石細工師たち
「石よりも魅力的な話?そんなの、あるわけがないだろう」
『わー巫女さん!助けて、削られる!』
「幻解けばいいんじゃないの、ツバキ」
真面目に取り合おうとしないダークエルフの職人は、高速で回転する旋盤に石を当てようとする。そう、尻尾の生えた七色の石を。
悲鳴を上げるツバキは幻術を解除して元の姿に戻った。青年はおや、というような顔をする。
「石が娘っ子になった……これは石の神からの使いか?」
「使いやない!あんたが削ろうとしてたのは狐!」
「狐も神様からの使いという説が……なんでもないわよツバキ、睨まないで」
涙目で睨み付けられて身を縮こませる。血も涙もある巫女なので、仲間を命の危機に晒して深く反省している。……いや本当に。
青年はすぐに次の石の研磨に取り掛かりながら、振り返らずに言う。
「それで?何の用だ、手早く済ませれば聞いてやる」
「私たち巫女は死の地に特産物を生み出したくてね、そのために貴方たちに――」
「二十文字以上の話は聞かん」
「もー注文が多いわね!」
頭に鉢巻を巻いた青年以外にも、水車小屋の中では数人の職人たちが鉱石と向き合っている。
灰翡翠だろうか、くすんだ緑色に輝くそれを磨き、水に通した後ノミで細部を削り、また磨く。
そうして出来あがった置物が脇に積まれていた。灯篭や石像、小箱まで。光沢のあるそれらは中心に星を宿しているように淡く輝いていた。
「きれい……」
「綺麗だろう。繊細で緻密、俺たちにしかできない芸当だ。ただ石を派手に加工しようとする鍛冶士とは違ってな」
彼らは根っからの石細工師。
そう確信した私はエイデンに視線を送り、青緑の鉱石を取り出してもらう。そして一生懸命石を叩いている青年の前に突き出した。
「じゃあお主はこれも、加工できると言うのかのぅ?」
「はっ、それは……竜宮城の鉱石か!?」
青年はエイデンの手から石をひったくり、それからなめらかな表面に頬ずりをし出した。
「数が少ないからといって俺たちまでには回ってこなかった……!噂に聞く、死の地の呪いを跳ね返したという神聖な石か!?」
「なっ、小僧本当か!?」「よく見せてみろ!」「くぅーこのフォルムがたまらん!」
「あのー、話を続けても良いかしら?」
群がり始めるダークエルフたちに、私は嘆息交じりの笑みを落とすのだった。
「それでは、自己紹介をしてもらっても?」
「俺はゾルドだ。物心ついた時には鎚とノミを握っていた。友達は鉱石だ。よろしく頼む」
竜宮城の鉱石を扱えるとなって、青年は快く応じてくれた。椅子から立ち上がって深々と腰を折る。
「それにしても……筋金入りの石工ね。ゾルド、ってどこかで聞いたことあるような……?」
「ゼルドさんと似てますね」
「ゼルドを知っているのか?ゼルドは俺の伯父だ」
「えっ」
言われてみれば切れ長の面差しがどことなく似ている。石に対する情熱も。
ゾルドは青緑の原石をもてあそびながら口の端を上げた。
「で?どんなものを作ってほしいんだ?」
「小物をたくさん。とりあえずありったけ作ってほしいの、二日以内に」
かなり無茶な要望に思案に暮れる様子のゾルドを、固唾を呑んで見守る。しばらくして彼はぴしゃりと自身の膝を打った。
「いいぜ、やってやる」
「本当!?」
「ただ、俺たちが作る小物といったらダークエルフのものばっかだ。それでもいいか?」
私はその言葉に押し黙った。
灯篭は稲荷村にサンプルがあったから作れた。でもそれ以外の、現物が残っていないものは作れない。稲荷村に渡り切れず、死に絶えてしまった倭村のものは――。
いいや、それは贅沢な考えだ。ぶんぶんと首を振って、それから大きく頷く。
「かまわないわよ」
背中にはじっと、仲間たちの目が注がれていた。
口火を切ったのはエイデンだった。
「良かったのか、巫女よ?死の地の特産物がダークエルフのものになるかもしれんのじゃぞ」
水車小屋を出て沢を下ったところで、エイデンがふと立ち止まる。同意するようにツバキたちが次々に声を上げた。
「そうやそうや!もっと食い下がったほうがいいんよ!」
「いつもの傍若無人巫女さんはどこ行ったんですか」
「猪突猛進もどこ行ったんだ」
「小鬼とルティナ、後でお説教ね?……あのね、私だって倭村のものを作ってほしいわよ」
記憶をなぞって職人たちに一から教えれば、ある程度のものは作れるかもしれない。でも完璧には再現できないし、異国からの客人はそう悠長に待ってくれない。
自由に国作りをできていたあの頃とは違う、とひしひしと感じていた。
「巫女も大人になったんじゃなぁ……」
「元々大人よ。それに貴方より年上。年齢詐称世界樹さんなめないでくれる?」
「この喋り方はデフォルトじゃ!何も威厳を見せるためではないんじゃぞ!」
果たしてそうかな。仲間たちから訝し気な視線を受けるエイデンは明後日の方向を向いて鼻歌を吹いた。
「しかし、倭村の文献が残っていればよかったんですけどねぇ……。そしたら再現できるのに」
「ああ、文献!それは盲点だったわ。ツバキ、稲荷村にはないの?」
「残念ながらないんよ…。稲荷村自体の歴史書はたくさんあるんやけど」
折角糸口を見つけたと思ったのに、ぶつりと切れてしまった。皆で首を捻って考え込んでいると、エイデンが思いついたように言った。
「倭村の跡地に行くのはどうじゃ?もしかしたらどこかに書物が保管されてるかもしれんぞ」
それだ。




