家の在りかと刺客たち 前編
ダークエルフの問題を解決するために、家を作ろう。
というエイデンの提案は突飛なものだった。
「じゃからー、ダークエルフたちを移住させればいざこざは解決するわ国は大きくなるわで一石二鳥じゃろ?」
「エイデン正気!?殺そうとしてきた種族を助けてやるなんて……!」
「しっかし、そうしないとエイデンさんはずっと命を狙われることになりますね」
「あ……」
「なぁルティナちゃん、ダークエルフの考えは、そう簡単に……変わらんよな?」
「うん、ダークエルフは頑固だ。でも、洞窟から抜け出して、日の光の下で暮らせるようになったら、考えは変わるかも」
ルティナはツバキの膝に乗りながらこくこくと相槌を打つ。こうして見ると、種族は違えど姉妹のようだ。一方、エイデンは何やら思案顔で呟く。
「とりあえず、わしがいることは伏せて、ダークエルフを招いた方が良いかのぅ。任せたぞ、巫女」
「え……私?分かったわ、掛け合ってみるけど……なんてしたためたら良いかしらね?」
国と国の間の連絡の手段は、基本使者を遣わすか、文通をするかだ。ウメとフキに幻術で和紙と筆を作ってもらい、手紙を書いてみることにする。私の周りにはその場にいた全員が集まってきた。
「もう『おたくのせいで仲間が枯れかけたんだけどコノヤロー。こっちに来い面貸せや』でいんじゃないですか」
「ド直球!却下!」
「じゃ、じゃあ、『あんたたちのことを思って夜も明かせません……。どうか私のもとにおいでなさって』とか」
「違う意味にとられかねないわよ!貴方それ恋文でしょ!」
「こういうのは主旨が伝わらないとダメなんだよ。とういうことで後は任せたぜ、フキ」
「丸投げ……良くない……ここはシンプルに『家を作りたい』でどう」
「シンプル過ぎる!皆真面目に考えてよー!」
「じゃあさ、『ダークエルフ様の力になりたいんです』でどう!?伝わりやすくない!?ねぇよくない!?」
「そうだ、それだわ!——って」
その声の主は、開け放たれた縁側に佇む、一人のダークエルフだった。
私は一瞬真顔になり、それから息を吸い込んで―—叫ぶ。
「でっ、出たああああっ!?」
「そんなぁ、人を幽霊みたいに」
「そ、そちらは……ファル!?」
「やっほールティナ。見事に手懐けられたね、任務はどうした?」
フォルは銀の短髪に手甲という、活発な少年の出で立ちをしていた。
ただし、それは毬を蹴って遊ぶタイプではなく、モンスターを蹴っていそうなタイプだ。
ルティナは体を小刻みに震わせる。
「別に、放棄したわけではない、童は…」
「あーあ、ルティナがそんな奴だとは思わなかったなー。残念っ、洞窟の奥深くに引っ越したい?」
「待って!たっ、倒す!世界樹をたお……むぐっ」
そこで、私はルティナの口を塞いだ。
つとめて淑やかにダークエルフの少年に語り掛ける。
「貴方はダークエルフの里の方?私がここの土地の巫女よ、まず私に……」
「いやぁアンタに用はないんだよね。ミコ?って誰?」
固まる私を置いて、フォルは畳に上がり込む。土足はやめて、と注意しようとしたが―—フォルは風のように素早く脇を抜けていった。
「アンタが世界樹だよね、そうでしょ?」
背後では、世界樹とダークエルフが向かい合っていた。
「うむ、お主の言う通りわしが―—」
世界樹、と名乗ると同時に、火花が散った。
エイデンが障子を突き破って吹っ飛んでいく。
そして、火花がフォルの手甲から生まれたものだと遅まきながら気付く。
エイデンが一瞬で離脱し―—最初に動いたのは、小鬼だった。
「『窃盗』!」
手甲を奪おうと、技能を発動する小鬼。だが。
「今だ、テルナ」
「了解。——白糸、日暮れ、滴る雫。雲間を翔けるは勇ましきトール」
どこからか、透き通るような声音が響いてきた。
さっきよりも激しく、空気がピリつく。
「天を知らず、雷も知らない。そんな我らに慈悲を垂れて。——『落下魔法』」
白い軌道が、天井から生えた。
それは小鬼に真っ直ぐ落ち―—小柄な体と床を縫い留める。
「っ!?なんですかこれ!?腰がァアアアっ!?」
「小鬼!?大丈夫!?ちょっと!?」
小鬼の腰の辺りが眩く光っている。少し愉快な光景だけれど、笑っている場合ではない。
「魔法、魔法を解除しないと……!」
「こういう時は、効果範囲から外れれば……って、うわ!魔法が追ってきやがる!」
すかさず、ウメが小鬼を抱えて退避しようとするが、白い軌道は小鬼を射抜き続ける。
そして、新たに一本、今度はウメに魔法が降り注いだ。二人は地面に突っ伏す。
「目視で照準を定めてるってことかぁ……?巫女、ツバキ!柱の陰に隠れろ!」
「でもっ、貴方達……!」
「あっしらのことは放っとけ!早く、世界樹のところに向かえよ!世界樹は強いけど、何が起こるか分からんだろ!」
いつの間にか、フキは忽然と姿を消していた。ルティナもいない。エイデンのところへ向かったようだ。
胸の内を焦りが支配する。
「……巫女さん、行って。詠唱しているやつは僕が倒す」
フキの言葉に、無茶だ、と思った。狐は戦闘種族ではない。
しかし、渋る私の背中を押すように。
「『空間ずらし!』」
ツバキが唱えた。
幻によって空間がぐにゃりと曲がる。すると、ウメと小鬼に注いでいた白い軌道が逸れた。
魔法の呪縛から逃れた二人は―—ツバキに引っ張られ、柱の陰に滑り込む。
「巫女さん、うちなら敵の目を欺ける!何も心配せんで!」
ツバキは、真剣な眼差しで見つめてくる。
私は―—迷いを振り切り、駆け出した。
屋敷の外から轟音が聞こえてくる。
私は祈る。
「エイデン、無事でいて……!」
読んでいただきありがとうございます。
皆の年齢公開タイム
巫女:19 エイデン:18 小鬼:12 ツバキ:17 ミタマ:26 ウメ:22 フキ:22
ルティナ:14 村長:36 モスアトマ:245 (人間換算)
小鬼の年齢を当てられた方は、今日はとてもよく眠れるでしょう




