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終末巫女の王国作り~祈りは終末を呼ぶが、国の繁栄には欠かせない〜  作者: 片名葉
発展編

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あなたに届ける歌声

終末が泡となって消えていく。

泡から舞い落ちてきたのは艶やかな髪をした一人の人魚姫だった。


「カーフィ……」


彼女に連れ去られ、求婚され、好意を跳ねのけたエイデンは、躊躇いがちに人魚の名を呼ぶ。その胸の内は一口では言い表せない色々な思いで溢れているんだろう。

カーフィはとても穏やかな顔をして寝息を立てていた。……あまり考えたくはないけれど、あと少し遅れていれば無事ではいられなかった。

エイデンはゆっくりと降りてきた人魚を抱き留め、可憐な相貌を見つめる。


「何故、犠牲になろうとしたんじゃ?」


ぽつりと零された言葉にカーフィの細い肩が跳ねた。瞼がぴくりと動き、聞く人を魅了するような澄んだ声が絞り出される。


「ワタシ……呪いに蝕まれて絶望の中で歌った歌を褒めてくれた人に、恋をした」


駆け付けてきたビルジーが荒い息を吐き出しながら主君の頬にそっと触れる。彼女はそれに構わずエイデンの腕の中で語り続けた。


「でもその人の心を掴むことはできなくて……悲しくて、辛くて、ワタシはずっと何をしていたんだろう、て思た。だから終末に呑み込まれたいて、本気で、そう願た」


拙く紡がれる言葉に、集まってきた竜宮城の人魚たちが揃って耳を傾ける。皆神妙な顔をして、成り行きを見守っていた。


「でも、今はアナタたちに感謝している。綺麗な歌を取り返してくれた……。永久に失われたままだと思っていた、大切な歌声を」


そこで、カーフィは優しく広がる声音で何かの歌を口ずさみ始めた。ただのハミングなのに、この世のものとは思えないほど美しい。聞いている内に故郷のことが頭をよぎって。

不覚にも、涙が溢れ出てしまった。


「ありがとう……。エイデン、巫女さん。ワタシはアナタたちのおかげで明日を歩める。本当に、ありがとう」

「……それなら、良かったのぅ。もう二度と、自分の命を投げ出すことな—―くうっ!?」


湿っぽかった空気が一転、人魚姫によってひっくり返された。

重なり合う唇と唇を見て、私は言葉を失って立ち尽くす。人の唇が合わされるのは倭村でいうところの― ―いや口にするのも馬鹿馬鹿しい。万国共通だろう。

全員が棒立ちになる中、カーフィは自身の桜色の唇を舐めて小悪魔に笑う。


「隙だらけだね。ふふふ、ご馳走様」

「ちょっ、ちょっとーー!?」


金縛りから解けて絶叫を散らしていると、余裕たっぷりの大人びた表情を向けられた。その顔に涙の痕はない。


「何、巫女さん?文句でもあるの?」

「いや文句と言うほどのものでもないけど……そうっ、そうよ!いきなり人様のくちびるを奪うなんて犯罪よ!ほら見てエイデンが砂になってるじゃない!」

「砂じゃなくて木片だと思いますよ。エイデンさーん、しっかりしてくださーい」


小鬼に揺さぶられるエイデンは目を点にして石像のごとく固まっていた。至近距離で叫んでも微動だにしない。ある意味修行僧もびっくりな完璧な瞑想だ。


「ワタシはたとえ届かなくたってこの歌をエイデンに捧げると決めたから。いくらフラれようがめげないよ!世界樹は一夫多妻だからね!」

「一夫多妻とか初耳よ!?出まかせ言うんじゃないの!あとそれってストーカー宣言よね!?」


木は一生のうちにたくさんの花粉を飛ばすと言うけれど……人間の姿をしているエイデンが必ずしも当てはまる訳じゃない。

口論を繰り広げる私とカーフィに観衆たちは半分安堵半分呆れの反応を見せる。尾をぱたぱたと振るツバキがにこやかに言った。


「仲が良いんやね巫女さん!」

「「仲良くない!」」


終末は退けられた。

破壊の爪痕は竜宮城に色濃く残ってしまったけれど、補って余りある歌声の美しさはきっとこの水中の城を明るく照らしてくれる。





宴、であった。

塔の最上階にある大広間では豪勢な海鮮をおともにどんちゃん騒ぎが巻き起こっていた。

私のリクエストで人魚たちが奏でる長唄に耳をすませつつ、酒瓶をあおる。


「はー、宴は何回あってもいいわね。あ、この酒うまっ」

「巫女らしかぬ発言やん……。なんでも呪いにかかる前に人魚たちの歌声を寝耳に熟成されたお酒なんやって。うちは飲めへんけど」

「童は飲める。ぐびっ」

「貴方もツバキとそう変わらない年でしょ!瓶を返しなさいルティナ!」


ひと悶着ありつつ、膳に乗った多様な魚料理に箸をつける。滋味深くて胃の腑にすとんと落ちた。箸の手が止まらない。ぜひともレシピを教えてほしいものだ。


「本当はもと美味しい物もあるんだけど、急なことでそれしか用意できなかた。竜宮城のお魚素晴らしーでしょ?」

「ええ、魂消たわ。そういえばここの水は呪いに汚染されてないのね?」

「ん、最初は呪いにかかてたんだけど、流れていた。—―あ、エイデン!」

「おわっと!?」


そこでこっそりと会場に入ってきたエイデンを認め、カーフィは弾かれたように駆け出した。その腰に飛びついて頬ずりをする。


「んふふ、エイデンのいい匂い」

「ちょ、わ、おい、放すんじゃ放せったら放せ!」

「……」


赤面し盛大に取り乱すエイデンからカーフィを引っぺがした。無言で首根っこを掴む私にひえっ、と怯んだ呟きが洩らされる。


「み、巫女どうしたそんなに睨んで?怖いぞ?」

「……睨んでなんかないわよ」

「ひえっ」

「あ、そういえば、鉱石の件はどうしたんですか?ダークエルフのために鉱脈を見つけるとか言ってたじゃないですか」


そうだ、元を正せばそのために来たんだ。

見失っていた本来の目的を思い出した私は、真剣な表情に変わってカーフィに向き直った。


「人魚姫さん、お願いがあるの」


宴もたけなわになっていく頃、私は本題に切り込んだ。

これからん、死の地のことについて。


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