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コンビニ帰りに宇宙人を拾った  作者: 草野猫彦


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13/15

13 俯瞰した景色

 送信から一週間が経過。

 予定通りであれば、今日になんらかの連絡がある。

 いつとは聞いていない。

 だがダメならダメで、すぐに連絡はあるはず。

(どうするかな)

 もちろん依頼があれば、アシスタントにリモートで入った。

 そんなスケジュールが、ぽっかりと空いてしまった。


 ソラは今日も家にいる。

「幸一さん」

「なんだ?」

「ネームの続きは描かないのですか」

「没だった時に無駄になる」

「では新作は」

「通った時に無駄になる」

「そうですか」

「ああ」

 かといって何も、しないというのもおかしい。

 やろうと思えば、インプットはいくらでも出来るのだ。


 だが――。

「……やめとくか」

「何をですか?」

 背後からの声に、幸一は椅子の背にもたれたまま応じる。

「ソラも、今日は休みなんだよな」

 ソラは頷きながら言った。

「現時点ではインプットが最適と考えます」

「分かってる。でも、あえてだ」

 言い切る。

「休む」

 ソラは数秒、沈黙したあと、

「了解しました」

 と答えた。

「聞き分けがいいな」

「気分転換に逃避するより健全です」

「こいつ……。散歩でもするか」

「行ってらっしゃい」

「そうじゃなくて、お前も」

 そこでソラは少し考える。

「はい」

 返答は短かった。




 外は夏。

 照りつける日差しと、アスファルトの熱。

 玄関で靴を履き替えたあと、幸一は一瞬だけ動きを止める。

「……それで行くのか」

「はい」

 ソラは白いワンピース姿だった。

 どこにでもある、ありふれた形。

 似合っているが、一度も見たことがなかった。

「夏なので!」

 胸を張る。

「……そうか」

 いつの間に買ったのだろうとか、定番すぎる装いだなとか、色々と考えるだけは考えた。

 しかし口にはしない。


 目的もなく歩く。

 だが自分の愚かさを、幸一は痛感する。

「暑い……」

「屋内への退避を提案します」

「だよなあ」

 あの公園でも、遊んでいる人間はいない。

 ……平日だからだが。


 生活が始まってすぐは、一緒に出掛けることもあった。

 だが特にここのところは、別々に行動することが多かった。

 どうせ家ではいつも一緒だったからだ。

「どこ行く」

「提案があります」

「なんだ」

「デパートに行きましょう」

「……デパートって、駅近の?」

「全館冷房です」

「まあそうだろうけど」

「ガラス張りの屋上からは町が俯瞰できます」

「へえ」

 済んでからもう何年が経過していたろう。

 なのに知らないことは多い。

 悪くない。


 屋上は思っていたよりも静かだった。

 子供が一人、遠くで遊んでいる。

 ベンチと、柵と、自動販売機。

「意外と穴場なのにな」

「何がですか?」

「人がいない」

「遊具もありません」

「そういやそうだな」

 タブレットがあれば作業が出来る人間は珍しいのだ。


 柵の向こうに、街が広がっている。

 ガラス越しで、それだけでさらに遠い。

「自殺防止用の意味もあるのか」

「自殺」

 横にソラも近寄って並ぶ。

「そう、学生の頃、俺の目の前で電車に飛び込んだ人間がいた、らしい」

「らしい?」

「スマホ見てて気づかなかった」

 だから、何も見ていない。


「それから、どうしたのですか?」

「日常は何も変わらない」

 だから変えるために、今は生きていると実感している。

「宇宙人も自殺ってするのか?」

「答えられません」

「じゃあソラは、人間が自殺することを、理解出来るか?」

「ある程度は推測できます」

「そっか」

 普通はこんなことは、誰かに言わない。

 自殺することを見逃して惜しかった、とか。

 そんなところにいたら、もう少し何か変わってもよかったのでは、とか。

 何も変わらなかった。




「あそこ」

 ソラが示す指の先。

「コンビニです」

「そうだな」

「あちらにアパートがあって、スーパー」

 そこからまた違う方向へ。

「公園です」

「よく見えるな」

「記憶しています」

「高性能だから?」

「はい」

 思わず笑ってしまった。


 幸一も指を伸ばす。

「あの先に、ビルがある」

 それはここからは見えないものである。

 ソラは正確に視線をなぞる。

「俺が担当と打ち合わせてる喫茶店があるんだけど」

 すぐ近くには、大きな書店もある。

「今度、行ってみるか?」

 はい、という回答が来ると思っていた。

 だが、ソラは少し遅れた。

「機会があれば」

 それは、ないかもしれないということか。

 幸一は口にしない。


 ここでは違うことを聞く。

「気分、はどうなんだ?」

 少しだけ間があった。

「非生産的ですが、とても開放的です」

「……そういう評価か」

 だがソラの表情には、何か感情の色が浮かんでいる気がした。

 それがどういうものか、幸一には分からなかったが。


 デパートの中は、冷房が効いていた。

 人の流れに紛れて、二人で歩く。

 特に目的はない。

 だが、ふと足が止まる。

「幸一さん?」

「ああ、ちょっと待て」

 ディスプレイに、それは並んでいた。

 さっと会計をして、ソラに渡す。

「帽子ですか」

 軽い素材の、夏用のもの。

「その格好には合うはずだ」

「確かに、パターンに一致します」

 白いワンピースに、確かに似合っていた。


 少しだけおしゃれ度が増した、ソラと歩く。

「幸一さん」

「ん?」

「ありがとうございます」

「まあ、色々と世話になってるしな」

「では今後もお世話をしますね」

「そうだなあ」

 どれだけ先の話になるのか。

「幸一さん?」

「ん?」

「私には似合ってますよね」

「だから買ったんだけど」

「ありがとうございます」

 二度目のソラの礼。

 なぜ二度目だったのか、幸一は深く考えなかった。


「最適化に近づいています」

「そうか」

 衣装にまで、そういう評価をするのか。

 それはどういう基準なのだろうか。

 それ以上は言わない。


 外に出る。

 さっきと同じ道。

 だが、少しだけ違う。

 影の形が変わっている。

 時間が進んでいる。

 部屋に戻る。

 靴を脱ぐ。

 冷房が入れたままなのは、その方が電力消費が低いと、ソラが言ったからだ。

 いつもの場所に座る。

 パソコンの画面は、変わらない。

 メールの通知も、まだない。


 幸一は椅子に座ったまま、少しだけ天井を見る。

 それから、手を伸ばす。

(何か、やっぱりするかな?)

 その瞬間であった。

 スマートフォンが震えて、電話の着信を示してくる。

 編集の佐伯からのもの。

「幸一さん」

「ああ」

 覚悟を決めて、幸一は通話をタップした。

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