異種族との初外交
「……で、このダークエルフ?の嬢ちゃんは何なん?エイデンさんの隠し子?」
「なぜわしの子と真っ先に考えつく。こいつはそもそも……」
「エイデンっ、ぼくの知らぬ間にどこの馬の骨としれない娘と駆け落ちしていたなんて……お母さん悲しいですよ」
「見損なったわ」
「こら小鬼も巫女も悪ノリするでない!」
一気に喧しくなる和室の隅で、ダークエルフの少女……ルティナだけが静かに正座していた。
さっきまで世界樹を倒すと息巻いていた彼女だが、今はぐったりとしている。
なぜなら。
「なぁフキ、この嬢ちゃんはどんな簪が似合うと思う?」
「ウメ……まずこっちの打掛が先……」
狐の大工、ウメとフキによって着せ替え人形にされているからだ。
もう何十枚目になるかも分からない着物を着させられたルティナは倒れ込む。
「恐ろしい……これも作戦のうち?童に精神攻撃を仕掛けるなんて……」
「貴方その割には喜んで付いてきたわよね」
「う……温泉には入りたい」
私は、ナメクジのようになっているルティナをつつく。こうして見ると、ただのあどけない子供みたいだ。
「巫女、このご飯食べさせて」
「もう、折角エイデンから採れた山菜で作ったのに……って、あ!」
「世界樹、覚悟!!」
「おい箸で攻撃するな箸で!行儀が悪いぞ!」
私が差し出したご飯にかぶりついた途端、箸を奪い、エイデンに突っ込んでいくルティナ。
そして蔓で巻かれたダークエルフが出来上がる。
いとも簡単にいなされたルティナは畳を転がっていく。
「ここは話し合いの場よ。一旦席についてくれるかしら、ルナティック?」
「だから童はルティナ……まぁいいや」
私は居ずまいを正し、大きく息を吸う。
私の交渉次第で、ダークエルフと衝突するかしないかが決まってしまう。
それでも泣き言は言っていられない。
これは私が呼び寄せた終末なのだから。
「まず一つ。呪われた世界樹を剪定するとか言っていたけれど、真の目的は何?きっと理由は、信念、だけじゃないわよね」
「……言うと思う?」
「あのね、うちの国の捕虜に対する扱いは破格よ?おもてなしまでして」
「恩を売ろうというのか、無駄なことだ。童はいつだって里のために殉ずる覚悟が――」
「またくすぐるわよ。今度はモスアトマで三倍増し」
「ちょっとだけ!ちょっとだけ話すから!」
「待て俺はこのためだけに呼ばれたのかよ」
異を唱える毛玉をモフりつつ、私はルティナに話を促す。ルティナは少し躊躇ってから、
「……今、世界中で魔物が活発化している。いまだかつてないほどに。皆はそれを呪いのせいだと言うんだ。世界樹か何かが呪いを受けて、それで魔物が大量発生してしまったんだって。だから、私たちは他の人々を助けようと……」
「嘘ですね」
その時、小鬼が話に切り込んだ。
「な、何が?全部本当のこと……」
「小鬼さん、どうしたん?私には何が何やらさっぱり分からんけど……」
「とぼけるな、っと失礼、とぼけないでください、ダークエルフ。あなたたちに他種族を思いやる心などないでしょう」
「そんな言い方は――」
険しい表情を崩さず、小鬼は一枚の紙を取り出す。
「これ、あなたのでしょう?」
「っ!?い、いつの間に……」
「あなたがエイデンさんに気を取られている隙に盗みました。よっぽど大事なものみたいですね」
「何、それ?」
青ざめるルティナの傍から顔を出し、その書状に目を通してみる。
そこには。
『勅令。呪われた世界樹を倒し、ダークエルフの名を知らしめろ』
……エルフ語で書かれているが、巫女として異国の言語を嗜んでいた私なら分かる。
これは、ダークエルフの長老が託したものだ。
ルティナはバツが悪そうに俯く。
「……そういう訳。ごめんなさい」
「ふーん、名誉のために世界樹を刈ろうとしていたってこと?」
「名誉……いや、正確にはダークエルフとエルフの立ち位置を逆転させるためだ。今、ダークエルフは非常に厳しい状況にいる。エルフの奴らに追いやられて、洞窟で暮らすことしか敵わない。皆、それに腹が立っている」
どうやら、彼女たちは世界樹を倒したという功績を手に入れ、エルフたちの鼻を明かしたいらしい。
つまり、エイデンは生贄。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
人を、世界樹の命を何と思っている。
誰かが死んで、誰かが幸せになる。それで皆ハッピー?
そんなこと、絶対に認められない。
「巫女、どーどー」
「どーどー、じゃないわよ!貴方、自分がダークエルフの食い物にされようとしたって分かってる!?」
「こんなのままあることじゃ。わしの母もそうじゃと話したろ?」
「でも……っ」
「種族と種族の間にいざこざはつきものじゃ。気にしていてはキリがない」
矛を収めよ、と窘められ、仕方なく引き下がる。
危ない。怒りのままに自ら交渉の場を壊してしまうところだった。
エイデンは身の丈以上の圧を放ち、ルティナに問いかける。
「お主、ダークエルフは洞窟暮らしが嫌なんじゃな?」
「ざっくりいえば……そう」
「なら、話は簡単じゃ」
エイデンが次に微笑みかけたのは、ウメとフキ。
「ここに良い家を作ってくれる者がいる」
「……は?」
そして。
「ルティナの奴はまだ帰ってこないのかぁ。ねぇ俺行っていい!?いいよね!?」
「血気、盛ん。フォルのそういうとこ、良くないよ」
「はいはい詠唱士はお高くとまっちゃって……だってさ、ほら、世界樹だぜ!?わくわくするよな!」
終末は、終わりではない。
読んでいただきありがとうございます。
そういえば巫女の名前出てきていない……巫女に名前はあるのか……とお思いの方。一応あります。紹介していないだけです。名無し主人公。




