第13話
俺の身体に何が起きたのか理解出来なくて呆然としていた。
「ひぃばぁちゃん」は俺の変化に気が付かなかった。
台所で沢山の料理を「ひぃばぁちゃん」は作り続けて居る。
俺のあの経験が、夢では無いのなら何だったのだろう。
⦅過去に一瞬行って来た?
否、そんなことは出来ない……出来るはずが無いのだ。
でも……夢なら……どうして名前が同じなんだ?⦆
俺の頭の中はパニックになっていた。
名前を聞くまでの俺は、「あれは夢」と思っていた。
夢でなければ何が起こったのか――それは恐怖だった。
⦅俺の身体は、どうなるのかな?
何か悪い事が起こるのか?
樹里……真美……二人の為にも俺は元気でないといけないんだ。
くそっ! どうして、あんなことが起きたんだ!⦆
この日から、俺は自分の健康に不安を覚えるようになったのだ。
「ひぃばぁちゃん」が作ってくれた朝食をみんなで食べた。
「!」⦅これ、食べた……作ってくれて俺、食べた。⦆
「これ、なんの おにぎり?」
「めはり寿司のし。」
「めはりずし?」
「そやして、頂く時に目を張りますよし。」
「目を張る……から、めはり寿司。」
「そやして。」
「美味いでぇ~、お母さん、お代わり、ありますか?」
「ありますのし。」
「頂きますよし。」
「仰山、ありますのし。そんなに急かいでも……。」
「お母さんのめはり寿司は美味いんやしてよぉ。」
⦅そうだ、美味しい……やっぱり過去へ行ったのかなぁ~。⦆
朝食を終えたら「ひぃばぁちゃん」と「じぃちゃん」は大石隆行さんの妹さんの所へ行った。
⦅妹さんって居てたか?
居てたのかな?
覚えてないや……と、言うことは……やっぱり夢……。
でも、名前が合ってたし……。⦆
そんなことを考えながら、妻と娘を家に送った。
娘のピアノ教室の日だからだ。
今日は土曜日。
自宅に送った俺は、「樹里、明日の夜の帰るから……。」と言った。
妻は「行ってらっしゃい。こっちは大丈夫だからね。うちの両親が来るから……。」という返事が来た。
そして、あっさりと家の中に一瞥もせずに入って行った。
ちょっと……いいや、めちゃくちゃ寂しかった。
娘も「バイバイ。」と言うだけだった。
寂しい!
⦅大石隆行さんが少しだけ羨ましいぜ。⦆
そう俺は、羨ましいと思ってしまった。
でも、本当に羨ましいかと聞かれたら……きっと「羨ましくない。」と答えただろう。
「じぃちゃん」の家に車で戻ると、夕方だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
戻って来た「ひぃばぁちゃん」と「じぃちゃん」。
疲れた様子だったが、疲れよりも喜びの方が勝っていると言った。
妹さんは幼い頃に養女に出されたそうだ。
子どもが居ない遠縁に養女に出されていたが、実の親とは手紙で交流があったそうだ。
兄である隆行のことも何度か会ったことがあるということだった。
隆行と雪子の結婚式にも来ていたそうだ。
隆行が出征する日まで、大石家に居たそうだ。
そして、その妹から大石隆行と雪子の結婚式の時の写真と、出征前夜の宴の時に全員で撮った写真を貰ったそうだ。
どちらもカラー化してあった。
「ひぃばぁちゃん」はとても喜んでいた。
何度も写真を優しく撫でながら「姉さん……姉さん……。」と呟いていた。
「ひぃばぁちゃん」にとっての戦争は、まだ終わっていないのかもしれない。
「仰山、そのまんまやして。」
「何が?」
「お骨のし。」
「お骨?」
「戦死なした兵隊さんのお骨やして。
お国の為に戦死なしたお方のお骨……。
そのまんま……沖縄でも……残ってるんやして、え。
外地やしたら……どないなこと……。」
「そうか………そのまま………お骨は戻って来てない。」
「そや、戦争やしてよぉ。遺品も戻って来んわな。」
「それが、戦争……。」
「そやして、それが戦争やして。」
「それが……戦争………あの……。」
「なんや?」
「大石隆行さんのお骨も戻って来てないんですか?」
「お前は、何を聞いてたんや。」
「いや、一応、確認したいなぁ~って思ったから……。」
「何も戻って来んかったんやして。
白い布に包まれた白木の箱を受け取りなさいましてのし。
その白木の箱の中には、大石隆行さんの物は何もなかったんやして。」
「そうなんですか……じゃあ、お骨も遺品も……戦争で亡くなった場所に?」
「そやして。」
「そうか………行きたかったでしょうね、その場所へ……。
ご家族の皆さんは……。」
「そやな……。」
「ひぃばぁちゃん」は月曜日に和歌山へ帰って行った。




