↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末巫女の王国作り~祈りは終末を呼ぶが、国の繁栄には欠かせない〜  作者: 片名葉
浄化編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/75

死の地とともに 前編

「巫女、おーい巫女?いるかの?」


勝手口の方からエイデンの呼び声が聞こえてくる。

神楽枚の練習をしていた私は天冠を脱いで、慌てて本殿の中から駆け出ていった。


「はーい……あら、もうこんな時間?屋敷に人は?来てないわよね?」

「うむ、じゃが、ダークエルフたちの報告によれば馬車が一台分向かってきているそうじゃ。そろそろ引き上げた方がいいと思うぞ」

「知らされてくれてありがとうエイデン、少し待ってて」


エイデンに鳥居の前で待っているよう言って境内の中を小走りする。

拝殿の辺りでは緋袴を着たダークエルフたちがせっせと落ち葉を掃いていた。


「あ、巫女さん!お出掛けですか?」

「ちょっと貴方、石畳の真ん中は歩いちゃダメ!神様が通るの!あと髪は結んだ方がいいわよ、身だしなみには気を付けないと失礼!」

「ひえっ、巫女さんは相変わらず手厳しい」


ぷりぷりと怒る私に巫女見習いたちの間でどっと朗笑が上がる。

私がここでちゃんとしなければ後世ににわか巫女が伝わってしまう恐れがあるのだ。それは断固阻止したい。

一つ溜息を吐いて、巫女見習い全員を見据えて言う。


「少し出掛けてくるから、留守番はお願いね」





神社が創られてから早いもので一年ほどが経った。


私は二十一になり、他の皆もそれぞれ一つずつ年を重ねた。

私の肝入り巫女増殖計画は無事成功し、神社には数名ほどのダークエルフの巫女見習いが勤めることになった。

人手も増えてやっと肩の荷を下ろすことができる。まぁそれは巫女としてのおつとめという話に限るけれど。

エイデンと一緒に戻った屋敷に前には一台の馬車が止められていた。鼻息の荒い馬とそれを引っ張ろうとするルティナがいる。


「このー、厩に行くんだ、大人しく従え」

「ヒヒヒィンッ!」

「馬のくせに……!かくなる上は刺突魔法で……!」

「刺突魔法なんて撃ったら馬のお尻が裂けちゃうわよ」「巫女さん」


こちらに気付いたルティナはばっと笑みを咲かせた。

すっかり少女盛りのルティナは髪も背も伸びて、よく笑うようになった。

初めて会った時、エイデンを殺そうとしていたのとは別人のようだ。


「巫女さん最近はずっと神社の方にいたから寂しかった。こっちは大変だったんだ、いつの間にか屋敷にゾルドさんの作業場が拵えられてたり、ツバキと小鬼が和菓子を取り合ってケンカしたり……」

「うわっ、見てみたかったわ。今日こそは屋敷に帰るから勘弁してね」


そしてよく思っていることを口にしてくれるようになった。頭を撫でるとルティナは照れくさそうにはにかむ。

ほのぼのした時間を分かち合っていると、門の方からツバキが駆けつけてきた。


「二人とも、いたー!もう皆お揃いなんよ、早く早く!」


慌ただしく尻尾を跳ねさせる彼女は短い丈の着物の上にエプロンを重ねた格好をしている。

屋敷専属の給仕、というのもなかなか板についてきた。紅も差すようになって、一層愛らしい。

私とエイデンは急かされるまま門を超えて屋敷の中に入っていく。

庭園に面した座敷には、ガタイのいい四十路の男性と尼装束の美女が座っていた。


剣の里からの使者であるゲンガと、稲荷村の長ミタマだ。


「おぅ、久しいな巫女さん方。調子はどうかね?」

「まずまずかしら。納めてもらった書物のおかげでつい一週間前に図書館も開館できたわ。どうもありがとう」

「なんのなんの。巫女さんたちが取り扱うものに比べたら粗末なものだ」


ゲンガが袖の下から取り出したのは糸綴じの一冊の本だった。ただの本ではない。貿易の記録をまとめた、帳簿。


「そこには巫女さんの国の特産物を取り扱いたいと申し出てきた店が書かれている。剣の里だけではない、他国もだ」

「こ、こんなにたくさん!?千以上はあるかしら……!」

「下駄、それから和傘だったかの。うむ、これだけ人気になるには十分なシロモノじゃよ」


私たちが剣の里に輸出したのはこれまでにいくつもある。

下駄から始まって、小箱、和傘、耳かきなどと石細工師たちの協力を得て作り続け、今に至る。


その間着実に売り上げを伸ばしていたのだが、ここに来てどかんと跳ねた。


それは何故か。


「剣の里もようやっと外交が上手くいくようになったのでね、色々な国と交流を持つようになった。その度に死の地の物を勧めさせていただいているよ」

「それはどうも、ありがとうございます」


私は深々と頭を下げた。剣の里の手助けもあり、今死の地は急激に力をつけてきている。

大国からすれば赤ん坊がたったの一年間でそろばん計算を習得してしまったようなもの。

一目置かれる存在になったのは間違いなし。


「それで、確かお主から頼みがあるんじゃろ、ゲンガ?」

「そうだ。そちらの国にうちの国の者を何人か寄越してやりたい。あまり部の腕が立たず里内で肩身の狭い思いをしている者たちだ」

「もちろんいいわよ」


故郷のどこにも居場所がない、というのはさぞかし辛かろう。

私は二つ返事で快諾し、今日の会議はお開きになった。


同盟相手として同席していたミタマがこきこきと首を鳴らして立ち上がる。


「ふぅ、平和にまとまったようで何よりです。わたくしの仕事もなかったようですし」

「ありがとうミタマ、いつもいつも」

「いいのですよ。ツバキたちに会うのも楽しいので。それで巫女さん、帳簿は見ましたか?」

「ええ、見たわよ」


さっと目を通しただけ、と伝えるとミタマは眉根に皺を寄せた。


「これはわたくしのお節介ですが、じっくり吟味すべきです。付き合う相手はしっかり考えて決めなければ」

「そうね…。夕餉の時にでも、皆で話し合ってみるわ」


死の地は十二分に発展した。そろそろ銭湯だって作られる予定。

なのに、この心に刺さった棘のようなものはなんだろう。


――終末は、近いよ。


イシュカの言葉が蘇る。

私は胸に手を当てて、縁側の外に広がる庭園を見やった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。