楽しい鉱石加工
「合わせ鉱石ぃ?」
私の提案を聞いたダークエルフの匠、ゼルドは眉間にしわを寄せた。生まれてこの方箸よりもペンよりも鎚を握っていた時間の方が長い匠でも初耳だったのだろう。
私は頷き、ござの上に広げられている赤紫と青緑の鉱石を手に取った。
「赤紫の方は衝撃に強くて、青緑の方は呪いに強いんでしょう?この二つのいいところを合わせれば終末にも負けないと思うのよね」
「なるほどのぅ、試してみる価値はあるかもしれん」
うーんと唸りながらも、ゼルドは作業台に火を灯した。めらめらと燃える炎の中に赤紫と青緑の石を投げ入れる。しかし、二つはなかなか溶けなかった。
火かき棒でかまどの中がかき回されてため息がもらされる。
「だめだな。二つとも融点が違うんだよ。こいつらはどうも繊細なようだからな。熱をくわえすぎるとへばっちまう」
「ふむ、責めすぎも甘やかしすぎもよくないってことですか。まるでエイデンさんですね」
「おい、何保護者目線になってんじゃ小鬼」
一つの火で二つの全く異なる鉱石を溶かす。思ったより無理難題であるらしかった。作業台の火は魔力でできているようだけれど、調節はほぼ不可能なそう。
皆で額を合わせて考え込んでいると、ツバキが何気なく呟いた。
「炎かぁ。うちも炎に化けられるけどこんなに長くは燃えられへん。すごいんやなぁ」
その一言に、全員がばっと振り向く。
半化けの天然少女は暢気に尻尾をぱたぱたと振っていた。自身に集まる視線にきょとんとする。
「どったん、皆うちを見て――」
「ツバキ、立ちなさい」
「うひゃぁ!?尻尾ぉ!?」
素っ頓狂な声を上げるツバキを尻尾を掴んで立ち上がらせる。そのまま作業台の前へ引っ張っていった。
「いたっ、毛が抜けちゃう、何するつもりや巫女さん!そこはかとなく嫌な予感が……!」
「ツバキ、どうか許してちょうだいね。『狐火』」
戸惑いながら炎に変化したツバキを作業台の中へ――すなわち燃え盛る火の中へ――ぶちこむ。
いやぁあああ!と甲高い悲鳴が木霊した。尾を握る私はこっそり合掌した。
「な、何やっとんじゃお主!?サイコパスなのか!?」
「さい……?え、幻だから火にぶっこめるかと思ったんだけど……」
『そうは言うても巫女さーん!ちょっと熱いんやからな―!?』
火が何かを叫んでいた。仲間たちが恐れおののく中、背後に控えている匠に指示する。
「ゼルドさん、今よ!」
「お、おう」
ゼルドの行動は素早かった。献身的な幻で火力を上乗せされている右の方に赤紫の石を、火が弱い左の方へ青緑の石を差し込む。
後は作業台に元々点いていた火を調節すれば。異なる火力に二つの鉱石はじわじわと溶けだした。
板の上で赤紫と青緑が平べったく混じり合う。竜宮城の宝がマーブル状になっていくのに目を見張った。
「あと少し、だな。このままじゃ冷やしても固まらん」
「ツバキ、もっと炎の勢いを強めるのよ!頑張って!」
ちりり、と火の粉を飛ばしてますます激しく燃え盛っていく炎。あまりの熱さに汗が噴き出る。
間近で棒をかき回すゼルドはとりわけ滝のような汗を流していた。
「これ以上熱くしたら傷んじまう!何か、足りねえものがあんだ!」
「足りないもの……灰翡翠を混ぜるのはどうだ、ゼルドさん?」
そこでルティナが手に持っていたものを差し出した。布を剥がすと中からくすんだ緑色の鉱石が露わになった。エイデンがげ、と呻き声を洩らす。
「灰翡翠……随分苦しめられたのぅ。もう毒で寝込むのはごめんじゃぁ……」
灰翡翠は樹にしかきかない鉱石毒。フォルたちに盛られたせいで苦い思い出しかないのだろう。エイデンはそそくさと岩の陰に引っ込んでいく。
かたやゼルドは、日に照らされ液状になった鉱石を手の中で転がして口角を吊り上げた。
「なるほど、ツナギにいいかもな。思い切りのよさがダークエルフ流だ!」
灰翡翠を火の中に放り、赤紫と青緑のものと混ぜていく。するとくすんだ緑色の液体が薄く広がり、二つの鉱石の間に満ちた。
上手くかみ合った。間を置かずゼルドは仕上げに取り掛かる。
「白き精、荒涼たる大地、銀世界の詠歌。樹々は薄化粧を、分厚い雪煙の中で。――『冷却魔法』」
発散された冷気によって板が一瞬で凍てついた。霜を纏ったそれをゼルドは慎重な手つきで取り出す。
皆が唾を飲んで見守る中、板に鎚が振り下ろされた。
氷が割れて現れたのは三食団子のように色がのった板だった。
おそるおそる触れてみる。まだ温もりが残っている表面は、磨き抜かれた宝石みたくつるつる。
「すごい……」
日の光が当たる度に中でちかちかと瞬く石の粒。エイデンたちも揃って感嘆の声を上げた。
これがあれば、きっと終末にだって負けない。
「だが板に成型するまでが限界だ。神社の柱にするなんてとても――」
「話は聞かせてもらったぜ」
そこで、いきなり庭園に踏み入ってきたのは、半纏の下に晒しを纏う狐の少女だった。
「ウメ!」
「あぁ、待たせたな巫女さん」
その手には創造魔法のもととなる宝玉がある。
「あとは狐に任せな」




