狐の大工とダークエルフの刺客は今
庭園に現れた狐の大工は、勇ましく半纏を脱ぎ去った。日に焼けた肌を晒しで巻いただけの、雄々しい姿。
世界最高峰と言われる建築技術を持つ狐たちが、そこにいた。
「巫女さん、その板で神社を建てるんだろ?貸してくれないか?」
「ああそっか、ぴーちゃんに食べさせるのね」
ウメが抱えているのは虹色に輝く宝玉。食らったものの材質を覚える生きた球、ぴーちゃんだ。
横から気怠げな雰囲気を纏った青年、フキも顔を出す。
「まずは土台を作ってそれから改良していく感じかな……。巫女さんが前にくれたあれ、なんだっけ、杉……」
「神代杉のことだな。巫女さんたちがいない間、神代杉がかなりメジャーになったんだぜ?」
二年が経ってウメとフキは心なし顔つきが大人びた気がする。変わらないものといえばふさふさの耳と尾。
神代杉の平屋を望むダークエルフたちで日夜引っ張りだこらしい。
「平屋を建てるのにもそろそろ飽きてたところだ。新しい現場に心躍るな、なぁフキ」
「そうだねウメ……。巫女さん方、神社の建設予定地に案内してくれないかな……?」
私はエイデンたちと顔を見合わせ、それから大きく頷いた。
屋敷の裏手、木が生い茂る小高い弓なりの丘。浄化済みと看板が立てられたその土地に神社は建てられることになっていた。
丘の上で寝そべっていた緑の毛玉、もといモスアトマがぴょんと起き上がって呼びかけてきた。
「おーい、こっちだこっち!」
「あらモスアトマ。撫でられに来たの?ふふ、遂にぬいぐるみになる覚悟ができたのね」
「違ぇよ!見張りをしてたんだ!おい撫でるな撫でるな、鼻こちょこちょするぞ!」
モスアトマはじたばたと抵抗するけれど、まりもが風に吹かれて揺れているようにしか見えない。
結局いつものように私の腕の中に収まった。
「見張りって、必要なくない?土地が逃げる訳でもないんだから」
「いや、それがなぁ……」
「今は浄化された土地の争奪戦が起こってるんだよ」
ウメの説明を引き継いだのは、木陰から出てきた褐色肌の青年だった。
背丈はエイデンくらい高く、長い髪を一つ結びにして羽織の背に流している。
いいとこ出の若旦那みたいな見た目で……ん?どこかで見たことがあるような……?
私は思わず人差し指をビシッと向けた。
「フォル!?」
「巫女さん、反応が遅いよ。まぁ二年ぶりだから仕方ないか」
あの、モンスターを毬代わりに蹴っていそうな活発な出で立ちで、エイデンに喧嘩を吹っ掛けて毒を盛った……あの、フォル!?
あまりの成長ぶりに唇を震わせてわななく。それは彼に殺されかけたエイデンもだった。
「月日の流れとは怖いモンじゃのぅ……。今は何をしとるんじゃ?」
「この国の警備ってとこかな。ミタマさんに頼まれたんだよね。土地を無理やり奪おうとする不届きな輩をしょっぴいてる。テルミアと一緒に」
「うん。他にもいざこざを解決したりとかね。フォルはすごいんだよ」
フォルの腕に手を回しているのは、詠唱士の少女テルミア。今はうら若い娘さん。彼女も彼女で美しさに磨きがかかっている。そんな彼女にフォルは満更でもない顔をしていた。
私はなんだか気まずくなって咳払いをした。
「随分変わってしまったみたいね、死の地」
「そうかな?ダークエルフ相撲が生まれたり温泉を掘り当てたりしたくらいじゃないかな?」
「結構発展してるじゃない!」
住もうと温泉…倭村の二大娯楽…!ぜひとも見届けたかった、としょぼくれているとモスアトマが慰めるように頭に乗っかってきた。
「でもな、まだ国の枠組みはできてないんだぜ。貿易の手はずは整ってないし、他の国との交流もない」
「なるほどのぅ。良かったじゃないか巫女よ。おいしい部分が残されていて」
エイデンはなだらかに続く平原を見回しながら、朗らかに言った。
「土台は完成した。後はわしらがちょこちょこと手をくわえながら国を育てていくだけじゃよ」
まだ呪いに覆われた土地は半分以上残っている。私は胸に手を当てて瞑目した。
「そうね、ポジティブに考えましょう。皆はよく頑張ってくれた。後は巫女たちの仕事ね」
まずは終末に負けない神社を作ろう。大工たちに向かって顔を勢いよく振り上げ、図案が描かれた巻紙を渡す。
「ウメ、フキ。神社を作ってくれないかしら」
「もちろんだぜ」
ウメは待ってましたとばかりに手を打った。そして、木々が途切れてぽっかりとできた空白に向け宝玉を掲げる。
歌うように詠唱を紡いだ。
「浮世の華形、常しえの遊び、波乱万丈の見せ芝居。鉋に宿るはヒコサシリノミコト。あはれあはれ、世は無常――」
宝玉が光り輝き、魔力の粒子が立ち昇る。粒は群れて宙を舞い、地面に広がる。パン生地を被せるみたく。
仕上げとばかりに最後の一言が放たれる。
「『創造魔法』」
「『お色直し』」
柱と梁が絡み合って形成される。すぐに崩れ落ちようとするそれらをフキが幻でコーティングし、支える。
あっという間に完成した骨組みに唖然としていると、大工たちは好まし気に口角を吊り上げた。
「まだまだいくぜ」
二匹の狐によって着々と神社は織り上げられていった。




