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終末巫女の王国作り~祈りは終末を呼ぶが、国の繁栄には欠かせない〜  作者: 片名葉
発展編

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攫われた世界樹 後編

エイデンは薄暗い部屋の中で目を覚ました。

すぐ目の前には可憐な相貌があった。

反射で後退ったら壁に頭をぶつけた。遅れて冷や汗がどっと噴き出す。


「おっ、お主ィ!?何しとるんじゃ!?」

「エイデンが起きた!目覚めないから歌で起こしてあげようと思てて!ラァ—―」

「ぎゃあああああ!?」


鼓膜を破壊する兵器(うた)が解き放たれた。エイデンは耳を押さえて絶叫する。

カーフィは満面の笑みで迫ってきた。


「どう?上手でしょ?これから毎日聞けるんだから嬉しいよね」

「考えただけで悪寒が……。ん?毎日?」


嫌な予感がして、そこではたと気づく。今まで横たわっていたのはふかふかのベッドで、誰かの私室らしいということに。

可愛らしい調度品や貝殻で作られたぬいぐるみが置かれていて、それらは全て高級そうだ。まるで姫のような—―


「ソー!エイデンはワタシと一緒に竜宮城で暮らすの!」

「竜宮城……っておい、まさか」

「ワタシは姫だから暮らしは何不自由させないよ!」

「姫ぇ!?」


カーフィが人魚姫だったことを知り雷に打たれたような衝撃を受ける。音痴な歌からはそんな様子微塵も感じ取れなかった。


「世界樹と人魚姫の恋物語……歌にできそうじゃない?ラァ—―」

「うぎゃああ!!歌にするな歌にぃ!?」


もう一瞬だって耐えられるものか。開け放たれたベランダに蔓を伸ばす。しかし、蔓は萎びていて途中でへにょりと折れてしまった。水を吸い過ぎてしまってしわくちゃの梅干しみたいになっている。

エイデンは焦った。大いに焦った。


「あ、あのー、家に帰ることはできないかの?」

「ダーメ。地上でのことは忘れて、ここに住むの。いいところだよ?竜宮城」


倭村には、竜宮城に迷い込んだ釣り師が歓待を受けているうちに長い時が流れていた、という御伽噺があるそう。巫女から聞いたその話を思い返し、身震いした。

もたれかかってくるカーフィを押し退けながら、エイデンは秘策に出る。


「ごほっ、ごほっ、げほっ……」

「エイデン!?どたの!?」


自然な咳を装い、慌てふためくカーフィにかすれ声で語りかける。


「げほ……、持病の発作が……。水に潜ったせいで辛くなったのぅ……。ありったけの塩水をもらえるか……?」

「塩水!?分かた、すぐに持てくるね!」


カーフィは大急ぎで部屋から去って行った。健気な姿に心が痛んだ。健康体のエイデンはベランダから飛び降りる。

水の中を漂っているようで、徐々に地面へと下ろされていく。塔の最上階からも怪我一つなく抜け出すことができた。

不思議な空間だ。水中のようなのに息ができる。上下を自由に動ける。

庭園をゆっくりと泳いでいく。海藻がさわさわと揺れていて、青緑のひさしが円状に配置されている。とりあえず、近くの海藻に話しかけてみることにした。


「おい海藻、起きるんじゃ、世界樹じゃよ」

『……世界樹?ああ、あの鼻持ちならない連中のことか』


海藻は唾をぺっと吐きかけるような仕草をする。エイデンは優しく、なるべく優しくその首根っこを引っ張り上げた。


『いたいいたい!やめろ引っこ抜くな!』

「聞かれたことに答えるんじゃ。ここら辺に鉱石がある場所はあるかの?」

『鉱石?ああ、塔の裏に小さな鉱山があるぞ。どうするつもりだ?』


親切に教えてくれた海藻に礼を言い、塔の裏に回る。そこには塔に食い込むようにしてそびえ立ったプチ鉱山があった。

青緑や赤紫の鉱石がきらきらと輝いて断面を露わにしている。最近掘り出されたばかりのもののようだ。

エイデンは近くに放り出されていたツルハシを拾い上げる。


「鉱山には大抵、見張りがいるもんじゃが……。それほどここは豊富な鉱石に溢れている、ということかの?」


ツルハシを突き立てると、鉱石は意外とすぐに砕けた。ほろほろと零れたものを拾って、上から差し込んでくる光に透かす。どこまでも澄んだ青緑だ。

人魚と違い、呪いに汚染されている痕跡はない。


「よっぽど呪いに対する耐性が強いようじゃな。死の地の呪いに屈さんとは……わしと同じくらい神聖な存在ということかの?」


目を見張ると共に、これなら他国の交渉の切り札になるという期待が浮かんできた。

ダークエルフたちの加工技術と合わせれば、きっと素晴らしいものができるに違いない。

巫女に知らせなくては。ほくほくしながら鉱石をポケットに突っ込んだ瞬間だった。


騙されたのを嘆くような歌声が塔の天辺から聞こえてきた。


「うげっ、カーフィ…!気付いたのか。くっ、早いとことんずらしなければ……」


慌てて出口に向かうエイデンだったが、そこで背後から何者かに腕を掴まれた。

見ると、防具を身に纏い、レイピアを佩いた長身の女性だった。


「お前、エイデンだよな?なぜここにいる?」

「……ひ、人違いじゃ。わしはか弱い人魚じゃよ」

「んなことがあるものか。二本足がついていて、翠髪……姫様に教えてもらった特徴と一致している」


凄腕近衛兵にごまかしはきかなかった。

エイデンは問答無用で連れていかれた。


この時は知る由もなかったが、その女性は巫女たちを牢屋に閉じ込めてきた帰りのビルジーだったのである。


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