どんな家がお好き? 後編
一番手が洞窟、二番手が世界樹の手がけたツリーハウスときたところで、平屋。
一目見た時のインパクトでは十中八九勝てない。なら、話でダークエルフを引き込むまで。
「えー、最後は『巫女さんチーム』となります!皆さんお疲れのところだと思いますが今しばらくお付き合いください!」
ミタマの言葉で、眠そうに目を擦っていたエルフたちが歩き出す。こんな時に限って集中が切れているのだ、巫女のありがたい演説なんて誰が聞くのだろう。
「どうするん、巫女さん…!皆の気が緩んどる…!」
「エルフはどうでもいいと思った話はマジで聞かないぜ…!」
「これは作戦を変えるしかないわね…!実演式にしましょう!」
この土壇場で急な予定変更。平屋を回りながら部屋の解説をしていく巫女ツアー式に切り替える。
せっかく徹夜して演説の台本を書いてきたのに。
私は巫女装束を整えながら皆の前に立った。
「それじゃ、私たちの平屋を紹介するわ。心して聞いておきなさい」
倭村の文化を受け入れてもらうため、やる気を漲らせるのだった。
まず門扉。
鳥居の形をした門の柱を指差して、そこに描かれている模様を宙に浮かび上がらせる。
ツバキの幻術によって実際より大きく見せているのだ。幻術は思わぬところで役に立つ。
突如空中に現れた像にダークエルフたちから驚きの声が上がる。
「この柱に描かれた模様は聖樹をモチーフにしたものよ。こうして入り口に描いておくことで家を守ってもらってるの。聖樹に守られる家、とても素敵じゃない?」
こくこくと頷く者がちらほら現れる。他の人も呆けた表情で柱を見つめていた。
これで掴みはバッチリ。
私はツバキとウメと目配せし合う。
「さて、次は居間…を見せる前に、蔵に行きましょうか」
門を抜けてすぐ右側に二階建ての蔵がある。皆を引き連れて少し薄暗い蔵の中に入る。
私が指を弾くのに合わせて、スタンバイしていたフキが幕を上げた。
奥から浮かび上がってきたのは金槌や作業台、鉱石の数々。鍛冶に必要な道具は全て整理されて壁に立てかけられていて、うずたかい鉱石の山がいくつもある。
石はわずかに入ってくる火の光を反射して輝いていた。
もちろん全て幻。耐久性はないので、一日使っただけですぐ壊れる。
そんなことを知る由もないダークエルフたちは感心のため息を漏らす。
「すごい……!これってどこで揃えたんですか!?」
「いや、まぁ巫女力で取り寄せたというか…ごにょごにょ」
青年がハンマーを手に取るのを皮切りに、皆が鍛冶道具や鉱石に群がり出す。嬉しい反面、幻ということがバレないかハラハラした。
「巫女さん巫女さん、これちょっと叩いたら砕け散ったんだけど」
「ちょっ、かっ、勝手に触らないで!――って、フォル!久しぶりね」
粒子と化したハンマーを差し出してきたのは、いつぞやにエイデンを殺そうとした刺客の一人、フォル。
その傍には詠唱士の少女、テルミアもいる。いろいろあったけれど、二人は今や貴重な協力者。
「ねぇ、フォルとテルミアから見たこの家はどう?」
何となしに尋ねてみると二人は顔を見合わせて、
「なかなかいいいんじゃね?少なくとも俺は住みたいと思ったよ。ニンジャの隠し扉とかありそうで面白そう」
「わたしはフォルがいいと言うならいい」
「うーん、これは一般論なのかしら…?」
参考になるのかならないのか…。独特な返答に首を傾げていると、フォルは鉱石をお手玉しながら付け加えた。
「でもさ、もうちょっと俺らの暮らしに寄り添うものがあってもいいな。派手なのもいいけど」
ダークエルフの興味をひくという私の魂胆を見透かすような瞳をしていた。私は不敵な笑みを返す。
「大丈夫よ。ちゃんと考えてある」
居間の中は大勢の人でごった返していた。
入り切れない人たちが廊下に溢れ、中心に立つ私をまじまじと見つめている。背すじに冷や汗が伝う。
深呼吸をして気合を入れ直し、それから手を打ち鳴らした。
とっておきを披露するために。
「ルティナ、入ってきて」
すると、縁側からひょっこりと顔を出したのは、綺麗な藍色の浴衣を着たルティナだった。
全員の目を一瞬にして奪ったルティナは、家に上がり込み、くるりと一回転してみせる。
深い色合いの袖がふわりと揺れる。
それは神棚杉でできたベージュの床や柱によく合っていた。
ルティナは何回か回転し終えた後、梁に吊られていたすだれを引き下げる。
温かな陽光に差していた部屋が一転して薄暗闇に包まれた。
「これは……」
「涼しいし光が全く入ってこない……どうなっているんだ?」
ダークエルフたちは口々に言う。まるで洞窟のようだ、と。
これこそが神棚杉のなせる神業。
通気性と遮光性にバツグンに優れた木材は、薄暗い環境を作り出しながらも完全には風を防がない。
平屋、というつくりも影響しているだろうか。新鮮な空気に満たされながら洞窟のような場所に住めるのだ。
誰かが息を深く吸い込むと、他の人もそれにならう。
彼らの故郷に思いを馳せているようだった。
「こりゃ……素晴らしいな」
場がしんと静まり返り、穏やかな空気に包まれる。
盛り上がったり歓声に満ちたりするわけではない。それでも私は、抑えきれない思いが湧き上がってきて、笑みにして零した。
倭村の文化が異国の人々に初めて認められた、その証だと思えたから。




