第11話
雪子は泣きながら大石隆行の両親に話した。
夫である隆行には、出征前夜に話したことを……。
「お舅さん、お姑さん。
今まで話せなんだ事がございますのし。
聞いて頂かして。」
「ふん、聞かせてもらおかい。」
「私は女学校でお国の為に働いておりました。
そのお仕事は……赤紙に名を書くことでございました。
私が書いた赤紙の中に………旦那さんの名が……。
申し訳ないこと……してしまいましたのし。
私が書いたから…………堪忍して頂かして。」
「!………何を言うてるんや。雪子のせいやないんやしてよぉ。」
「そないでございますのし。
雪子さんが書かんかっても、他の誰ぞが書いただけのし。」
「そないなこと……思い詰めとったんかいし。アホやな……。」
「もう……雪子さんは……。
このこと、隆行さんは知ってましたんかいな。」
「お話ししましたよし。」
「あれは、どない言うとった?」
「『気にしたらあかん……僕は雪子が書いてくれた赤紙を大切にするよし。
雪子の字やしてよぉ。』……そない……に……。
私を気遣うておくれやした。」
「それ、気遣いやあらしません、え。
隆行さんの本心のし。」
「本心……?」
「そや、あれはな。雪子を妻にしたかったんやして。
そやしてよぉ、兵役が終わって帰って来たら、直ぐに祝言やちゅうて……。
待っとたんや。祝言の日を今か今かと……。
赤紙が来たんは、しゃーないことや。
待ち甲斐はあったわのう。祝言出来たんやしてよぉ。」
「お舅さん……旦那さんは……断りを………。」
「そりゃあ、赤紙が来たからやさけ。
雪子を後家にしとうない、そない言うとった。」
「雪子さん、隆行さんは幸せ者やったと思いますのし。
嫁いで来ておくれなして……おおきに、ありがとう。」
「お姑さん………。」
大石家は隆行の両親が母屋で、雪子が一人で離れで暮らした。
終戦間際それから終戦後に日本は医薬品が足りず………特に地方は足りていなかった。
大石の両親は同じ病気で亡くなった。
肺炎だった。
雪子は大石の両親を看取って間もなく天の園へ旅立った。
雪子は腎臓疾患に罹っていたが、診療所で診て貰うと「血の道や。」の一言だった。
後日、実家の両親が和歌山市内の病院に連れて行った。
「血の道」などではなく、腎臓疾患だった。
最後の日が近づいたある日のこと……。
妹の桐子が病院に見舞いに来ていた。
「姉さん、どないでございますかのし。」
「…………。」
「姉さん…………。」
「………旦那さん……。」
「姉さん?」
「幸せのし………旦那さん………の………娶うてもろて………。」
「…………姉さん…………。」
「………旦那さん………美っつい……のし………。」
「…………姉さん…………。」
「紀ノ川が……美っつい…のし。」
「姉さん! 先生をお呼びして来ますよし。」
「………旦那さん……も………美っつい……って……御思いなして……。
雪子は……幸せでございましたえ。
………待っておくれなして……今………………だ……な……さん………。」
妹の桐子が医師を連れてきた時には、既に息をしていなかった。
大石雪子、享年25歳。
18歳で嫁いで、夫と過ごした時間は、たった三日間。
その三日間を後生大事に思い亡くなったのだ。
奇しくも、雪子は隆行と同じ年齢で鬼籍に入った。
俺は雪子の死を見ていた。何も出来ずに……空を彷徨うように見ていたのだ。
大石の両親と雪子の死は、まるで隆行の後を追うようだった。
俺がそう思うほど早かったのである。




