花見、そして新たな目標
「それでは、理想の家対決の結果発表でーす!」
ミタマの言葉に、狐もダークエルフも、一緒くたになって盛り上がった。淡く薄桃に光り輝く桜の花弁が舞っている。円を囲むように咲いた桜木は夕暮を照らし出していて、その様子はまさに百花繚乱。
エイデンはとてもいい仕事をしてくれた。
私は一本の桜の木陰にござを敷き、そこで結果を今か今かと待ち構えていた。
隣には尻尾を丸めて眠りこけているツバキと、舞い落ちる花びらをキャッチしようとしているルティナがいる。
ちなみにウメとフキは狐の会合に参加していていない。
「おかみチーム、巫女さんチーム、そして失格になった世界樹チーム……どのチームが作る家も素晴らしかったです。もう全て採用したくらいなのですが、家対決と言う以上、名残惜しいですが優勝を決めさせてもらいます」
ミタマが指を弾く。すると近くに控えていた信者が前に歩み出て、大きな箱を三つ持ってきた。それぞれに筆でチーム名がでかでかと書かれている。
「優勝だと思うチームの籠に桜の花びらを入れてください。一番花びらを獲得したチームが優勝、となりますね」
合図がかけられたことで、人生初の花見を楽しんでいたダークエルフたちが立ち上がり、籠の前に押しかけた。
彼らの投票の様子はここからでは見えない。心臓が飛び出してしまいそうだ。
前方の大樹の辺りにどかりと陣取っているおかみチームを見つめていると—―不意に、頭に手が置かれた。
「安心せい巫女。優勝だと思えば優勝になる。大事なのは心持ちじゃ」
「エイデン……って貴方、今まで何してたの」
久々に見かけるエイデンは私より見事な憔悴っぷりだった。顔はやつれ、肩は垂れ下がっている。
その息の切らしように心配になり、ござのスペースを明け渡してあげる。エイデンは膝から崩れ落ちた。
「エルフたちにせがまれて桜の花を咲かせて回っていたんじゃ。うー栄養素がつきる……」
「大変ね、水いる?まるで花咲かじじ……」
それ以上言及するのはやめておいた。エイデンは砂漠を数日さ迷った旅人のように慌てて水を飲み干した。
そして、再びアホ毛を元気にピンと生やして、私の瞳を覗き込んできた。
「わしは倭村の平屋、よいと思ったぞ。ものに込められた細やかな思いってのは、案外伝わるもんじゃ」
深い翠色の瞳は毅然とした雰囲気を纏っている。それに見惚れたまま、口を開こうとした時だった。
「エイデンさん、さらなる花見客が世界樹をご所望ですよー」
「いや待て、休みをくれー!」
ひょっこりと現れた小鬼がエイデンの首根っこを掴んで去っていった。私はぽかんとしてその後ろ姿を見送る。
「……巫女さん、どんまいや」
「いっ、いや何がよ!」
生温かい目をするツバキに肩を叩かれた。顔を赤くしてその真意を問い質そうとした時、ちょうどミタマの声が響いた。
「えー、只今集計が終わりました。結果を発表させていただきます!」
私たちはお互いに頷き合い、籠の方へ駆け寄っていく。おかみチームと巫女チーム、二つの籠には布で蓋がしてあった。
「まずは、おかみチーム!」
心の準備をする暇もなく、片方の籠の布が捲られる。半分ほどまで花びらまで埋め尽くされていた。過半数に届いているのか、見た目だけでは分からない。
そして、ミタマは隣の籠に手を伸ばした。
「最後に、巫女さんチーム!
私は瞑目して祈る。勝ちたい。倭村の文化を皆にもっと知ってほしい。
祈りが終末を呼ぶ?そんなの、人の心にまで影響を及ぼすことはきっとできない。
彼らが介入できるのは、どうにもならない自然だけ。
布がさっと外される。
果たして、そこにあったのは――。
「え……」
籠から溢れ出るほどの、桜の花弁。私は思わず口を覆ってへたり込む。ツバキとルティナが嬉しそうに抱き着いてくる。ウメとフキが惜しみのない拍手を送ってくれている。
ミタマは宣言した。
「優勝は、圧倒的な差をつけた巫女さんチームです!」
幻で作られた紙吹雪が散る。舞い落ちてくる色とりどりの花弁に満面の笑みを咲かせる。
倭村を蘇らせるという壮大な目標への一歩を、確かに踏み出せた瞬間だった。
「あんたたちの家……悔しいけど、あたしゃ気に入っちまったよ」
花見も終幕を迎える頃、おかみチームの一人は私にそう言ってくれた。苦い表情をしながら、それでも力なく笑って。
「ヒラヤ、ってのは庇があったろう。あれもあたしたちのことを考えてくれてるんだねぇ」
「えっ、そうなん巫女さん?どゆこと?」
腕を組んでしみじみと呟くおかみさんと私の間で、ツバキは不思議そうに視線を行ったり来たりさせる。
私は微笑みを落としながら種明かしをした。
「私が平屋を作ろうと思ったのは、日陰と日向をすぐに切り替えられる構造をしているからなの。灰翡翠とか、鍛冶に使われるダークエルフの鉱石は日陰だと固まって、日向だと溶けるでしょ」
「そっか、作業が格段にしやすいんだな、巫女さん!」
ルティナが合点がいったように手を打った。
ダークエルフたちは今まで洞窟という不便な環境で暮らすことを強いられてきた。だから、少しでも彼らの毎日を照らしてあげられるように。
倭村伝統の建築方法、平屋を選んだのだ。
「生活で困ったことがあれば、気軽に言ってください。なんとかします」
「ふふ、ありがとうねぇ。優しい巫女さんだ」
おかみさんは私の頭を乱暴に撫でてきた。豪快な力に、髪の毛が一瞬でぼさぼさになる。くすぐったくて笑ってしまった。
「ただね、元いた洞窟は遠くて、鉱石をたくさん持ってこれるわけじゃないのさ。だから、この地でも鉱石を調達したい。協力してくれるかい?」
家対決の次は、鉱石採集。
私は快く首肯した。
「任せてください。鉱脈を見つけ出してやりますよ」




