故郷の終末を否定するために
本殿にまつられたご神体へささやかな舞を捧げ、無事鎮座祭を終えることができた。
賽銭箱に初めての銭を入れ、ぱんぱんと手を合わせる。
この神社が終末に負けずずっとこの地を守ってくれますように。死の地がもっと発展してエイデンのお母さんを見つけられますように。
祈りの念を込めて私は深々と頭を下げた。そして鳥居の辺りに立っているウメとフキの元へ駆け寄る。
「こんな素敵な神社をありがとう二人とも。今夜はうちでご馳走するわ」
「やったぜ!ツバキが作る飯いつもうまいんだよな。久々にひとっ風呂浴びれるし……!」
「よかったねウメ…。巫女さん、神社はこれからどうするつもり…?」
気だるげな様子のフキに聞かれ、私は本田の方を見据えながらふふんと口角を吊り上げた。
「まずは祭りを開こうかしら。それでこの神社に慣れ親しんでもらって、巫女さんや男巫もたくさん増やして死の地の象徴にするの!」
「おお、壮大な夢だな」
うろたえてみせたウメは笑みを滲ませて、私の肩をぽんと叩く。
「頑張ってな巫女さん。巫女さんならなんでも叶えられそうな気がするぜ」
叶える。叶えてみせる。
鳥居を背に満天の星空を振り仰いで、深く息を吸い込んだ。
屋敷でウメとフキを招いて宴を開き、そのままで座敷で雑魚寝した翌朝。
長年の習慣にのっとり、お日さまが昇ると共に起床した。
誰かによってかけられたらしき布団を捲り、部屋の惨状を見て絶句した。酔いつぶれたウメとフキが折重なって倒れ、瓶があちらこちらに転がっている。
ツバキに至っては何故か押し入れに顔を突っ込んで足と尾だけをぶらぶらさせていた。
おかしいな、未成年には酒を勧めなかったはずなのに。
盆栽を抱いて眠っている小鬼を鉢から引き剥がそうと試みていると、エイデンが襖を開けて入ってきた。
「ふわぁあ…。む、早い目覚めじゃな巫女や」
「ねぇエイデン、私ツバキたちに酒飲ませてなかったわよね、ね?」
「さぁのぅ。いかんせんわしも記憶があやふやでな、頭がガンガンするぅ……」
冷や汗をだらだらと流し、顔を伏せる。
どうやら手遅れだったみたい。エイデンは口調はあれでも見た目と実年齢は十九歳だからギリギリアウト。というか下戸じゃなかったっけ?
巫女にあるまじきことをしてしまった私はひそかに打ちひしがれるのだった。
「それで?今日は工房に行くんじゃろ?」
「そうなのよ!ゲンガさんも剣の国に帰っちゃうし、急がないと。エイデンも来るわよね?」
「もちろんじゃ!」
元はといえば、エイデンと一緒に始めた王国。彼の手を取り、皆を起こさないよう注意しながら縁側から飛び出していった。
「ゾルド、いる?」
「あ、ああ……」
水車小屋の戸を叩くと微かなうめき声が帰ってきた。戸を開けてみてぎょっとする。目の下に盛大な隈を作り青白い顔をした職人の青年がそこにいた。
「おっ、お化け!」
「お化けとは失礼だな……。巫女さん、頼まれたもの、できた」
最後まで言い切る前にゾルドは倒れてしまった。蔓で触診していたエイデンがふむと頷く。
「過労じゃな。わしの根から分泌した液を飲ませば治る」
「うん…。衛生的にどうなのそれは…」
呆れながらゾルドの体を起こしていた私は、そこで彼が握っているものに気付いた。赤紫の細長い板についた二本の四角い棒。
紐がちょこんと結びつけられたそれは――。
「下駄!?うそっ、下駄を再現してくれたのね!?」
「ゲタ?ってなんじゃ?見たところ足を通せそうじゃが…って、おお」
下駄を履いたエイデンは大きく目を見開く。履物だと理解したのだろう、その場を歩き回ってみせる。
「すごいのぅ。赤紫の石で作られておるからすべすべで、足も全然痛まん。革の靴に比べて格段に楽じゃな」
「でしょう!?用途も分かりやすいし、これは……!」
簪よりも分かりやすく、他国にしてみれば目新しいもの。死の地の特産物にぴったりだ。
私はそう確信した。
「テーブルの上にはまだまだ試作品がある……!ゲンガのところへ持って行くわよ、エイデン!」
「了解じゃ。ついでにこやつも屋敷で介抱してやろう」
たくさんの下駄が詰まった箱とゾルドを携えて、私たちは水車小屋を後にした。
それから、ゾルドを屋敷に送った後、ゲンガが泊っているというダークエルフの小屋へ向かった。
「ふむ、なるほど」
下駄を履き、ずっしりした体を左右に動かしていたゲンガは深く頷いて、
「これはいい。お願いします、巫女さん」
差し伸べられた手を、おそるおそるぎゅっと握った。途端に抑えきれない高揚が胸の奥からせり上がってくる。
契約締結。
今この瞬間、剣の国との間に貿易関係が結ばれた。
もじゃもじゃの顎を撫でさするゲンガは呵々大笑して言う。
「いやぁ、履いた時にこれは、と思ったよ。うちの国は長靴ばかりで、こういう風通しのいい履物は大歓迎だ。このゲタはきっと、他国でも売れに売れるだろう」
「……!ありがとう、ございます!」
倭村のものをそんな風に言ってもらえるのが嬉しくて、畳に額を擦りつける。
故郷を死の地に蘇らせる。
その願いは、今までの国作りで出会った仲間たちによって形になってきていた。
「という訳で、ゲタを買い取らせてもらうが、そちら側は何を望む?剣の里は武器が有名で、国の防護をするならば――」
「武器ならいらないわ」
これからは私が恩返ししていく番。
ずっと前に仲間が語っていた夢を思い出し、私は真摯な瞳で相手を見つめた。
「剣の里に、本はあるかしら」
「本?そりゃたくさんあるが……」
不思議そうな顔をするゲンガを他所に、私はエイデンと笑みを交わし合う。
「お主、覚えていたんじゃな。小鬼の願い」
「ええ」
屋敷を作った時に小鬼が言っていたこと。それは。
「死の地に図書館を作るのよ」
読んでいただきありがとうございます。
発展編はこれで終わりです。次回からは最終章、浄化編に入っていきます。
クライマックスを迎える巫女たちのことをどうか見届けてください。




