第14話
あれから俺には、ありふれた日常が戻って来た。
何も変わらない日常。
それは掛け替えのない大切な日々だと俺は思うようになっていた。
沖縄で戦死した人の遺骨収集をしているとテレビで報道されていた。
俺は居てもたっても居られずに、その団体に連絡して参加することにした。
ボランティアが遺骨収集の大きな力になっているそうだ。
「沖縄に行こうと思う。」
「えっ? いつ行くの?」
「それは……。」
「夏休みでしょうね。」
「えっ?」
「泳げないじゃないの。真美にとっても夏休みがいいわ。
それで、いつ行くの?」
「えっ?」
「いつ行くの?」
「まだ、そこまでは……。」
「もおっ! 日にちは私が決めるわ。いいわよね。」
「………うん……あっ! でも…………。」
俺は沖縄へ行く理由を話した。
妻と娘には沖縄観光をして貰う。
そして、俺は観光ではなく、遺骨収集をするのだ。
その理由を聞いた後で、夏休みに沖縄へ行くツアーを妻は予約した。
妻は理解してくれた。嬉しかった。
「おやじ」にそのことを話したら、「じぃちゃん」を通して「ひぃばぁちゃん」に伝わったようだ。
ある日、手紙が届いた。
「お変わりありませんか。
先日、晴四郎さんから電話を頂きました。
貴方様が沖縄へ行かれて、御遺骨の収集をなさると伺いました。
有難いことだと心より感謝申し上げます。
僅かではございますが、別便で送らせて頂きました。
沖縄でのお食事にでも使った頂けると幸いでございます。
皆様の御健康と御多幸をお祈りしております。
本当にありがとうございます。 桐子 」
何となく、「ひぃばぁちゃん」の紀州弁が聞こえてくるような気がした。
生まれて初めて現金書留を受け取った。
現金書留の封筒は普通の封書と比べると厳重に封をしてあった。
⦅へぇ~~っ、こんな風になってるんだ。⦆
「ええええええ!」
中に5万円も入っている。
「ひぃばぁちゃん」は年金生活のはず。
それも基礎年金だけだって聞いてた俺は、5万円が「ひぃばぁちゃん」にとって大金だと思った。
思わず「おやじ」に電話した。
「何か用か?」
「あのな、「ひぃばぁちゃん」から現金書留が届いたんだ。」
「あぁ、届いたか。」
「知ってたのか?」
「うん、まぁな。」
「それが、5万円も入ってたんだけど……「ひぃばぁちゃん」大丈夫かな?」
「大丈夫だ。貰っておけ。」
「この前も、俺たち家族にって5万円も貰ったんだ。」
「いいんだ。貰っておけ。」
「でもなぁ……「ひぃばぁちゃん」年金少ないんだろう。」
「大丈夫だ。「おばぁちゃん」の気持ちだから受け取っておけ。」
「…………いいのかな。」
「行きたかったんだろうな。でも行けなかった。
お前が行くって言ってくれて嬉しかったんだろうさ。
「おばぁちゃん」言ってた。
『御遺骨が帰ったら、それが一人分でも戦後がやっと終わる方が居る。』
そう言ってた。
だから、受け取っておけ。」
「……戦後が終わる……か……。」
「そうだ、「おばぁちゃん」の戦後は終わってないんだ。
『終わらないまま……終えるんだ……。』そう言ってた。
「おばぁちゃん」の分も行って来てくれ。」
「うん。」
「ありがとうな。」
夏休みに沖縄へ行った。
家族3人で行った。
妻と娘は海水浴と観光を楽しみ、俺は遺骨収集のボランティアをした。
暑い中、汗びっしょりで遺骨を収集していると、大石隆行さんの姿が見えるような気がした。
笑みを浮かべた大石隆行さん。
その傍には恥ずかしそうに俯き加減で頬を染めている雪子さん。
⦅あぁ………ここには大石隆行さんは居ない。
でも、同じだろうな……。
同じように家族との別れの後、ここで亡くなったんだ。⦆
夜にホテルで妻と娘に会い、夕食を食べて家族の時間を過ごした。
そんな日を過ごして、俺は家族と家に帰った。
家に帰ると、妻と俺は服の洗濯などをして忙しかった。
娘はお土産を友達に渡す用意をしている。
「幸せだなぁ~。」
「何? 急に……。」
「うん、遺骨の収集をしているとね。
この人達にも人生があって、それが急に終わったんだなぁ……。
そう思うと、俺は幸せだな。
樹里が居て真美が居て……健康で……仕事もあって……。
幸せだよな。」
「……そうね。「義曾祖母さん」にお礼を言っといてね。
5万円、本当に助かったもの。」
「うん。」
この世界には、まだ収集されていない遺骨が沢山あるのだろう。
その骨は、元々元気な人達の骨だ。
戦争で亡くなった方の骨だ。
俺は平和な時代に生まれてラッキーだと思った。
そして幸せだと心から思った。
誰にも大石隆行さんや雪子さんのような人生を歩んで欲しくない。
勿論、俺も歩みたくない。
あの経験は「夢」だったのだ。
何も知らない俺が見た「夢」だったのだ。
俺はあの「夢」から多くを学んだ。
【影を慕いて】という曲があるそうだ。
その曲を「ひぃばぁちゃん」は好きだと言った。
俺は、あの「夢」を見たことで知ったのだ。
大石隆行さんは雪子さんの……、雪子さんは大石隆行さんの……【影を慕いて】いた。
そして、「ひぃばぁちゃん」は姉である雪子さんの【影を慕いて】いたのだ。
あの「夢」を見た俺は、今までとは違う。
どこか遠くの出来事の戦争が、昔の出来事の戦争が近くなった。
俺は平和が続くことを願う。
そして、この幸せを永遠に!と願う。




