宴たけなわ、そして世界樹との誓い
狐の幻でできた楼閣。そこに招かれた私たちは、宴会場で夕食を取っていた。
「何じゃこれは……上等な鉢植えじゃな」
「お盆ね。エイデン、いくら菜食主義者だからって残すのはなしよ?折角出されたんだから」
「いらないならぼくがもらいます。やったー、魚の煮つけゲット」
宴会場は大勢の狐でごった返していた。楼閣に住まう狐達だろうか。皆がそろって膳を寄せ合い、老若男女入り乱れてどんちゃん騒ぎを繰り広げている。中には腹踊りをしている男の狐もいた。
「腹芸……ああ、とても懐かしいわ」
「おい、それで良いのか?それで故郷の思い出に浸れるのか?」
「うるさいわねー、倭村では祭りのたびに見てたのよ。腹芸を」
「うーむ、悪い文化まで伝わっとらんか……」
エイデンにはもう、倭村の文化が故郷から伝わったものであることは明かしている。宴に参加する前に。
何はともあれ、和食をでできた楼閣。そこに招かれた私たちは、宴会場で夕食を取っていた。
「何じゃこれは……上等な鉢植えじゃな」
「お盆ね。エイデン、いくら菜食主義者だからって残すのはなしよ?折角出されたんだから」
「いらないならぼくがもらいます。やったー、魚の煮つけゲット」
宴会場は大勢の狐でごった返していた。楼閣に住まう狐達だろうか。皆がそろって膳を寄せ合い、老若男女入り乱れてどんちゃん騒ぎを繰り広げている。中には腹踊りをしている男の狐もいた。
「腹芸……ああ、とても懐かしいわ」
「おい、それで良いのか?それで故郷の思い出に浸れるのか?」
「うるさいわねー、倭村では祭りのたびに見てたのよ。腹芸を」
「うーむ、悪い文化まで伝わっとらんか……」
エイデンにはもう、倭村の文化が故郷から伝わったものであることは明かしている。宴に参加する前に。
それはさておき、和食を味わうのはとても久々だった。宴会の熱気に包まれるのも。
「うっ、うち、半化けだから無理やー!てか、やかんに化けるのって狸やん!」
「はっはっはっ、嬢ちゃん、狐と狸の違いなんて男を誘惑できるかできないかさ。ほらレッツ狐ー、って君元々狐だったね。うはははは」
「絶対酔ってるやんー!そんなキャラやったかあんた!?わー日本酒すすめてこないでぇ!?」
少し離れたところでは、悪酔い中のミタマと困り果てた様子のツバキが仲良くはしゃいでいる。狐は酒で正体を現すと聞いたことがあるけれど、本当らしい。
「未成年に酒を飲まそうとするなんてけしからんことですねー。ぼく止めてきます」
「日本酒が欲しいだけじゃろ。お主こそまだ子供じゃろうが」
「世界樹はお堅くて嫌ですねー。幹も頭も硬い—。流石生きた化石ー」
「わし最近成人したばかりじゃよ!まだまだ現役じゃ!」
小鬼は煽りながらも、意気揚々と狐たちに乱入しに行った。衝撃的な発言を残して。
エイデンが成人したばかり……?ということは……?
「うそっ、18才なの!?じゃあ貴方の威厳はハリボテだったってこと!?老人口調もエセ!?私っ、てっきり千歳とかだと思ってたのに……!」
「何を今更。わしは世界樹の中ではまだまだ若木じゃよ」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。18……?しかも、私より一つ年下……?脳が拒絶反応を起こしている。いやいや、認められない。私が「死の地」で一番の年長者だなんて……。
打ちひしがれる私を他所に、エイデンは呟く。
「いいのぅ、ここは賑やかで。わしらの国もこうなったら良いんじゃが」
その横顔は、何故か憂いをたたえていた。はっと胸を突かれる。
「もっと、死の地を……繫栄させるってこと?」
「そうなるの、ただ浄化するだけじゃつまらんじゃろ?」
土地を浄化し、居場所を作った後の……先のこと。考えたこともなかった。
小鉢をつまむ箸を止め、エイデンを真っ直ぐに見つめる。
「でも……浄化したら終末が来るじゃない。その時に危険な目に遭う人が増えちゃうわよ?」
「それなら、終末ごときに負けないような人々を集めればよい。わしがいる限り大丈夫じゃって、前にも言ったじゃろ。それにの」
エイデンはカール気味の翠髪を揺らし、少年のように目を輝かせる。そして。
「人が増えたら、お主の故郷を蘇らせることができるかもしれん」
故郷を、蘇らせる。
その言葉は、やけに反響して聞こえた。
何を言っているのだろう、という思いが二割。できるわけない、という思いが三割。
残りの半分は、かすかな期待だった。
「そんなこと、できるの?」
呆然と呟く。
世界樹は――安心させるように、快活に笑った。
「仮にも、稲荷村ができているくらいなんじゃ。誰よりも故郷のことを知っているお主が、蘇らせられないはずがない」
どうしようもない、未来への展望が目の前に広がっている。
私が終末をもたらした故郷を、私の手で蘇らせる?
なんて荒唐無稽。なんて身の程知らず。世にも可笑しい話。
けれど――首を振ることは、できなかった。
「わ、わたし……」
頭に浮かんでくるのは、琴の旋律。ミタマが弾いてくれた、故郷の唄。私は鮮明にその音を覚えている。
この宴だってそうだ。私が滅ぼしてしまう前の、故郷の当たり前の光景だった。
……きつく締めていたはずの思い出の蓋は、とっくに緩んでいた。
そうだ、私は。
「私……巫女であることは、嫌だったけれど、故郷は、大好きだった」
そう、途切れ途切れに心中を吐露すると――世界樹は鷹揚に頷いた。
「なら、『死の地』に故郷を蘇らせよう。そして、誰からも認められる王国を作るんじゃ!」
絵空事ではない。絵空事になんかさせない。
私は、終末をもたらすだけの存在なんかじゃない。
「ええ、巫女と世界樹の名に懸けて」
傍らの給仕狐から差し出された杯を受け取り、エイデンにも手渡す。
それは、ささやかな誓いの儀式。
「「乾杯」」
カチン、と小気味の良い音が響く。私とエイデンは同時に酒に口を付ける。そこで、ふと気付いた。
……あれ?樹に酒を分解する働きってあったっけ?
「ちょ、わし、酒は……」
「エイデンー!?」
蒼白になったエイデンは、ばたんと倒れ込む。そして宴会場のざわめきが大きくなっていく。
世界樹は、下戸だった。
――稲荷村から帰ってきた商人は、こうも言った。
――「あの村の霊石は恐ろしい。あそこの霊石が、村を惑わしている元凶だ」と。
……手記『世界現身鏡』より
読んでいただきありがとうございます。
世界樹なのに菜食主義者のエイデンさん。食虫植物かな?
もうお気づきかと思いますが、作者は植物をこよなく愛しています。




