哀しみは反撃の炎を呼ぶ
大火が上がった。
その炎は、一瞬で巨大な狐を呑み込んだ。
「……は」
炎は狐を焼き尽くすのではなく、ただ包みこむだけ。それでも、狐は汚い咆哮を散らしながらのたうち回る。
都合のいい幻を見ている?
私は、狐に喰われる寸前だったのに――
「巫女さん!無事!?何やこいつ!」
――なんて思考を吹き飛ばす、明るいソプラノボイスが響いた。
声の主は、猫の耳を揺らし、狐の尾を振る少女だった。
「ツバキ!良かった、起きたのね!」
「うん、むしろ呪いを受ける前より調子良いんよ!で、この敵は?」
「頭のネジが吹っ飛んでしまった村長です」
そこで、飛び跳ねていたツバキの動きが止まった。それから、瞳に瞋恚を宿し、村長を睨み付ける。
「下剋上や。s火が上がった。
その炎は、一瞬で巨大な狐を呑み込んだ。
「……は」
炎は狐を焼き尽くすのではなく、ただ包みこむだけ。それでも、狐は汚い歩行を散らしながらのたうち回る。
都合のいい幻を見ている?
私は、狐に喰われる寸前だったのに――
「巫女さん!無事!?何やこいつ!」
――なんて思考を吹き飛ばす、明るいソプラノボイスが響いた。
声の主は、猫の耳を揺らし、狐の尾を振る少女だった。
「ツバキ!良かった、起きたのね!」
「うん、むしろ呪いを受ける前より調子良いんよ!で、この敵は?」
「頭のネジが吹っ飛んでしまった村長です」
そこで、飛び跳ねていたツバキの動きが止まった。それから、瞳に瞋恚を宿し、村長を睨み付ける。
「下剋上や。散々馬鹿にしてきた半化けに倒されたら、あんたはどんな気分になるやろな」
感情の昂りを表すように、ツバキの桃髪が真紅に染まっていく。彼女の細身の体から立ち上る炎は膨らみ続け――木の天辺にまで伸びていく。
「巫女さん、うちを使ってくれへん?」
「分かったわ、でも一つ約束」
「?」
私は、徐々に炎に変貌していくツバキの尾を握りながら、願う。
「貴方にとってこの村は、最低最悪で思い出したくもないのかもしれないけれど。いつか道に迷った時は、導が必要になる。だから、酷だとしてもこの村のことを忘れないであげて。覚えていてあげて」
それが終末巫女からの条件、と付け加える。
ツバキは、その言葉を噛み締めるようにゆっくりお頷き――炎と化す。
私は、松明を掲げるように、炎の剣の切っ先を向ける。
「ウェルダンにしてやるわ。—―『狐火』」
開戦。
炎と爪牙が交差する。
私は水平に薙がれた腕を避け、狐の真正面に躍り出る。
そして一閃。上等な毛並みをアフロにしてやる、と炎を放つ。
――放ったはいいものの、炎は狐の胸に触れた瞬間霧散した。
思わず舌を弾く。
「硬っ……さっきは通じたのに」
「駄目ですよ!幻は順応されちゃうんですから!無効判定です!」
「はあ!?もうっ、巫女が剣士やるってだけでも前代未聞なのに……」
しかし文句を言っていても何も始まらない。
私は突進してくる狐を上手い具合にいなしつつ、ツバキに呼びかける。
……てかさっきから思っていたけれど、私戦闘職の素質があるのでは?
「ツバキ、火力をもっと上げられる?」
「頑張れば……いや頑張るしかないんやけど!」
尾から噴き出す炎が黄色に染まっていく。私ですら焼け焦げそうなほど、熱い。
――順応されるなら、それを上回る火力と速度をぶつければいい。
脳筋的な考えで、こちらに飛びかかってくる狐へと――真っ直ぐに駆け出す。
「み、巫女さん!?そんな武士道精神なくてええから――」
剣から抗議の声が上がる。きっと気のせい。
狐と衝突する寸前で、私は横に逸れ――溜めを作り出す。
それから、思いっきり振るう。
こう、三枚おろしにするように、一直線に。
「燃えろ」
炎が爆ぜる。
やっとまともな手応えがあった。
「燃えろ」
さらに温度上昇。
膨れる炎は、天井を知らない。
「燃えろ」
爆発。
狐の方向が途切れ途切れに聞こえる。
「燃えろ」
燃えろ。
このまま、終末も灰になってしまえばいいのに。
だから。
「燃えろ――――――!」
止めにと、狐の脳天に剣を振り下ろす。
猛攻に遭っていた狐は身動きが取れない。つまり躱す術はない!
が。
いつまで経っても、硬い感触はしなかった。
「巫女さん!そいつは幻です!後ろー!」
振り返って、ようやく気付く。
体中に火傷を負ってもなお、突っ込んでくる狐がいることに。
普通なら、絶望に顔を歪めるだろう。
けれど、私は違った。
私は、笑っていた。
「ミタマ、お願い!」
終末に立ち向かう仲間のことを、信じていたから。
「了解です――『蜃気楼』」
狐の牙が私を抉る。
ただしそれは――煙になって消える。
本物の私は、もう狐の背後に回っている。
それが、化かし合いの真骨頂。
今度こそ、外さない。
ツバキたち稲荷村の狐の憎しみを、ありったけぶつける。
「燃え、ろ―――――————————————!!」
炎が渦を巻いて狐に襲いかかる。
青白い光が迸る。
私も村長も、ツバキが生み出す炎に包まれていく。
――なんて、温かい炎だろう。
視界の全てが白に染まっていく中で、私はそう思った。
読んでいただきありがとうございます。
やっとこさ九尾の村編の終わりが見えてきました。早く領地に戻りたい……!麦を売るだけのつもりがこんなに長くなってしまいました。なんでだろ。




