が手を掴んだ。

俺の手を持ち上げて、両手で包む。


「祈里を、どうか助けて」

「ああ、そのつもりだ」


目を覚ましての第一声が祈里か。


「何をしているんだ?」

「時間になったので九条本宿へハルナ商人団を向かわせます」

「すでに山賊たちは外壁を囲んでいる。お前の合図で突入するよ」


九条榛奈が強く手を握りしめてくる。


「それと遠野さん、祈里を離さないでください」

「なんの冗談かわからないが、御免被る」


九条は小さく肩を落とした。

俺は手を離してもらい、エンジンをかけた。


「あいつの好きにすればいい」


九条ドローンが白く点滅してオンラインに切り替わる。

祈里に何の事情があるのかはわからない。

全く迷惑な話だ、と思う。


(あいつが逃げたいなら付き合うだけだ)

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