終末巫女の演説
自分が呼び寄せる終末が、嫌いだった。
憎んでいた。絶望していた。自分じゃない誰かになりたかった。
でも、今は違う。
終末を覆してくれる仲間たちができて。
終末巫女は、終末巫女のまま生きていいんだって、思えるようになった。
だから、私は弱いままの自分と決別する。
過去はいらないって、そう叫ぶ。
「ダークエルフの皆を、呼んできてくれない?」
洞窟観光が終わった後、ルティナに広場のダークエルフたちを集めるよう頼んだ。
私は一足先に、集落の奥の横穴へと向かう。
「巫女さん、いい加減詳しいことを教えてくれても良いんじゃないですか」
後ろを歩く小鬼が、待ちきれないように尋ねてくる。答えてあげたいが、時間がない。途中で合流したフォルとテルミアの方へ振り向く。
「二人は、どういう経緯で刺客としてうちに来たの?」
「はあ?いきなり連行したと思ったらそれ!?俺はもちろん、仲間のためだけど」
「テルミアは?」
「わたしは、フォルのため」
フードを被った詠唱士の少女は即答し、フォルに引っ付く。フォルは嫌がりながらも満更ではない様子だった。眩しいものを見せられている気分だ。目が焼ける……!
「う、分かった。ならフォル、世界樹を倒すよりももっと、手っ取り早くエルフを見返せて、かつ幸せな暮らしを手に入れられる方法があるとしたら?」
「そりゃさ、そんなステキな方法があったらそっちを選ぶよ。決まってんじゃん」
「あるわよ」
私は胸に手を当て、断言する。
「私たちの国の一員になれば、ダークエルフの望みを全部叶えてあげられる」
息を呑む音がはっきりと聞こえた。
「は、そんなの口先だけだ。そもそも、日の下で暮らせたって、エルフに対する恨みが――」
「世界一の大国にすればいい」
蔑んできた相手が、自分たちよりも繁栄を手にしたらエルフはどう感じるだろう。
武力ではなく、文化で見返す。それがきっと、何よりの下剋上になる。
「さ、手を貸してくれない?皆を説得するために」
横穴の前に集まったダークエルフに、まず恭しくお辞儀する。
「ご足労感謝します。私は遠方の国からの使い、巫女です」
どよめきが大きくなっていく。鉱石採集をしている人まで引っ張り出して、横穴を占拠したのだから当然だろう。これから何が始まるのか、誰もが不思議がっている。
「私は、貴方たちに道を示しにききました」
穴の入り口に立ったまま、大袈裟に両手を広げる。なるべく多くの人の意識を惹きつけるために。
溜めに溜めを重ねてから――袖を振る。
袖の中から出てきたのは、透明な鳥。光を乱反射するそれは、何羽も連なって羽ばたいていく。幻想的な光景に、観衆の目が釘付けになる。
鳥はすぐに霧散していくが、デモンストレーションには十分。岩の陰でツバキがガッツポーズをしていた。
「今の……詠唱がなかった!?」「どうなっているんだ!?」「魔法の波長はない……あれは一体?」
第一関門はクリア。彼らは、見たことのない幻に度肝を抜かれたはずだ。
次は。
「これが巫女の力です。私たちは、貴方がたを仲間として迎え入れたい。共に、国を作っていきたい」
しかし、案の定というか、私の言葉は彼らの反感を買った。
「何を言っている!」「それじゃ、エルフの奴らから逃げたも同然じゃないか!」「私たちが洞窟から出るのは、あいつらから森を取り返した時だけだ!」
「で・す・か・ら!」
彼らに負けじと、声を張り上げる。
プライド?そんなの、どこかに掃いて捨てておけ!失敗とした時に容易くすぐ崩れる、頼りないものなんだから!
そんなものより、幸せを掴み取ることの方が大事だ!
「私が、誰も傷つかない道を示してやるって言ってんのよ!国を作る、貴方たちの居場所を作る!エルフと勝負するなら、幸福の丈で勝負しろ!!!!!」
エイデンを殺そうとしたこの人たちを、簡単に許すことはできない。
でも、私は巫女。
どんな苦しみにも終末をもたらす、誰かを救うための存在だ。
ダークエルフたちはお互いに顔を見合わせ、騒ぎ立てる。
「あのミコは信用できるのか?」「珍妙な技を使うが、強さは……」「そもそも国がどれほどの……」
「ああもー!!」
私はいきり立って、傍の手押し車をひっつかむ。鉱石が満杯まで入った車体が揺れる。
やはり、この手しかない。
「怪我したくない人は、さがっていなさい!」
手押し車から取り出したのは、灰翡翠。その結晶の中に、エイデンをも弱らせた猛毒が閉じ込められている。
毒――そう、私の技能対象が。
「堰き止められし沢、夢の見ない狐、輝き失いし大社、花のない簪」
祈りの体勢に入る。
離れたところから見守っていた小鬼とツバキが、戸惑いながら飛び出してきた。
「ちょ、巫女さん!?何やってるん!?」
「聞いてませんって!穏便に話をつけるんじゃなかったんですかー!?」
私は構わず、詠唱を続ける。
「そして力は満ち巡る」
私はもう、弱くない。
エイデンたちに、死の地の皆に、照らしてもらえたから。
どんな暗闇だって抜け出せる。
自らの意志で、終末を利用できる。
だから、私は全身全霊で祈る。
「――『浄化』!!!!」
瞬間、眩い光を放つ鳥が、一斉に翼を広げた。
今度は幻じゃない。私が生み出したもの。
灰翡翠の色が、純白に変わっていく。
そして、間を置かずに洞窟が激しく振動した。
「……来たわね」
横穴から姿を現した、終末は。
岩の棍棒を担いだ、巨大なトロールだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回の話で、巫女が明確に一皮むけたんじゃないかと思います。終末は何も終わりではありません。トイレで紙がなくなっても、終電を逃しても、まだ終わりではありませんよ。




