表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/26

第12話 土蜘蛛と化け物

”ニュース速報きたぁああ”

”マジもんの土蜘蛛だった”

”神話級の怪異とかw”

”逃亡Lv99のおっさん、無事に伝説を更新”


そんなコメントを最後に、配信が一瞬だけ途切れた。


山童とか山姥、鬼といった次元ではない。

大昔の神話に出てくる土蜘蛛が現れたせいで、九条ドローンの通信が乱れている。

それでも数秒後、画面は復旧した。

同接はあっという間に200万を超えていた。


(あいつら…山賊たちは逃げられたのか)


土蜘蛛が俺と弥七を追いかけてくる。

目の前の視界が開けてきた。


「弥七、行くぞ」


弥七は崖の上から勢いよく飛び上がった————



◇◇◇



—————雷鳴と横殴りの雨の中、俺は弥七に案内されて屋敷の裏手にいた。


そこには大きないわやがあった。


「わしが行くでぇ、松明くれぇ」


六平が先導して歩く、異界人は夜目が利くようだ。

窟の奥には石牢があった。

九条商会の眩しすぎるLEDライトによって窟が昼間のように明るくなる。

それを嫌うかのようにコウモリが飛び、ネズミが逃げていく。


「少し気味が悪いところですね」


さすがの九条お嬢様も湿気った洞窟は辛いらしい。

それにしても山賊の石牢幽閉に驚いていないのは意外だった。


(あまり詮索すると逃げにくくなるからな)


俺は深く立ち入らない。

火凛のように天涯孤独の子は多い。

幼くして絶命する境遇もあるだろう。

だが俺はヒーローじゃない。

偶然、目の前で救いを求められた。

「祓って」と言えたから火凛を逃がせた。


「待ってろぉ、今ぁ出しちゃるけぇ」


六平は山賊とも知り合いのようだ。

俺はマルチツールで鉄格子をカットする。

当たり前だが、不純物が多いので脆い。


「なんでも持ってるんですね」


それを感心したように防塵マスクをした九条が呟く。

俺はミニバールで鉄格子を曲げた。

そこから山賊たちが脱出していく。

———と、そこまでは良かった。


「わしぁのぉまんまぁをとるでぇねぇええ!」


老婆が窟の奥深くから姿を現した。

すでに半分くらい蜘蛛の姿をしていた。

人間の皮が破れている様は見ていて気分が悪くなった。


「柿崎さん!榛奈さんを連れて行けっ!!」

「はい、おじょ、お嬢様、こちらにぃいい!!!」


そう叫ぶ柿崎を《《九条が手を引いて》》出口へ連れて行く。

九条のほうがしっかりしてるという現実が辛い。

柿崎が若いから許される姿だ。


「遠野さんぇ、このままじゃぁくわれるぅわぁ」


六平たち異界人が槍や投石で土蜘蛛を威嚇していた。

俺はすぐさま煙玉を投げつけた。


「六平さん、山賊たちを連れて逃げろっ!」


六平たちの波に逆らって、俺のところへ弥七が駆けて来た。

足に自信があるのだろう、俺に似たタイプかもしれない。


「あんたぁ、おれりゃにもぉやさしいぃんだなぇ」

「違う。面倒に巻き込まれたくないだけだ。感謝はしなくていいし、関わらないでくれ」


”即答w”

”容赦なくて草”

”異界人の少年、速攻フラれる”

”それでこそ逃亡者”

”逃げる人生に哲学を見た”

”逃亡者、遠野直樹 46歳”

”なんで偉人っぽくなってんんだよwww”



俺はコメント欄を見て、思った。

九条商会は「山賊討伐」を任務として受けている。

山賊は犯罪者と見做されているわけだ。

彼らを逃したら九条商会に責が来るかもしれない。


「いやー、山賊は土蜘蛛に無理やり加担させられていただけだったんだなぁ」


横目でホログラムを見る。

なぜかコメント欄が止まっていた。

大根役者が下手な芝居を打ったからか。

同接数は減っていない。

————すると、コメントが大量に更新された。


”そうか!山賊は土蜘蛛に脅されていたのか”

”土蜘蛛が黒幕か!山賊は無罪だな”

”土蜘蛛よくない”

”九条榛奈さんは山賊の事情をくんだのか素晴らしいな”

”は・る・な!は・る・な!”


凄まじい九条榛奈ファンのコメントに圧倒された。

アイドルの不祥事を守ろうとするファンみたいだ。

これで異界人と九条は世間的に守られるだろう。

俺はそばを離れない弥七を見た。


「お前は度胸があって器用だ。協力してくれ」

「あぃよぉ!」


そういうと弥七は奥から掠めてきた土蜘蛛の財宝を見せた。

俺はニヤリと笑ってしまう。こいつのことが好きになった。

とくに説明する必要はなかった。

俺は弥七にロープを巻きつける。

そして、土蜘蛛を誘い出すように走った。


「ぅおーぃ、土蜘蛛ぅ!おいらぁ財宝もらっちったあ!!」


弥七が土蜘蛛を煽る。

俺は先を進み逃走ルートを確保していく。


「こりゃ小僧ぉ、わしゃの思い出ぞぉ」


土蜘蛛はバリバリと自らの身体を割っていく。

その体は、大型トラック並みの大きさになった。

それでも蜘蛛の足は鋭く、速い。

口から出す糸は粘着質で厄介だ、しかも溶ける。


柿崎の部隊が槍を突き、矢を放つ。

その傷口から大量の子蜘蛛がワラワラと這い出てくる。


「やめろ!攻撃するな!!」


俺は弥七を誘導しながら叫ぶ。

土蜘蛛は盗まれた財宝を目掛けて突進していた。

290年をかけて集めた宝か。


俺は山奥へ移住した時、その荷物の大半を手放した。

モノへの執着は捨てた。

大切にしていたモノを失うくらいなら最初から手放す。

そうして俺はモノからも逃げた。


(どっちが哀れなんだろうな)


必死に追いかける土蜘蛛の姿に思う。

ようやく目的地に着いた。

左右を見て安全を確認する。


「弥七、行くぞ」

「あいよぅ、まかせぃてぇ!」


一瞬の迷いもなく、弥七は崖から勢いよく飛んだ。

その後を土蜘蛛が追いかける。

弥七の腰には、俺のロープを結んである。

俺は崖沿いの大木に登り、突き出た枝にロープを掛けた。

失敗すれば弥七も俺も谷底へ真っ逆さまだ。


土蜘蛛は財宝を守り、290年を過ごした。

待ち人は来ず、目的を見失って生き続けた。

俺は思わず叫んだ。


「土蜘蛛、いま執着から逃してやる!」


地面を失った土蜘蛛が谷底へ落下していく。

先に跳んだ弥七のロープが張る。

小さな身体が谷底へ落ちる直前で横へ流れてくる。


土蜘蛛は口から糸を吐いて、なんとか減速を試みる。

だが、巨大すぎた。

その大きすぎる体が仇となった。

土蜘蛛だけが、自分の重さで止まれず落ちていく。

290年を生きた土蜘蛛は地面へ激突して破裂した。


土蜘蛛のグロテクスな映像で同接数が一気に落ちる。

その代わりに溜まっていたコメントが一気に流れてきた。


”子どもを囮にする46歳、プロの逃亡者”

”おっさんが敵と全く向き合わない件w”

”これはエグい”

”閲覧注意w”

”ウゲェ”

”気持ち悪くなって来た”

”グロは突然にw”


弥七はバンジージャンプではないが、横への力を利用して着地した。

今回のMVPは弥七だ。


「よくやったな、弥七!!」


そういって思わず弥七を抱き上げようとした。

しかし、弥七は地面に煙玉を叩きつける。


真っ白な煙が舞い上がり、俺とドローンを包んだ。

そして弥七が俺に飛びついて囁いた。


「土蜘蛛は1匹だけじゃねぇ、山賊の長におうてくれぇ」

「いや無理だ、俺は戦えない」


急に弥七は流暢に喋り出した。

俺は笑ってしまった。

こいつなら一緒に逃げ切ってくれる、そう思った。


(長がいるってことは山賊は規模が大きいのか)


「九条本宿の周りには、山賊の村がいくつもある。本宿の倍はおる」

「俺は、その九条本宿に雇われてるんだがな」


弥七が声を少しだけ低くして囁いた。


「九条商会には気をつけぇ。あいつら、化け物を作っとる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ