祈って、終末を呼んで、また祈って
「巫女さん、言われた通りに戦える者を全て集めた……。一体何が起こっているんだ?」
「ありがとう、ルティナ。見慣れない人が混じっていると思うのだけれど?」
「剣の里の人たちなんよ、巫女さん!ゲンガさんが連れてきてくれたんよ!すごく武に長けていて強いから、頼りになるで!」
屋敷の前に列を組んで集まっているのは大勢の戦士たち。ローブを被って長杖を手に持つダークエルフや、剣を腰に佩く武人など、皆引き締まった表情をして佇んでいる。
これから起こる大きな戦いを、薄々予感しているようだった。
竜宮城からこの屋敷に戻ってくるまで、町には全く人気がなかった。ルティナの言うところによれば、戦えない者は全員神社に避難させたとのことだ。
手際がよくて助かる。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。……今から、この死の地の浄化を行います」
戦士たちからざわめきが巻き起こった。私の傍に控えているルティナ、小鬼、ツバキも揃って目を丸くする。
「浄化!?浄化をするのか!?そもそもエイデンはどうした!」
「そうですよ!竜宮城にエイデンさんを探しに行ったんですよね!?エイデンさんは今どこに……」
「まだ呪いに覆われてるのって……。死の地の土地の半分くらいあるよ、どこ浄化するん……?」
ルティナと小鬼は困惑しきった様子で叫び、ツバキは真っ青にした顔に手を当てている。私はつとめて平らかに、三人の言葉を遮った。
「全て、よ。遂に来たの、この時が。私の祈りで死の地の呪いを絶やし、そして強大な終末を呼ぶ」
ダークエルフの皆は私の言う「終末」の意味を理解している。ざわめきがどよめきに塗り替えられていく。
終末巫女を知らない剣の里の人だけは無言で眉をひそめていた。
「剣の里の人は、移り住んできてすぐにごめんなさい。ダークエルフの人たちも、迷惑をかけるからあらかじめ謝るわ。貴方たちには、私と一緒に死の地を守ってもらいたい」
「ちょっといいか」
そこで、ほっそりした手を挙げたのは褐色の肌に白の長髪をした、青年の魔導士だった。
長杖でこつん、と地面を打って聞いてくる。
「私たちは洞窟でミコさんが呼び寄せたというトロールを見た。あれくらい強いものが、現れるのか?」
「ううん、もっとずっと強いものが、よ。正確には古代の魔物」
嘘偽りなく答えると、やはりというか、あちこちから抗議の声が上がった。数十人の声が大きなうねりを生み出す。
そこで、私の隣から大きな火柱が上がった。門の天辺すら超して、猛々しく燃え上がる炎に戦士も私も、揃って目を奪われる。
全身を炎に変えるツバキの尻尾を掴み、松明みたいに掲げるのは小鬼だった。
「小鬼からも、少し話があります」
小鬼は陰りのある面持ちをしていた。きっとそれは、炎の光で生まれるものではないはずだ。
「ぼくにはずっと黙っていたことがあるんです。エイデンさんには内緒にしろって言われていたんですが……この際関係ない。エイデンさんは、頭以外の全てを呪いに侵されています」
ひゅぅっ、と喉が変な音を立てた。
私がエイデンと出会ったばかりの時に彼にかけてしまった呪い。それは死の地とリンクしているというもの。
私は堪え切れず小鬼に叫びを投げた。
「うそっ、だって、呪いに蝕まれてる素振りなんてなかったわ!エイデンもずっと、何も言わず……!」
「……一年前から、浸蝕のスピードは速くなってたみたいです。包帯でずっと隠していたんですよ、巫女さんたちに知らせないで……。まだ大丈夫だから、と……」
竜宮城に行った後、エイデンが巻き始めた包帯。水でふやけてしまった痕を隠しているんだと思っていたけれど……。
違和感はあった。それをそのままにしていたのは自分だ。
打ちひしがそうになって――そこで、はっとする。
「待って、じゃあ今死の地の呪いを浄化すれば――!」
「はい、死の地の呪いとリンクしているエイデンさんの呪いも解ける」
それならば、と真剣に耳を傾けている戦士たちに向き直る。
「皆さん、今浄化しなければ、私たちの仲間である世界樹が枯れてしまいます。そうなれば、本当に、死の地は滅亡の危機に晒されるんです」
今まで死の地を支えてきた世界樹が枯れる、という事実。
土地を支える世界樹の重要さは、ダークエルフも剣の里の人も知っている。
彼らは先ほどまでとは違う種類の当惑を顔に浮かべていた。
私は一言ずつ、押し出すように力強く言う。
「改めて、お願いです。死の地を守るため、そして……私たちの大切な世界樹を守るため、手を貸してくれませんか」
地べたに膝を突き、頭を深々と垂れる。額が土にめり込むほどに。
しん、と場が静まり返った。
前に出ていた白髪の青年が一歩引き、ゆっくりと頷いた。
「巫女さんたちがいなければ、私たちはこんな大きな夢を見ることもできなかった。この国を、私たちの手で世界一の大国にするなんて」
そうだそうだ、と肯定する声がダークエルフたちの中から上がる。私は茫然と顔を上げた。ダークエルフたちは終末を吹き飛ばす気概で笑った。
「死の地のために、いや、それよりも――巫女さんたちのために、私たちは戦う」
ほろり、と頬を温かいものが伝った。
祈って、終末を呼んで、また祈って……。何度も折れそうになりながら紡いできた道は、間違っていなかった。
「私は、呼びます……」
涙をとめどなく零しながら、掠れた声音を絞り出す。
「私は、皆のために終末を呼びます」
何かを得るためには、何かを差し出さなければいけない。なら、その後に差し出したもの全てを取り返すのはどうだろう。
私は目元を拭い、立ち上がった。
「待っててね、エイデン」




