↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を慕いて  作者: yukko
PR
11/15

第11話

雪子は泣きながら大石隆行の両親に話した。

夫である隆行には、出征前夜に話したことを……。


「お舅(と)さん、お姑(か)さん。

 今まで話せなんだ事がございますのし。

 聞いて頂かして。」

「ふん、聞かせてもらおかい。」

「私(わたえ)は女学校でお国の為に働いておりました。

 そのお仕事は……赤紙に名(なあ)を書くことでございました。

 私(わたえ)が書いた赤紙の中に………旦那(だな)さんの名(なあ)が……。

 申し訳ないこと……してしまいましたのし。

 私(わたえ)が書いたから…………堪忍して頂かして。」

「!………何を言うてるんや。雪子のせいやないんやしてよぉ。」

「そないでございますのし。

 雪子さんが書かんかっても、他の誰ぞが書いただけのし。」

「そないなこと……思い詰めとったんかいし。アホやな……。」

「もう……雪子さんは……。

 このこと、隆行さんは知ってましたんかいな。」

「お話ししましたよし。」

「あれは、どない言うとった?」

「『気にしたらあかん……僕は雪子が書いてくれた赤紙を大切にするよし。

 雪子の字(じい)やしてよぉ。』……そない……に……。

 私(わたえ)を気遣うておくれやした。」

「それ、気遣いやあらしません、え。

 隆行さんの本心のし。」

「本心……?」

「そや、あれはな。雪子を妻にしたかったんやして。

 そやしてよぉ、兵役が終わって帰って来たら、直ぐに祝言やちゅうて……。

 待っとたんや。祝言の日を今か今かと……。

 赤紙が来たんは、しゃーないことや。

 待ち甲斐はあったわのう。祝言出来(でけ)たんやしてよぉ。」

「お舅(と)さん……旦那(だな)さんは……断りを………。」

「そりゃあ、赤紙が来たからやさけ。

 雪子を後家にしとうない、そない言うとった。」

「雪子さん、隆行さんは幸せ者(もん)やったと思いますのし。

 嫁いで来ておくれなして……おおきに、ありがとう。」

「お姑(か)さん………。」


大石家は隆行の両親が母屋で、雪子が一人で離れで暮らした。

終戦間際それから終戦後に日本は医薬品が足りず………特に地方は足りていなかった。

大石の両親は同じ病気で亡くなった。

肺炎だった。

雪子は大石の両親を看取って間もなく天の園へ旅立った。

雪子は腎臓疾患に罹っていたが、診療所で診て貰うと「血の道や。」の一言だった。

後日、実家の両親が和歌山市内の病院に連れて行った。

「血の道」などではなく、腎臓疾患だった。

最後の日が近づいたある日のこと……。

妹の桐子が病院に見舞いに来ていた。


「姉(あね)さん、どないでございますかのし。」

「…………。」

「姉(あね)さん…………。」

「………旦那(だな)さん……。」

「姉(あね)さん?」

「幸せのし………旦那(だな)さん………の………娶うてもろて………。」

「…………姉(あね)さん…………。」

「………旦那(だな)さん………美(う)っつい……のし………。」

「…………姉(あね)さん…………。」

「紀ノ川が……美(う)っつい…のし。」

「姉(あね)さん! 先生をお呼びして来ますよし。」

「………旦那(だな)さん……も………美(う)っつい……って……御思いなして……。

 雪子は……幸せでございましたえ。

 ………待っておくれなして……今………………だ……な……さん………。」


妹の桐子が医師を連れてきた時には、既に息をしていなかった。

大石雪子、享年25歳。

18歳で嫁いで、夫と過ごした時間は、たった三日間。

その三日間を後生大事に思い亡くなったのだ。

奇しくも、雪子は隆行と同じ年齢で鬼籍に入った。


俺は雪子の死を見ていた。何も出来ずに……空を彷徨うように見ていたのだ。

大石の両親と雪子の死は、まるで隆行の後を追うようだった。

俺がそう思うほど早かったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。