↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を慕いて  作者: yukko
PR
10/15

第10話

大石隆行の戦死広報が大石家に届いた。

届けられた時、誰も泣いてはならなかった。

ただ、家族だけになった時に母親は泣き崩れた。

父親はただただ泣き崩れている妻を支えていた。

雪子は「うそ……嘘……嘘よし。旦那(だな)さんは御帰りなさいますのし。」と言って夫の死を信じなかった。

それから、毎日、駅に雪子の姿があった。

毎日、夫の無事な帰還を待っている。

周囲が止めても雪子は駅に行った。


「旦那(だな)さんがお帰りなしても、私(わたえ)が駅でお出迎えせんと……。

 旦那(だな)さん……お寂しいよし。」


誰も雪子を止めなくなった。

雪子は大石家から出たくないと言い張った。

親の言葉に反抗することなど無かった雪子が、その生涯で親に反抗したのは、この時だけだった。


「雪子、大概にせいよ。親の言うこと聞かんてか。」

「お父(と)さん、私(わたえ)は大石家に嫁ぎましたのし。」

「嫁いだけんども………子(こお)が出来なんだやないか。」

「旦那(だな)さんがお帰りなして……。」

「もう帰って来(こお)へんのやして……雪子、分かってるのやろ?

 戦死なしたこと……分かってるんやろ?」

「お父(と)さん!」

「連れて帰る。」

「嫌やして!」

「これ以上、お前が居たら大石家にご迷惑が掛かるって分かろうがい。

 儂と帰ることは、もう決まったある。」

「嫌やして!」

「雪子っ!」


雪子は帰らなかった。

大石の両親に頭を下げて、離れに住み続けた。


「お舅(と)さん、お姑(か)さん。

 私(わたえ)は女衆(おなごし)に、して頂かして。

 ……ここに、大石家に居(お)らせて頂かして。

 お願いでございますのし。」


二人は目を合わせた。

直ぐに言葉は出て来なかった。

ただ、雪子が額を畳みに付けてまでして頼んでいる。

それが悲哀を感じさせた。

二人は話し合った。

思い詰めている雪子を無理に帰らせるのは、良くないのではないだろうか――そう思い至った。

大石の家で雪子が暮らすことに決まったのは、大石隆行の両親が雪子の両親に頭を下げて頼んだからだった。

雪子はその生涯を終えるまで、再婚せずに大石雪子のまま大石家の離れで暮らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。