洞窟訪問 後編
広場に下りた瞬間、ダークエルフたちが集まってきた。
「おかえり、ルティナとフォルとテルミア。……と、この人たちは?」
「この人たちは……他の国の使節団で……」
「フォル、どうしたんだいそんな怪我して!無敗のお前さんが珍しいじゃないか!」
「ほっといてよ。それより、皆ここで待ってたの?」
「ああそうさ、お前たちの帰りを待ち侘びていた」
ルティナはきれいなお姉さんと抱擁を交わし、フォルはツルハシを背負ったおじさんやおばさんに肩を組まれていた。フォルの相方、詠唱士のテルミアは次々と投げかけられる質問に答えている。
私は傍らの小鬼とツバキに囁く。
「巫女プロファイリングによると、雰囲気は悪くなさそうね」
「そうですね、種族間の中は良好そうですね」
「絶対的なリーダーはおらんみたいよ。取っ掛かりがないんやない?」
稲荷村の時は長を倒せば解決だった。しかし今日は――。
「それで、ルティナ。世界樹はもちろん、刈り取ってこれたんだよな?」
ダークエルフの一人が、冷たい声音でそう問いかけた。
同時に、和気あいあいとしていた空気が一変する。
否応なしに緊張が高まるのを感じた。
「それは――」
「待って」
私は、引きつった顔がばれないよう、満面の笑みを作り、言う。今だけは清楚な巫女の仮面を被って。
「私はええと……南のセカージュ王国から来ました。貴方達と国交を結びたいので、少し国の様子を見せてくれませんか?」
「ルティナが紹介するなら悪い人ではないでしょう。こちらです」
ダークエルフは案外簡単に了承してくれた。セカージュ王国という出まかせの名前を口にしてしまったが、疑われている様子はなさそうだった。大方建国されたばかりの小国だと思っているのだろう。的を射ているけれども。
巫女プロファイリング其の一――どこの馬の骨かも分からない国を受け入れるほど切迫している。
「ここが炭鉱ですね。エルフなのにこんな泥臭いことをやるのは癪ですが……私たちは日夜ここで採集をしています」
集落の奥にある大きな横穴。褐色の肌を汗できらめかせるダークエルフたちが、一生懸命にツルハシを振っていた。
横穴の入り口を取り囲むのはいくつもの手押し車。その上に色とりどりの鉱石が積まれている。
あの中にエイデンを苦しめた灰翡翠が……と考えると複雑な気持ちになる。
鉱石に手を伸ばす小鬼をツバキが羽交い絞めにしていた。
「ふむふむ……ここの鉱石はどうやって使われているの?」
「ああ、なら次は製錬所に行きましょうか」
トンテンカン、と珍妙な音が響いていた。
まるで故郷のお囃子みたい。鳴らしているのは鉢巻を頭に巻いたおじさんたちだ。
「ちなみに、ここの製錬所は一時間しか使用できません」
「少ない!」
てっきり不眠不休で石と向き合う匠の中の匠かと思っていたのに……。おじさんたちの戦士のような顔つきはなんなんだろう。一時間勤務であんなに渋くなるんだ。
「巫女さん、童が言わなかった?ここの洞窟の鉱石は日に照らさないと溶けないって」
「でも俺らは地下暮らしだから、日光が貴重なんだよ」
「あそこの岩の裂け目から日が差すのは、一時間ほど」
「なるほど……」
ルティナたちが指す先、はるか頭上の岩には、小さな穴が空いていた。そこから光の筋が漏れ出ている。
おじさんたちはその光を頼りに鉱石を打っているようだ。
「不便ね……地上で暮らせたら楽でしょうに」
「そうそう、本当にその通りだよ!だから俺たちは、こんなところに追いやるエルフたちが許せない!」
巫女プロファイリング其の二――エルフへの恨みは、主に生活上の不満からきているらしい。
「そして、ここが居住地です」
最後に通されたのは、石造りの小屋がひしめく窪地だった。
それぞれの小屋の脇には小さな農業用のスペースがあり、カラフルな淡色の豆が育てられていた。
石に彫られた郵便受けもある。なんだか微笑ましい。
「わー、やめてー!なんでうちの尻尾にぶら下がるん!?」
「しっぽーしっぽー!」「初めて見た!」「わーいゆらゆらー!ブランコ!」
ツバキがちびっ子たちに捕まり、尾を遊び道具にされていた。尻尾がぶんぶん揺れるたびにちびっ子たちがはしゃぐ。
「うわ、耳はやめてぇ!んにゃあああああ!」
遂に押し倒されるツバキ。ちびっ子たちのお尻の下で猫耳と狐の尾が虚しく震える。
「元気なのは良いことね。皆、何歳?」
「あたし5-!」「僕は6」「わたしも6だよ!」
「ふふ、遊び盛りの時期じゃない。いい子いい子」
「み、みござーん……」
ちびっ子たちの頭を撫でるついでに、ツバキの頭も撫でてあげる。
白髪の女の子は嬉しそうに頬を緩ませる。その仕草にこちらまで笑みが零れてしまう。
私は去り際に、持っていた金太郎飴を渡した。
「――と、敏腕巫女の手によってまとめられたところで……」
「結構はっきりしてきましたね、ダークエルフの全貌。じゃ僕、気付いたこと言っていいですか?」
洞窟を案内してもらったのち、私たちは岩屋の応接室に通された。机と椅子が置かれただけの殺風景な部屋で、情報を整理する。
「まず、ダークエルフの力が強大です」
「強大……どうして?」
「だって、ここには木も川もないんですよ?圧倒的に生活に不向きです。こんな状況の中で暮らしているなんて、すごいと思いませんか?それに――」
「ひゃああ!虫っ!足がワサワサしてるのいるー!」
「ああ、気にしなければいいんですよ」
虫に怯えるツバキが小鬼にしがみつくことで、話が一旦止まる。小鬼はツバキを宥めながら、咳ばらいをして、
「それに、あの鉱石触りました?強度がえげつないですよ。カッチカチです。たぶんこの星であれより硬い鉱石はありません」
小鬼は揺るぎない自信を持っているようだ。日陰で固まり、日向で溶ける石。難しい特性なために敬遠されがちだが、正しい方法なら強みを生かせる。
私は大きく伸びをして立ち上がる。
巫女プロファイリング其の三――彼らの信念は、いたってシンプル。
「さ、私たちで示しましょう。私たちなりの王国作りを、ね?」




