拠点お披露目 後編
「これが中……!?うそっ、ここが家になるの!?下手すれば社殿より広いわよ……!」
「うむ……わしも本体でくつろげるかのぅ」
「やめてくださいよねエイデンさん、樹の姿をとるのは。落ち葉の片づけとか大変ですからねー」
「そういう問題……?あとエイデンそれ、本当の姿じゃなかったの!?」
屋敷の中に入ると、だだっ広い畳張りの床が広がっていた。遠くにぽつんと階段があるだけで、家具や仕切りなどは何もない。
「心配いらない、今から装飾するぜ。何か欲しい設備とかあるか?」
「それなら、和室と台所が欲しい!」
「ばっかその前にまず風呂じゃろ!?あと植物園!」
「ちょっとエイデンさん、スペース考えてくださいよ。あ、ぼくは図書館が欲しいです」
「とりあえず植物園と図書館は却下な。じゃあ、創っていくぞ」
「ああわしたちの夢がー!!!」
「それは家の外に建てればええんやない……?」
狐の大工たちは『創造魔法』と幻術を組み合わせ、内装を紡ぎ出していく。
それはまさしく理想の家。
日が沈むころには、障子や襖を含め、暮らしに必要なものはあらかた整った。
モスアトマを枕に寝ていたので途中経過は分からないが、起きた時には目が醒めるような光景が広がっていた。
「よし……。できたよ、お家……」
「ようやっとだぜ、これが狐たちからの感謝のしるしだ!遠慮なく受け取ってくれ!」
大工二人はそう言い放つ。
私は逸る気持ちを抑えられず、謙虚さをかなぐり捨て新居へ踏み入る。
「ありがとうっ、わーい、一番乗り!」
「あ、ずるいぞお主!そこはわしが先じゃろ!」
「ここが台所かしら……って、かまど!かまど付いている!」
「こっちには高い掛け軸がありますよ!しかもっ、金箔入りの障子ですよ!金!」
初めて都会を目にしたお上りさんのように、各々がはしゃぎまくる。だって、スケールがおかしいのだ。
台所は宮廷でも通用しそうな仕様だし、和室や廊下なんかは贅を尽くしたシロモノで溢れかえっているし。
そこで、エイデンの保護者を自称する小鬼が咳払いした。
「皆さん、騒ぎ過ぎです。ちょっと止まってくださいよ。そう、止まって、そのまま……よしっ、角部屋はぼくのものですー!はは間抜けめ!」
「あっ待て!抜け駆けは許さんぞ!角部屋はわしのもんじゃ!」
廊下を走っていくエイデンと小鬼。私は冷静になって、ツバキと共に呆れかえる。
「あいつら元気ね……。一緒になって騒いでたのが馬鹿らしくなってきた」
「あはは……。賑やかでいいやん」
「ツバキ、貴方は自分の部屋決めた?私はどこでもいいけど」
「えっ?うちもここに住むん?」
ツバキは少し戸惑っていたが、それから嬉しそうに笑った。尾が左右に振れている。
「……じゃあ、死の地住み込みの給仕になっていい?」
「給仕は外しなさい」
と、私たちの会話を聞いていたウメが、満足そうに頷いた。
「ははっ、あっし達は何十人でも住めるようにこの家を作ったからな!なあフキ!」
「そう……。頑張りすぎた……。もうすぐ尾が干からびそう……」
「じゃっ、あっしたちもひと風呂浴びてっていいか?汗だくになっちまってよ!」
断る理由はむろん、どこにもなかった。
「風呂は檜にしたんだが……どうだ?」
「いいわね、香りも上等で」
「うひゃあっ、ちゃんとお湯や!再現度高っ!」
屋敷の奥に設けられた風呂場は、もはやちょっとした銭湯だ。
釜風呂の板を踏むツバキは歓喜の声を上げる。桶や浴槽、床は何から何までヒノキ。
魔法と幻でこんな正確に表現できるのか、と感心しながら風呂に浸かる。
何年ぶりだろう。
こうやって疲れが解けていく感じを味わうのは。
「ああ……。最高……。一生こうしていたい……」
「巫女さんは倭村の出身、だったか?さすが、慣れてんな。エルフの集落とかはみんな潔癖だから一人一つずつ風呂を作ってやんなきゃいけねぇんだ。しかもあいつら、狐人を獣にしか見てねぇ」
「エルフは世界樹には敬意を示すっていうけど……。霊石無くても魔法を使えるものね、あの人たち……。羨ましいわ……」
「使いたい魔法とかあるん?巫女さんは」
「うーん……食べても太らない魔法かな」
私はツバキとウメの間で視線を往復させる。
今は琥珀色の湯で隠れて見えないが、二人ともすらりとしていて、なめらかな曲線を描いているというか……。私は水面で泡を吹く。
「私は、神社にいた頃は毎日滝行してたのに……。ここに滝がないのが悪いんだ……」
「?大丈夫や、巫女装束はあんま体型分からへんよ!」
「フォローになってないわよそれ……」
若干心を抉られた私は、ガラス越しに外を見やって、気付いた。
「あれ?外に露天風呂あるじゃない」
「ああ、それか。いやー、それはな、まだ作りかけなんだ。草木を植えらんなくてな、それじゃ景観が良くねぇだろ?」
「草木を植えられない……?」
「ん、だって『死の地』だろ?ここ?呪われてるから植物育たないじゃねぇか?」
紅髪をかき上げるウメは、さも当然といったふうにそう言う。
――そういえば、屋敷周辺の呪いを浄化していない。
浄化しなければ、だが浄化したら終末が、なら少し待った方が――と懊悩する。
「うーん、どうしよう、開拓が進歩したばかりだから気が進まないわね……」
「なんや、痩せる魔法のこと?」
そうじゃない、ツバキ。
その頃、男子風呂では。
「いやー、風呂に入りながらの温泉卵は最高ですー、あ、フキさんも食べます?」
「僕は……良いよ……お風呂に入れるだけで……満足」
「わっフキさんが溶けそう」
水泳すらできそうな広さの湯舟には、小鬼と狐が二人。
世界樹の姿はない。
「……あの、世界樹様だっけ、は……?」
「なんか一人で入りたいそうですよ。ふやけた姿を見られたくないとかなんとかって」
そして、屋敷の庭には一人の世界樹の姿があった。
その神聖な美貌の持ち主は夕暮れの空を見上げている。
着物の袖をまくり、細い腕を露わにしながら。
黒い痣が刻まれた、骨ばった腕を。
「ふむ……。悠長にしてもいられない、かのぅ……」
世界樹は、自問自答するように呟く。
巫女と同じように、大地の脈動を感じながら。
読んでいただきありがとうございます。
今回は比較的ゆるい回になります。スローライフを描いている(つもりの)くせにすぐに戦いを挟みたくなる作者ですので、案外終末は近いかもしれません。




