↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末巫女の王国作り~祈りは終末を呼ぶが、国の繁栄には欠かせない〜  作者: 片名葉
発展編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/75

終末と泡沫の歌 前編

死の地の呪いによって、本来は魚たちでさえ感涙するほどの人魚の歌は地に堕ちた。

耳を塞ぎたくなるほど汚い声に本人たちが一番当惑したと言う。旅人を呼び寄せるどころから遠ざけるばかり。

彼女らの泡沫の夢は、夢になることすら叶わなかったのだ。


「堰き止められし沢、夢の見ない狐、輝き失いし大社、花のない簪――」


竜宮城全体を見渡せる塔の天辺に立ってひたすら言葉を紡ぐ。人魚たちに美しい歌が戻るよう、心からの祈りをこめて。


「そして力は満ち巡る」


数百人という規模の呪いを浄化するのだから代償は半端じゃない。とんでもない終末を呼び寄せてしまうだろう。

その時は、エイデンたちと一緒に覆してやればいいだけだ。


「――『浄化』」


町のあちこちから、一斉に黒の煙が立ち昇った。煙はもくもくと天井を覆い、分厚い雲になる。私は滝のような汗を流しながら、それらを全て握り潰すように両手を合わせた。

たちまち煙が一か所に凝縮され、弾け飛ぶ。後には澄み渡った水だけが残った。


「成功……したかのう?」


心配そうな様子のエイデンが窓を伝って登ってきた。

私が口を開こうとすると――この世のものとは思えない透き通った声音が耳を突いた。

甘くて涼やかで、それでいて優しい。

歌声は一つ、また一つと重なっていき、竜宮城が美しい大合唱で満たされた。

なんてきれいなんだろう。無意識のうちに涙が伝っていた。

人魚特有の言語で歌われる、愛しい人に語り掛けるような壮大な唄。泣いているようで、歓喜しているようにも聞こえた。


「本当に全て浄化したのか……にわかには信じがたいな」


近衛兵のビルジーは目を丸くしながら喉に手を当てる。前にツバキたちを失神させたものとは違い、低くて滑らかな声音が流れ出た。

竜宮城を包む合唱に汚い音は混じっていない。正真正銘、これで浄化できたのだ。

頬を綻ばせたその時だった。


『キ、シャア……』


鉱石に覆われた洞窟の壁が割れ、長い触手が飛び出した。

触手は宙をまさぐり、それから壁に張り付く。

全員が絶句する中、岩の間から這い出てきたのは、触手を全身に巻き付けたとかげのような生き物。

とかげ、否――羽のないドラゴンだ。

触手の隙間から覗く眼光は赤く、鋭い。


「『鎧竜(トルゲレゾン)』……」


エイデンがそうぽつりと呟いた。

鎧竜。村の伝承で聞いたことがある。持つべきはずの羽を甲冑へと変えた、特異な無翼竜。地底深くに住み、鉱石を食らう――大昔に存在したとされる太(・)古(・)の(・)種(・)だ。


「おっ、大昔のドラゴンじゃない!どうして!?」

「まずいぞ巫女!鎧竜の触手は鋼鉄……!物理はほぼ効かん上に、町を壊される!」


触手が勢いよく振るわれる。青緑の家々が薙ぎ払われ、上部をごっそりと破壊された。瓦礫が水中にふわふわとたゆたう。

歌声が一転して鋭い悲鳴に変わった。


「くっ、すまんがもう少し待ってくれぬか巫女!まだ蔓が回復せん!」


潜水のダメージのせいで頼みの綱のエイデンはあまり動けない。今更ながら気付いてさぁっと血の気が引いていく。


「なっ、なら『狐火』で……!」

「幻は半分実体があるんよ巫女さん!水ん中だと火力もあんま出ん!」

「っ、ルティナの刺突魔法は……!」

「スビードは多少落ちるが、一番厄介なのは物理攻撃がきかないことだ。まずあの鎧を剥がさなければいけない」


鎧を剥がす……。伝承によればあの鎧は翼が進化したもの。魔物の一部である以上小鬼(ゴブリン)の窃盗も使えない。

どうしたものかと考えあぐねているうちにも鎧竜は暴れ回り、町を蹴散らす。このままじゃ、竜宮城が。


「どうしましょう、何か手立ては!手立てはないの!?」


頭が爆発しそうになるほど悩み抜き、呻いた刹那。


「ラア――」


天女が降りてきたのかと思った。あどけなくどこか切ない声音は、水面へと吸い込まれていく。

あらゆる人の目が、突如竜の前で歌い出した少女に釘付けになる。

少女はお姫様と呼ぶのにふさわしい、堂々とした姿だった。


「其方は土の子(ラルッフェン)、骨の埋もれた大地を(ゲルフェリア―ノ)両足で踏みしめる(クレイシェン)勇ましい人(サラビーノ)――」


人魚伝統の唄だろうか。誰もが呆然とし、暴れていた鎧竜までもが動きを止めた。


「青い暗闇を(ラスラフィー)たゆたう私とは(ミンファルコッジ)、相容れない者よ(コーテスファ)。なぜ(ラフェ)、こうも(ラン)惹かれるのでしょう(ルシェファリーナ)」


しばらく我を忘れていた竜は、するすると触手を伸ばして人魚姫を巻き取る。そこで私ははっと意識を取り戻した。

取り込まれる。

だが、カーフィは穏やかな表情をしていた。子供をあやすように竜へ歌いかける。


「全く違う世界の色に憧れてしまったがゆえに――」


歌声が余韻を残して水を震わす。ずぶずぶと、カーフィの体が竜に沈んでいく。

必死に手を伸ばし、叫んだ。


「カーフィ!!」


人魚姫は、泡沫を取り戻して消えていこうとしている。


そんな終末、許せるわけがなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。