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終末巫女の王国作り~祈りは終末を呼ぶが、国の繁栄には欠かせない〜  作者: 片名葉
発展編

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攫われた世界樹 前編

エイデンが人魚の姫に攫われた。

となると、中央にそびえ立つ塔に二人がいるのか。私はぐぬぬと唸って塔の天辺近くを見上げる。破壊力のある歌声が微かに聞こえてきた気がしたのだ。


「お姫様だかなんだか知らないけど、エイデンを奪うだなんて承知しないわ!彼は私たちに必要不可欠なのに……」

「巫女さんにとっても、ですよね」

「……何小鬼(ゴブリン)、にやにやして」


下衆い笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる小鬼の頬をつねる。なんだか背筋がむずがゆくなってそっぽを向く。


「別にっ、エイデンのことはなんとも思ってないわよ。く、国の発展に欠かせないってだけ」

「そうですかね」「絶対別の理由(おもい)があるんよなぁ……」「ツンデレ巫女さん」

「もう、静かにしなさーい!えっ、エイデンは自力で脱出してくるわよどうせ、あんなに強いんだから」

「いや、たぶん無理ですよ」

「えっ?」


思わず小鬼の方を三度見してしまった。可憐な童顔は沈痛な表情を纏っていて、どうやら本気のことらしかった。ツバキとルティナともども固唾を飲んで耳を傾ける。


「いいですか?木って水に浸すと根が腐って枯れてしまうんです。酸欠とかなんとかで」

「ん?そのこととエイデンに何の関係が――って、あ」


エイデンは世界樹だ。人の姿はしているけれど、体質も含めて立派な樹。


「ま、ままままさかエイデンが枯れるの!?うそうそうそ、枯れるなんてアホなこと。だって水唄蛇(アクアレム)と戦った時水砲受けても平気だったじゃない」

「わー僕に掴みかかってもー。けっこう心配しているじゃないですか。落ち着いてください」


落ち着けるものか。エイデンが死んでしまう。

その場をあたふたと右往左往、人魚の足でばたばたしているとツバキに捕まえられた。


「巫女さん、この桜の花見て和むんや」

「水中でも幻って使えるのね。うっ、私がそんなのでなびくわけ……桜綺麗ね」

「あのですね、ちょっと潜ったくらいじゃエイデンは死にませんよ。ただ。かなり弱ってしまうだけで……。水唄蛇くらいの水量じゃちょうどいい水分補給になるんですけど、さすがに今回は」


その言葉に私はほっと胸を撫で下ろした。命の危機は心配しなくてもいいらしい。……他の危機は別だけれど。


「弱る、ねぇ……。もしかして、逃げ出せないパターン?」

「……」


小鬼は盛大に目を泳がせて黙りこくってしまった。単刀直入に言うとつまり、世界樹の貞潔の危機である。

顔を振り上げ、塔を睨みつけた。


「首を洗って待ってなさいよお姫様!終末巫女たちが貴方を止めてみせる!」

「……それは竜宮城への宣戦布告か?」


……冷徹な声が背後から聞こえた。ぎこちなく振り返ると、そこにはレイピアを抜刀した近衛兵、ビルジーの姿が。近くにいるのすっかり忘れていた。


「今、姫様にケンカを売った……。という解釈で合っているよな?」

「あっ、あははは……。ここは巫女に免じて、聞かなかったことにして?」

「ああ、聞かなかったことにする――となるかぁ!」

「ひいっ!?」


ビルジーはレイピアの切っ先を突きつけてきた。喉元に銀色の鋭い輝きが。

動いたら首をかっ切られる。この人かなりの使い手だ。


「っ、『窃盗』――」

「抵抗するなら容赦はしないぞ」


武器を盗もうと飛び出した小鬼はしかし、腹を柄で殴られて宙を舞った。緩やかな弧を描いて建物に屋根に突っ込んでいく。


「小鬼!」

「ほぅ、小鬼と呼ぶのか。そしてお前は巫女。名前を明かさないのは賢明なことだ――呪いにかかるからな」


瞬間、すさまじく汚い歌が撒き散らされた。耳を塞ぐのが間に合わない。私たちはとびっきりの呪歌に真正面から直撃した。

脳がかき混ぜられてもつ煮になった感覚がする。あまりの威力に膝から崩れ落ちた。

他の皆もそうだった。ツバキとルティナに至っては目の焦点が合っていない。


「『ツバキ』、『ルティナ』、呪縛完了。小鬼と巫女はかからないか、やはり実力行使に出るしかないな」


ビルジーは音痴な歌でもってツバキとルティナにピンポイントで呪いをかけたようだ。大方命令服従の呪いだろう。

私の浄化ならすぐに解除できる――と詠唱に移ろうとした時だった。


「すみません、僕たちが悪うございました、連れて行ってください」


小鬼が棒読みの台詞であっさり降参してしまった。

私は目を丸くして囁き声で叫びかける。


「(何言ってるのよ!私ならすぐ解けるわよ、ツバキとルティナの呪いくらい…)」

「(そうしたら終末が来るでしょう?自分がいないときは極力巫女に終末を呼ばせるなと、エイデンさんに言われているんですよ。……ああ、これ言っちゃまずいやつだったかも)」


そっか、エイデンは私が終末を覆せなかった時のことを心配して……。心がぽかぽかと温かくなった。

ビルジーに頭を垂れて潔く引き下がる。


「仲間を人質にとられたらどうすることもできない。地下牢にでもどこにでも連れて行って」

「……やけにあっさりと降参するのだな。一度は情けをかけたもののよしみだ、ついてこい」


縄で縛られた私たちは水流に乗って知らないところへ連れていかれる。


終末巫女に無事を祈らせるエイデンが腹立たしい。……抵抗してくれているといいけど。




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