第12話
目が覚めた。
部屋を見た。
「……ここ………じぃちゃんの家だ………。」
「やだぁ~、寝ぼけたの?」
「あ………………樹里?」
「どうしたのよ。」
「樹里………樹里! 樹里!」
俺は妻を抱き締めてキスした。
朝起きて直ぐに、夫の祖父母の家で誰も入って来ない部屋とはいえ……急に俺から深いキスをされた樹里は、俺の胸を叩いて止めさせた。
「何すんのよ。」と小さな声で怒っている。
その顔が可愛くて堪らない。
「愛してるからさ。」
「何言ってるの……。」
「愛してる? 俺のこと。」
「今、5時よ…………真美は寝てるのよ。
起こさないようにしないと……。」
妻が指さした先には愛する娘がスヤスヤと寝息を立てている。
「もう! 可愛い!」
「止めてよ。抱き上げようとしないで! キスしないで!
……起きちゃうでしょう。」
終始、妻の声は小さかった。
真美を起こさないように気をつけているのだ。
当然だ。5時なのだから……。
「平和だ…………幸せだ。」
「何言ってるのよ。平和で当たり前でしょう。」
「当たり前? 違うよ……当たり前じゃないんだ。」
「どうしたの? 昨夜の曾祖母さんのお話を聞いて感化された?」
「感化? そうかな………うん、そうだ。」
「まぁ、お気の毒よね。三日間の結婚って……。
でも、親が決めた結婚なら別にいいんじゃないかなぁ。」
「それがだね、違うんだよ。樹里君。」
「何の真似なのよ。」
「あの二人は心から愛し合ってたんだよ。樹里君。」
「だ・か・ら……誰の真似してるの?」
「愛し合った二人が戦争で引き裂かれたんだ。
そんな人が居たんだよな………。」
「そりゃそうでしょう。今もあるんじゃないの?」
「そうだよな、今も戦争してる国があるんだからな。」
「もうちょっと寝たいのよ。静にしてくれない?」
「樹里君、君って、つれない………。」
「はい、はい。」
隣で妻と娘が寝ている。
俺は眼が冴えて、まだ空が明るくなっていなかったが、起きて「じぃちゃん」の家の中を歩いた。
歩きながら考えた。
⦅あれは、やっぱり夢だったんだろうか?
夢にしてはリアルだったなぁ……。
まさか、過去に戻って帰って来たとか……無いか……。
俺の目の前で繰り広げられえた……映像のような……のもあったな。
あの大石隆行さんになったような感覚の時と、見ている感覚の時があった。
これは、一体どんな経験だったんだろうか?
経験して居なくて夢だったのか?
分からない。
……でも、帰って来れて良かったぁ~、ほんと良かった。⦆
朝5時、そういえば「ひぃばぁちゃん」のお姉さん・雪子は5時には起きていた。
起きて朝食の準備をしていた。
「じぃちゃん」の家の台所に行ってみた。
割烹着を着て忙しく台所で朝食を作っていた姿を思い出したからだ。
多分誰も居ないだろうと思って行ってみたら、割烹着を着て朝食を作っている人が居た。
「ひぃばぁちゃん!」
「……起きなしたのし。」
「こんなに早く、何してるの?」
「ここは厨のし。」
「くりや?」
「……台所ちゅうたら、お分かりかのし。」
「台所……そうなんですね。
………あっ!……喉が渇いたのですか?
水でしたら……。」
「朝餉を作ってますのやして、え。」
「朝餉?」
「お世話になって、何もせなんだら、あかんと思いますのし。」
「いや、逆ですよ。「じぃちゃん」困ると思います。」
「なんでのし。」
「なんでって……「ひぃばぁちゃん」が疲れたら駄目だからです。」
「………今は……昔と違うて……楽さしてもろうてますよし。」
「それは、そうでしょうけれど……。
「じぃちゃん」の家に来たんですから、ゆっくりして下さいよ。」
「おおきに。」
「おおきに。」と言いながら、食事を作る手は止まる気配が無い。
俺は黙って「ひぃばぁちゃん」を見ていた。
あの記憶の中にある雪子の割烹着姿が目に浮かんだ。
「あの………昨日の話のお姉さんのお名前、教えて下さい。」
「姉さんの名を?」
「はい。」
俺は知りたかった。
あの経験が過去の事実かどうかを知りたく思ったのだ。
「雪子でございますのし。」
「雪子!」
「そないに声を出すような名やありませんえ。」
「あ………済みません。
ついでに、雪子さんの結婚相手の名前は?」
「義兄さんの名でございますかのし。」
「はい。」
「義兄さんの名は、大石隆行さんでございますのし。」
「!」
俺のあの経験は過去の事実だったのだ。




