表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/24

第19話 それでも九条榛奈は立ち上がる。

白羽祈里は、近所の可愛い後輩だった。


私は親の都合で、付き合う友人に限りがあった。

祈里は格式ある神職の出身だから一緒に遊べた。

なにより、神童として尊敬していた。

私は、九条榛奈は心から祈里に憧れていたのだ。


「祈里、私の声も聞こえないの?」


大太法師を宿したとの一報を受けて失神しそうになった。

またか、と思った。

この子は昔から変わらない。

無鉄砲で、無茶苦茶で、格好良くて、いつも遠くに行ってしまう。

いつも事件を起こす。

わんぱくな妹。


「髪の毛、染めなくなったんだね」


祈里に櫛を通しながら呟く。

独り言みたいに、昔みたいに。


「遠野さん、無事だったよ」


祈里の指が微かに動いた。

…少しだけ、オジサンに嫉妬してしまう。

遠野直樹。

最初は逃げ回るだけの情けない男だと思ってた。

だけど、配信から目を離せなくなっていた。

逃げるのも悪くないな、って思えた。

いつのまにか笑ってた。


「祈里が夢中になるのもわかる気がするよ」

「お嬢様、遠野さんが目を覚ましそうです」


私は窓際から離れる。

祈里より5つも年上のお姉さんなのに、憧れてしまう。

あの事故が起きた後も、それは変わらない。


祈里は、私が軽蔑したと思っている。

世界を敵に回したと牙を剥いた。

それを見るのは辛かった。

たとえ祈里が私を嫌っていてもいい。

それでも私は祈里を守りたい。



◇◇◇



あれはそう、遠野さんが病室を出て、すぐのことだ。


「父が暴走した!?」


その一報は、九条本宿を崩壊させるのに十分すぎた。

所詮はお嬢様。

私の元へ連絡が来るのも遅かった。

ただの張りぼて、操り人形。


それが合図だった。

九条本宿の部隊は半分に分裂。

こんなにもあっけなく崩壊するのかと笑ってしまう。

自室へ戻り、九条商会へ連絡をとるが圏外になっていた。

入口では火の手があがっている。


「お嬢様、お逃げください!」


爺が私兵を連れて駆け込んでくる。

ナイフを持った商会員と争っていた。


裏口から侍女が駆け寄り、出口へと促す。

私が裏口を出ると、すぐに閉められて、大きな木で封鎖された。


「まだ爺が部屋にいます!!」


私の部屋が燃えていた。

赤子の頃から世話をしてくれた恩人を残して。


「佐伯様より命に代えても守るよう申し付かっております」

「お嬢様、お願いです。どうか!」


半ば強引に扉から引き離されていく。

自分でも恥ずかしいくらいパニックだった。


「遠野様が地下施設へ向かい火凛様を救出、地上に脱出しました」


近距離通信で最新情報が入ってくる。

しかし、通話は一方通行。


(どうして火凛ちゃんが地下にいるの?)


やはり遠野さんは嗅覚が鋭い。

迅速に火凛ちゃんを救ってくれた。

私は祈里を助けに病室へ行かなければ。


パンッと乾いた音が鳴った。


私の前にいた世話役の女の子が倒れた。

床には胸元のあたりから真っ赤な血が広がる。

まだ15歳、いつも元気でハツラツとした少女。


「他の商会がいる!銃を持ってるぞ!!」

「お嬢様を囲め!!!」


父の暴走だけではなかった。

他の商会が絡んでいた。

少しずつ長い時間をかけて絡め取られていた。

それに気付かなかった。

本当に張りぼてのお嬢様だ。


「ごめんなさい。貴方たちだけでも逃げて!」

「そうはいきません!!」

「逃げなさい!!これは命令です!!!」

「失礼します!」


そう言うと部下たちは私を担いで駆け出した。

力のない侍女たちが後ろで両手を広げる。

銃声が響く。

私の盾となった彼女たちが倒れていく。


そばには柱へ隠れて応戦するフリをする護衛。


(銃なんて持っていないのに)


私は馬鹿だ、火薬を全て花火に使ってしまった。

日本は世界で唯一、火薬で誰も殺さず皆を楽しませる国。

そんな子どもみたいなことを宣言していた。


乾いた銃声とともに大切な人たちが倒れていく。

地獄だった。

これ以上の地獄はない。


ああ、そうだ。

そうだったんだ。

祈里が狂犬になった理由。

少しだけわかったよ。


最後まで担いでくれていた屈強な護衛が倒れる。

私の肩を貫いた銃弾が致命傷だったのだろう。

ありがとう。

もう十分です。ありがとう。


「九条榛奈だな?」


私は最後の抵抗で拳銃を向けた相手を睨みつけた。

その直後、通路の窓ガラスが割れた。


「煙玉だ!山賊もいるぞっ!!」

「九条親衛隊もいるぞぇ」

「弥七、嘘をつくな。少人数だってバレる」


遠野の隣に、祈里は一緒にいなかった。

遠野が大音量にしたスピーカーを敵へ放り投げる。

山賊が斧で男たちの足元を襲う。


「いたあぇ、お嬢様ぁだあぁ」


遠野が駆けてくる。

私を担ぎ、再び駆け出す。


「なぜ助けるの…契約書があるから?」

「はははっ、お嬢様ジョークか」


全く動機がわからない。

遠野のホログラムにコメントが溢れていた。


”ループ動画おわったら惨劇で草”

”九条榛奈氏を担ぐおっさん”

”また逃げておるw”

”九条商会の殺戮動画みちったよ”

”いま拡散してるから気をつけれ”

”おれも見た、即ブラバしたわ”

”お嬢様だけ助かったんか”

”九条榛奈が犯人らしい”

”あれAI動画だろ?”

”いや指名手配されるぞ”


世間の声を聞いて少しだけ冷静になる。

やはり私を助けるメリットなんてない。

祈里との関係も伝えていない。

なのに、どうして————


「通りすがりだよ、理由なんてあるか」


しばらくすると、肩から下ろされた。

どうやら逃げ切ったらしい。


「逃げたい奴を見かけた。だから拾った」


私は噴き出してしまった。

はしたないとは思ったが、可笑しかった。

だって、本当に拾ったんだろうなと思えたから。


「おい!落ち着け!!ゆっくり呼吸をしろ」


遠野が肩を揺らしていた。

私は、…どうやら、泣き叫んでいたようだ。


小さな頃から一緒にいた侍女、護衛、爺。

誰もが真っ赤に染まっていった。

私を置いていなくなってしまった。


「おい!頼む、しっかりしろ!!」

「……」

「…祈里が地下にいた、何か知ってるか?」


その言葉に血の気が引いた。

祈里を、妹を巻き込んでしまった。


そうか、まだ…逝けない。

みんな、ごめんなさい。

私は立ち上がり、感情を押し殺す。


「知り合いの商人ネットワークがあります」

「そうか、俺は山賊に貸しがある」


これで契約は成立した。

祈里、すぐに行くよ。

1日で大切な人を、たくさん失った。

たぶん今日、九条榛奈も一緒に死んだ。


もうお嬢様ではない。

もうお人形でもない。

もう誰もいない。

さよなら、九条榛奈。


それでも私は、九条榛奈は立ち上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ