死の地に特産物を
死の地に特産物を作る。降って湧いて出た無理難題に、私が真っ先に泣きついたのはエイデンだった。
「助けてエイデン!何か、野菜とか育てられないの!?この土地特有の!」
「お、おお。育てられんこともないが、特産物じゃろ?わしが持ってる野菜の種子はいろんな地方で集めた者じゃ。どこかからの借りものになってしまうじゃろ」
「うー、でも……」
剣の国からやってきた剣士、ゲンガは三日ほど滞在することになっている。今は花見や相撲の観戦を楽しんでくれているけれど、いつ他の国に旅立ってしまってもおかしくない。
貿易の道筋を作ろうと必死なのだ。私たちに見込みがないと判断すればすぐに去っていくスタンス。
彼を引き止める何か。何かを生み出せなければ、死の地の発展は望めない。
「神代麦とか駄目なん?稲荷村が大好評で、エイデンさんが残した畑で今も栽培されてるみたいなんよ、あれ」
「難しいのぅ。あれは大量栽培することはできん。ダークエルフも困り果てておることじゃろう」
神代麦自体は秘境から取ってきてどこの地方も扱っていないらしいけれど、目玉の品にするには数が今一つ。ツバキは尻尾を左右に揺らして考え込み、エイデンもアイディアをキャッチしようとアホ毛を天高く伸ばしている。
そこで、生け花を丁重に切り込んでいた小鬼がぽつりと零した。
「エイデンさんの線が駄目、となればうちの顔はダークエルフでしょうか。あの人たちの腕は確かですよね。鍛冶だけじゃもったいないなぁ」
その言葉が、頭のどこかに引っかかった。なんだろうこの、羊羹に沈んだ爪楊枝みたいな感じ……。
私は庭で槍の鍛錬をしているルティナに声をかける。
「ルティナ!ちょっといい?……って、貴方何してるのよ!」
「巫女さん!いや、灯篭の穴に槍を投げていて。すっぽりはまった時が気持ちいい」
「よくそんなことを思いついたものだけれど……灯篭が壊れちゃうでしょ!駄目よ鍛冶士の方々に作ってもらったものなんだから……あっ」
自分で口にして気付いた。心臓がばくばくと早鐘をうつ。取り落とした湯呑が畳に転がった。
ツバキが機敏な動きで零れた茶を付近で拭う。
「どうしたんや巫女さん?おーい?」
「盲点だったわ……」
鍛冶士は金属を加工する者。けれどダークエルフたちがそうだとは限らない。彼らは生の鉱石までもを楽々扱っている。
そして、ダークエルフの鍛冶士が手掛けたという灯篭は丁寧に作り込まれていて、形に寸分の狂いもない。そう、彼らにはあるのだ。石細工の才能が。
「倭村では鍛冶士と細工師が分けられていたけれど、そうよ。彼らはずっと閉鎖的な洞窟に住んでいた!二つが混ざり合って当たり前だわ……!」
「つまり、どういうことじゃ?詳しく説明してくれんか巫女」
エイデンの呼びかけも右耳から入って左耳へ流れていく。私は昂った気持ちを握りしめて立ち上がった。
「ダークエルフたちの工房へ行かなきゃ!ここから近いわよね?」
一帯に平屋が立ち並ぶ中で、煙をもうもうと噴き出している建物。それが鍛冶士たちのためにあつらえられた工房だった。
引き戸の横、かまどに薪を放り込んでいるのは、竜宮城でお世話になったゼルド。ゼルドは私たちの姿を認めるなり快活な笑みを見せた。
「よう、巫女さん方。何か用かい?」
「ゼルドさん、久しぶりね。うちの屋敷の灯篭を作ったっていう職人に会わせてもらいたいんだけれど、いいかしら?」
「あー、ハ組の奴らだな」
「ハ組?」
聞くと、なんでも鍛冶士たちはそれぞれの方向性の違いから派閥を作っているそう。イ組にロ組にハ組。
イロハニホヘトになぞらえているようで、なんだか嬉しい。ハ組というのは川の近くに工房を構えているらしかった。
「ちっせぇ水車小屋が下流の辺りにあるんだ。職人も少ない。ちょいと変わった奴らだが、まぁ、巫女さんたちならなんとかなるだろう」
含みのある言い方が気になったが、木の葉に書いた手紙をことづけられて私たちは水車小屋に向かうことにした。
「あの、ごめんくださーい」
「……」
「誰かいますか?巫女です、世界樹もいまーす。話があって来ました。扉を開けてくれませんか?」
「人間と樹に興味はない。立ち去れ」
さっきからそんな会話の繰り返しだった。
沈黙を埋めるように沢がさらさらと流れる音がする。小屋の扉はつっかえ棒をしているようで冷たく閉じらている。
人間と世界樹に興味がないとは驚いた。たぶん石にお熱なんだ。
私は満面の笑みでツバキの肩を叩いた。
「ツバキ」
「いやっ、いやや!巫女さんのその笑顔は何かを企んでる時のや!わああ放しい!」
「何も言ってないじゃない。石に化けるのよ、分かった?」
抗っていたツバキは、やがて尻尾だけを残して漬物石に変わった。小屋の裏手に回り、ひょいと背伸びをしてその石を掲げる。
「あー、ここに珍しい石がありますよー」
「何ッ!?」
職人が裏口を開けて中から飛び出てきた。私の手から石をひったくり、しげしげと眺めた後にやりと口角を上げる。
「尾が生えているなんてすごい石だ……。加工のしがいがある」
『わひゃくすぐったい!触るなー!』
「喋るというのも魅力的だ……!」
石、もとい変化したツバキを意気揚々と小屋へ持ち込もうとする青年の腕を引っ掴む。
私は実ににこやかに言った。
「石よりもずっと魅力的な話があるの」




