二年後の展望
竜宮城から帰ってきたら二年が経っていた。
そしてその間にダークエルフたちはすっかり倭村の文化に馴染んでいた。
「巫女さん、長旅お疲れ様。漬物いるかい?」
「今皆で神社を建てようって話し合っていたんだ。巫女さんも参加しとくれ」
近所のおかみさんに特製のぬか漬けを勧められ、男性に神社の図案を手渡される。私のことを何か神聖なもののように拝んでいるお年寄りまでいた。
「ええい、順番こよ!この忙しなさときたら、故郷に戻ったみたいね!」
「巫女って便利屋扱いされとるんじゃな。む、おばさんのたくあんとやら美味しいのぅ」
ダークエルフは元々信仰している存在がいない。魔法の詠唱に神の名前が出てこないのもそれが理由で、彼女らが崇めるのは専ら自然だけ。だから染まりやすいということではあるのだけれど……。
私は予定を口実に皆にお暇を告げ、座敷の奥へと引っ込んでいった。
いつもの和室で寝そべって落雁を食べていたのはツバキとルティナと小鬼。皆でお喋りに花を咲かせていた。
「わ、巫女さんやん。いっぺん和菓子食べてみるとええよ。ダークエルフが作ったっていうこれ、めっちゃ美味しいんよ」
「童も同胞がこんなに倭村の文化に呑まれていてびっくりした……。そうか、稲荷村がいたからここまで広まったのだな」
「これで巫女さんの目標はほとんど達成できたんじゃないですか?良かったですね……って、どうしたんです?」
私は無言で落雁を噛みしめる。ほろりと優しい味がして、口の中で崩れた。
倭村をこの地に蘇らせる。それが私の心からの願い事。なのに。
「なんでかしら……少し、寂しいのよね」
言葉にしてやっと自覚する。私は、村が勝手に自分の手を離れて育ていったのが、寂しかった。
少し傲慢だけれど、自ら理想の村を作りたかった。
あちらでは二日の感覚もこちらでは二年。その落差に体はついていけても心がついていけないんだ。
「お主、もう国作りが終わった気でおるのか?」
「エイデン……」
その時、縁側から上がり込んできたのは翠髪の青年、エイデン。長く水中に浸かったせいでふやけてしまったらしく四肢には包帯が巻き付けてある。
エイデンは、ふんと鼻を鳴らしてあぐらをかいた。
「全然これからじゃろ。植物園も図書館も作れてないしの」
「そうですよ図書館!僕は諦めませんからね、小鬼ってのは博識な種族なんです!」
小鬼が同意するように大きく首を縦に振る。面食らっているとエイデンに巻紙を押し付けられた。
「まだまだ発展の余地はある。全ての土地も浄化しきっとらんし」
「うん……そうね。終末巫女の仕事はたくさんあるわよね」
しょげ返っている場合ではないのだ。二年の空白の分、やるべきことはたくさんある。
手始めにと神社の図案が描かれた巻紙を広げた。
「ツバキ、墨と筆持ってきてくれる?あとお茶ね。喉カラカラよ」
「畏まりや巫女さん!」
「小鬼とルティナはダークエルフの鍛冶士を呼んできて。そうね、竜宮城の時お世話になったゼルドさんがいいかしら」
「分かりました」「工房に行けばいいんだな」
三人に指示を飛ばしてから図案に向き直る。どうやら社殿に細やかな装飾が必要なようだ。精密なアレンジならダークエルフムキ。土台は狐の幻で固めて……。
あれやこれや考えているとエイデンが呆れた様子で茶をすすり出した。
「巫女って万能な職業なんじゃな…」
「ええ。知らなかった?巫女は倭の心よ」
屋敷を訪ねてきた筋骨隆々の匠ゼルドさんはいきなり畳に鍛冶道具を広げた。
「それで!?打ってほしいってのはどこのどいつだ!?」
「目の前にいるわよ。あと畳の上で鍛冶に取り掛からないでほしいのだけれど」
とりあえず庭園に出ることを勧め、倉庫にしまってあった鉱石をエイデンに持ってきてもらった。
敷石の上に積まれていく青緑と赤紫の鉱石にゼルドさんは感嘆の声を上げる。
「はー、やっぱ水中で見たのとは違うな。こりゃ打ちがいがありそうだ」
「赤紫は耐久力に優れていて、青緑は神聖でどんな呪いも跳ね返すわ。神社に石材を使いたいのだけれど」
「ああ任せろ。お望みどおりに作ってやる」
本当は温もりのある木で作るのが一番なんだろう。
けれど、今度の神社はどんな終末にも負けない強いものにしたい。そのために竜宮城の石を使う必要があるのだ。
「巫女さん、ダークエルフの洞窟から持ってきた石もある。こっちは汎用性に優れているから置物とかとして使えるんじゃない?」
「あらありがとうルティナ!助かるわ!」
エイデンを苦しませた懐かしの灰翡翠など、たくさんの石が台車に乗って運ばれてきた。
私は庭園に集結した色とりどりの石に笑みを零した。
「少し試したいことがあるのよ」
「ほぅ、なんじゃ?」
両手に異なる石を持って表面を撫でる。
魔力がこもった火を通せばどんなに頑固な石も融ける。なら。
「合わせ味噌ならぬ、合わせ鉱石をするのよ」




