巫女が見据えるもの
屋敷に戻ると、出迎えてくれたのはウメとフキ、それからミタマとお馴染みのメンバーだった。
「どこへ行っていたんです巫女さん方?ここ二日ほど空けていたでしょう。ダークエルフの職人たちが探し回っていましたよ」
「いつもいつも、お留守番ありがとうねミタマ。稲荷村の統治で大変でしょうに」
「いえいえ、同盟関係ですので気兼ねなく」
稲荷村はようやく自治が落ち着いたらしく、ミタマも馬車馬のように働かされることはなくなってきたらしい。幻で皆のことを洗脳していた悪長は、噂では北国の炭鉱で働いているとか。
二年経った間に、稲荷村も平和になったものである。
私は、さっきから畳に座って腕組みをしているウメとフキに話しかけた。
「ウメ、フキ?神社の進み具合はどうかしら?ごめんね、任せっきりで」
「うーんそれが難航中なんだぜ……」
「魔力のコスト色々見直してみたんですけど、どうにも巫女さんの望むようなものは作れないんです……」
二人は揃って難しそうに唸る。申し訳なく思いつつもそっとしておいてあげることにした。
縁側からエイデンが呼びかけてきた。
「おーい巫女、客じゃ客!ダークエルフじゃよ!」
庭園の中ほどから、褐色肌の一団が歩いてきているところだった。
「あれこれ試して、とりあえずこれを作ってみたんだ」
頭に鉢巻を巻いた青年、ゾルドが差し出したのは一本の棒だった。青緑に光る、何の変哲もないそれを取って、畳の上で正座をする私は首を傾げた。
「ええと、これは何なの?」
「稲荷村の人たちが言うところの簪だ……違ったか?」
「丁寧に作り込まれていて良い、とは思うのだけれど……」
竜宮城の鉱石で作られた簪は驚くほど軽く、その上太いのでとても挿しやすい。すぐに髪をまとめることができる。
そう、慣れている私ならば。
「巫女、何か意見があるんじゃろ?」
「ええ、その……これだと他の国にはあまり受け入れられないかもしれない」
「ふむ、というと?」
ゾルドは特に気分を害した様子もなく興味津々に尋ねてくる。
私は答え代わりに隣のルティナに簪を渡した。
目を丸くする彼女はこわごわと髪に挿そうとする。
が、やり方が分からないようで取り乱し、挙句の果てには簪をへし折ろうとした。ツバキと二人がかりで慌てて止める。
「ほら、異国の人は一目見ただけじゃ使い方が分からないでしょう?いい案だけれど、それでも」
「巫女さん、これいい暗器になりそうだな」
「ほらね」
簪を逆手に構えるルティナを見て、ゾルドは俯いて長い溜息を吐いた。工房の仲間にぽんぽんと肩を叩かれて慰められている。
「じゃあ……どうしろってんだ。特産物を作るんだろ?俺たちも俺たちなりに頑張ったんだがな」
私はそこで居住まいを正し、桐箱を差し出した。床に額をつけながら。
「お願い、この書物に載っている物を作ってもらいたいの」
蓋を開け、ボロボロの書物を目にしたゾルドは瞠目する。表紙に書いてあったのが全く知らない村の名前だったからだろう。
「これは……」
「倭村の書物。挿絵付きで色んな道具のことが書いてあるの」
道具の絵からは倭村なりの細工の技が読み取れる。筋金入りの石細工師である彼らなら読み取ってくれるはず。そう信じて、託した。
「私の夢は、死の地に倭村を蘇らせること。だから、どうか」
お願いします、と絞り出した声はかすれた。ゾルドたちは顔を見合わせ、それから快活に笑って腕まくりをした。
「そこまで頼まれちゃあな!任せろ、やってやんぜ!」
書物を抱え、職人たちは意気揚々と屋敷を飛び出していく。
しばらく唖然としていた私はエイデンたちの方を見て、破顔した。
夕餉の時間まで、囲碁やら花札やらで遊びながら過ごすのが、我が家の日課。
久しぶりに帰ってきた屋敷で皆でくつろぐのは、何よりもの癒し。
小鬼とツバキが花札で盛り上がっているのを聞きながら、私は流れる雲を庇の先に眺めていた。
「あー、のどかだわ……」
「そうじゃのぅ……」
エイデンもアホ毛を気持ちよさそうに揺らしてくつろぎ切っている。すっかり浴衣が板についていた。
団扇で互いに風を送りつつぼーっとする。
終末とは無縁の、平穏な夕暮れ。だが事態が急変したのはその時だった。
「小鬼!なんなんこれは!」
「あ、いや、はは……」
ちょっと目を離したすきに座敷が険悪な空気で満ちていた。
ツバキが尾を逆立て、小鬼が気まずそうに頭を掻いている。どうしたのだろうと近寄ってみると、
「巫女さん、こんなものを小鬼が落としたんだ」
ルティナが差し出したのは、虹色の光を放つ小ぶりの宝石だった。見たことのない輝きと、見たことのない透明感。
値打ちがあるものなのは間違いない。
「小鬼、貴方……」
「盗んでませんよ!やだなぁ、拾ったんですよ!ほら竜を倒した後に地面に落ちてて!」
必死に弁明する小鬼に、また異なった意味で驚く。
「ってことは……ドロップアイテムってこと?」




