家の在りかと刺客たち 後編
神楽鈴をしゃん、と鳴らす。
それが『巫女舞』発動の準備。
「何をするつもりだ?魔法なら、使う前に刈り取る」
「魔法なんてご立派なものじゃないわ」
槍を構え直すルティナ。私は敵意がないことを示すため、再三再四鈴を振る。
目の前の中庭では、エイデンとフォルが戦闘を繰り広げている。
エイデンは憔悴していて、蔓だけではなくアホ毛までもが萎びている。戦況は依然、劣勢。
「ちっ、石の毒とは厄介じゃのう!植物の毒なら効かないんじゃが……」
「ここに来て言い訳?真の世界樹はこんなもんじゃないはずだよ。アンタはやっぱ、呪いで弱ってるんだ」
両腕でガードするエイデンに向け、フォルは連攻を仕掛ける。
乾いた音と共に、殴打。鎧代わりの蔓や茨が千切られ、弾き飛ばされる。エイデンは苦しそうに顔を歪める。
と、そこでフォルは攻撃を緩め―—後方へ跳んだ。
くるりと一回転、屋敷の梁に着地し、唱える。
「『身体強化』」
魔法ではない。初歩中の初歩、魔力を体に纏わせるだけのシンプルな技。
しかし、エルフは格が違う。
膨大な魔力が溢れ出し、雷のように迸る。
―—大地に愛された種族、エルフ。
霊石というパスを必要としない、魔法の申し子。
「俺たちダークエルフの糧になってよ、世界樹」
そして、突進。
エイデンへと一直線に突っ込んでいき―—閃光。
私は、言葉を失って立ち尽くす。
果たして、そこには―—
「惜しかったのぅ」
紫の血を口から伝わせながら、それでも五体満足で微笑む、世界樹がいた。
すぐ横には、空中で静止するダークエルフの姿。
その体と梁の間に、細い糸が通っている。日の光に照らされ、何本も。
いや、糸ではない。あれは。
「『茎の目』」
エイデンは、がんじがらめになったフォルに、そう宣言する。
「まだまだ青いのぅ。わしがただでやられると思うか?」
糸——訂正、茎はいつフォルに絡みついたのだろう、と考え、まさか、と気づく。
「殴られている時に生やしていたの!?蔓や茨なんかはカモフラージュだったって訳ね?」
「そう、熱くなってると人間気付かんもんじゃな。おかげで、腹の中まで茎を伸ばせたぞ。ほれ」
「うほぁぁあ新手の拷問ん!?」
フォルは絶叫し、のたうち回る。一体腹の中でどんな恐ろしいことが……
「巫女の手法を真似てみた。こちょこちょじゃ」
「臓器をじかに!?貴方エグいわね!」
と、緩んでいた空気だったが―—エイデンの吐血で、一気に引き戻された。
血の量が増えている。
「エイデンっ、早く、溶解剤を……」
慌てて、言いかけた時だった。
バヂッ、と紫電が走った。
茎が断線し、フォルは地面に転がり落ちる。
「ふぅ、あとちょっとだったね。でも言ったでしょ、そんな弱っちい攻撃じゃ駄目だって」
そして、再びエイデンに襲いかかる。
蔓、茨、茎——全てを駆使しても、足りない。
私が神楽鈴を握ったまま立ち尽くしていると―—
「巫女!」
呼び声が、響いた。
「策があるんじゃろ。わしはお主を信じる!信じるぞ!」
―—信じる。
そんな言葉、一生聞かないと思っていた。
祈っては、期待を裏切るばかりだったから。
何度も折れて、もう祈らないと誓って。また祈って、地べたに這いつくばって。
それでも。
祈れ。
と、真っ直ぐに言ってくれる人がいるなら。
神楽鈴を、もう一度鳴らす。
すると、白色の光が溢れ、技能が発動した。
「魔法、じゃない……?この光……」
傍ではルティナが仰天している。
私は返事代わりに、袖を翻してターンする。
それから、鈴から伸びた帯をつかみ、円を描くようにステップを刻む。
一本の道筋を辿るように、全神経を注いで。
が、大きな柱を形成する手前で、白い光は散っていく。何か、ピースが欠けている。
巫女舞——巫女舞に必要なのは、巫女装束と、神楽鈴と、あと―—
榊!
「エイデン!!榊をちょうだい!」
エイデンなら、持っているはず。
古来から神聖な木として崇められてきた―—榊を!
……が、エイデンは相手の猛攻をしのぐだけで精一杯。
そんな余裕なんて―—
「榊、じゃな?」
巨大な蔓が生え、フォルを吹き飛ばす。
いつもと変わらない威力。なけなしの力を振り絞ってくれたのだろう。
エイデンは倒れ込みながら、こちらに手を伸ばす。
「使えっ!」
榊の葉が飛来する。
同時に、蔓を裂いたダークエルフが、エイデンに迫る。
賭けてくれた。託してくれた。
なら。
私は全身全霊を込めて、成し遂げよう。
「『巫女舞』!」
右手には神楽鈴、左手には榊。
光が柱となって立ち昇る。
そして。
読んでいただきありがとうございます。
巫女舞……気になる人は動画をみてみるといいかもしれません。終末巫女の巫女舞はかなりポップスにアレンジされていますが




