第10話
大石隆行の戦死広報が大石家に届いた。
届けられた時、誰も泣いてはならなかった。
ただ、家族だけになった時に母親は泣き崩れた。
父親はただただ泣き崩れている妻を支えていた。
雪子は「うそ……嘘……嘘よし。旦那さんは御帰りなさいますのし。」と言って夫の死を信じなかった。
それから、毎日、駅に雪子の姿があった。
毎日、夫の無事な帰還を待っている。
周囲が止めても雪子は駅に行った。
「旦那さんがお帰りなしても、私が駅でお出迎えせんと……。
旦那さん……お寂しいよし。」
誰も雪子を止めなくなった。
雪子は大石家から出たくないと言い張った。
親の言葉に反抗することなど無かった雪子が、その生涯で親に反抗したのは、この時だけだった。
「雪子、大概にせいよ。親の言うこと聞かんてか。」
「お父さん、私は大石家に嫁ぎましたのし。」
「嫁いだけんども………子が出来なんだやないか。」
「旦那さんがお帰りなして……。」
「もう帰って来へんのやして……雪子、分かってるのやろ?
戦死なしたこと……分かってるんやろ?」
「お父さん!」
「連れて帰る。」
「嫌やして!」
「これ以上、お前が居たら大石家にご迷惑が掛かるって分かろうがい。
儂と帰ることは、もう決まったある。」
「嫌やして!」
「雪子っ!」
雪子は帰らなかった。
大石の両親に頭を下げて、離れに住み続けた。
「お舅さん、お姑さん。
私は女衆に、して頂かして。
……ここに、大石家に居らせて頂かして。
お願いでございますのし。」
二人は目を合わせた。
直ぐに言葉は出て来なかった。
ただ、雪子が額を畳みに付けてまでして頼んでいる。
それが悲哀を感じさせた。
二人は話し合った。
思い詰めている雪子を無理に帰らせるのは、良くないのではないだろうか――そう思い至った。
大石の家で雪子が暮らすことに決まったのは、大石隆行の両親が雪子の両親に頭を下げて頼んだからだった。
雪子はその生涯を終えるまで、再婚せずに大石雪子のまま大石家の離れで暮らした。




